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柳家さん喬独演会 [上映中飲食禁止]

映画好きですが、実は落語も好きです[わーい(嬉しい顔)] 江戸歴史に嵌って最近、更に拍車がかかった。

熱狂的なマニアではないが、知り合いが興行関係の為、寄席にはよく顔を出す。元々の寄席とは、芸人達の顔見世であり、お客衆の中から指名で別座敷に呼ばれるよう、限られた時間で自分を売り込む場所なのである。所謂、パトロンを摑まえる座だ。

現在は、その風習は影を潜めたが、短時間で芸人が入れ替わるスタイルは今も続いている。大半は落語家だが、合間に漫才、曲芸、手品に紙切りなど、今やTVでは正月にしか顔を出さないような天然記念物的な芸人達が、目の前で珠玉[exclamation&question]の芸妓を繰り広げる様は感動的だ。また、落語家は、持ち時間が10〜15分の為、大ネタを披露する訳には行かず、枕(雑談)だけで放送禁止ワード連発の末、爆笑を誘って去る者もおり、このユルユル感がまた堪らなく楽しいのだ。そんな中でも「名人」と呼ばれるような噺家の凄さを垣間見る時も少なくない。

柳家さん喬』は、個人的にはその筆頭株である。そもそもは、認知症の母が健常だった頃のイチ押しであり、同じ下町育ちの同郷心も手伝って、彼の出演時の寄席を狙って通ったものだった。先月、浅草演芸ホールで久しぶりに彼の勇姿と名技を目の当たりにした。当日偶然、若手の真打昇進披露目だったが、その媒酌人としての口上の柔らかくも力強い語り口。その後の古典落語の人物描写のきめ細やかさ。まさに芸術であった[ぴかぴか(新しい)]

その彼の独演会が近場で催されると知り、一目散に駆けつけた。

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こんな名人が、我が下町の小劇場に来てくれるだけで感謝である。300名程のホールだが、コロナ仕様により半分満席〜実質満員御礼である。

寄席や複数の噺家が出演する「◯人会」などは何度か聴いたが、独演会は初めてなのだ。期待は膨らむ。弟子が前座でサラリと会場の笑いを誘うと、早くも師匠登場だ。

前座の不出来を暖かくあげつらいながら、コロナ禍での来場の観客への感謝を語る。持ち前の優しい語り口でありながら良く通る声質が会場に響く。

最初の演目は「夢の酒」だ。

落語の巧拙で一番分かり易いのは、人物描写だ。多くの登場人物を演じ分けた者だけが、噺に命を吹き込める。よくある出来の悪い熊さん、八っさんから、利口な旦那さん、堅物な侍、真面目な女房から色香溢れる花魁まで、一人で演じ分ける。3、4人の老若男女の会話が同時に飛び交う場面などを自然に表現するのは、まさに話術の極みである。

小雨降る花街に迷い込み、お茶屋に引き込まれ、絶世の美女の接待を受け、浮気しそうになった夢を見たことを、不覚にも女房に話してしまう若旦那。悋気を起こした女房は、義父に涙ながらに相談し、その美女に会って、亭主を誘惑しないように窘めてきて欲しいと頼む。困った義父だったが、うたた寝をするやいなや、そこは嫁に聞いていたお茶屋の中ではないか、果たして絶世の美女が現れ...

さん喬師匠の名技が光る!夢の中とはいえ、亭主の不貞にメラメラと嫉妬の炎を燃やす妻の姿が目に浮かぶ。いじらしくも男にとっては迷惑な一途さに頬が自然と緩んでしまう。凄い[どんっ(衝撃)]

洒落たオチの後、そのまま雑談へ。前座時代に出会った名匠・8代目桂文楽との思い出話に花が咲く。そして次の演題は、有名な「明烏」だ。

堅物すぎる息子に嘆く父親が、社会勉強にと、近所の遊び人共に頼み、吉原に騙して連れて行かせる廓噺の名作である。

多くの落語家で、何度も聴いていた噺が、師匠の手に掛かると、味わい深い笑いに変わる。過剰な表現で爆笑を呼ぶパターンが多いのだが、彼が演じると、あまりにも自然でリアル。笑いがジワっと押し寄せて来る稀有な語り口なのだ。

ここで中入り。休憩を挟んで、最後の演目は「浜野矩随(はまののりゆき)」。前の2作とは違い人情噺だ。小生は初めて聴くネタだ。

名工と誉れ高き父を持つ彫金家・浜野矩随は、仕事にも生活にも大した志を持たず、父没後は、適当な作品を馴染みの道具屋に物乞い同然に引き取ってもらい、僅かな金子で母と二人で無為な日々を送っていた。ついに道具屋の旦那から三行半を突きつけられ、生活の糧を失った彼は死ぬしかないと開き直るが、母は「死んでもいいが、形見代わりに最後に彫ってくれ」と頼む。彼が初めて死に物狂いで彫った観音様は出色の出来で会った。母は「これを再度、道具屋に持ち込み、高い値で引き取らねば首を縊れ」と言い、水盃を酌み交わし、息子を送り出すので会った...

さん喬の本領発揮、まさに名人芸だった。落語は、オチのある滑稽噺と思われがちだが、人情噺・怪談噺も含めた話芸の総称である。親子の情、特に子を想う母の気持ちを切々と表現する匠の技。大笑いに来たはずが、とうに忘れて、話にグイグイと引き込まれてしまった。さん喬師匠の登場人物の描写の凄さは、特に年増女性を演じると際立つような気がする。そこに、本当にオバさんがいるのだから。

初の独演会を堪能した。

人間国宝=重要無形文化財に落語家が選出される理由を、今更ながら再認識した。落語は、日本伝統の芸能なのだ。江戸時代中期から綿々と続く話芸は、令和の現代でも日本人の心を映し出す浮世絵なのかもしれない。描き方は十人十色、観る者の好みも千差万別。されど、本物は多くの人の心を震わす。

暫くは、この伝統芸能に嵌ってみようかなと思う。



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yuzman1953

聞くだけでも目の前に情景が浮かぶ落語の面白さに感心しました。
日本の伝統芸能が名人たちによって末永く継承されることを願います。
by yuzman1953 (2020-10-01 15:11) 

つむじかぜ

またお笑いブームのようで、若手の漫才師がTVに引っ張りだこですね。結構、上手いメンバーも出てきましたが、その原点は、そんなボケとツッコミを一人で話術のみで行うのが落語なんですよね。もっと盛り上げて頂きたいです。
by つむじかぜ (2020-10-05 02:20) 

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