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『浅田家!』 [上映中飲食禁止]

押し付けがましくなく、さらりと琴線に触れてくる佳作である。






昔のアルバムをひっくり返しながら、我が家の家族写真には、ほとんど自分が写っていない事に気付く。私自身がシャッターを切っているから当然だ。家長不在の写真は不完全に見えるかもしれないが、プリントの中の微笑む妻と子供達の瞳には私の姿がしっかりと写っている。まさしくこれは「家族写真」なのだ。

家族を被写体にした卒業制作が高評価を得た浅田政志(二宮和也)は、専門学校卒業後、さまざまな状況を設定して両親、兄と共にコスプレした姿を収めた家族写真を撮影した写真集「浅田家」を出版し、脚光を浴びる。やがてプロの写真家として歩み始めるが、写真を撮ることの意味を模索するうちに撮れなくなってしまう。そんなとき、東日本大震災が発生する。(シネマトゥデイより)

専業主夫の父、働き者の母、生真面目な長男、そして風変わりな次男坊。何処にでもいそうな4人家族されど唯一無二の4人家族を、芸達者な俳優陣が熱演し、実話を元にしたフィクションにリアリティを増幅させる。

知らぬ間に名優の仲間入りになっていた二宮和也が円熟の演技だ。「硫黄島からの手紙(2006年)」で、そこいらのアイドルとのレベルの差を見せつけた彼だったが、本作では大人の魅力満載である。とは言っても、苦味走った男ではなく、自堕落で半人前だが、トコトン優しい男を好演だ。このだらし無い行動予測不可の次男を常に見守る母親に風吹ジュン、なんだかんだで弟を助ける長男に妻夫木聡、次男を一番理解しているであろう父親に平田満。特に、「俺のDNAを引き継いじまったなぁ」的に次男に接する主夫・平田がいい味を出している。とにかく優しさに満ち溢れた家族なのだ。

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その父から譲られた「ニコンFE」を手に、写真家への道を志し家を出た政志だったが、結局、地元に戻りパチンコ三昧の日々。心機一転、プロを目指し、撮り貯めていたコスプレの家族写真を引っさげ、東京へ出るが、何処の出版社も取り合わない。結局、幼馴染の恋人・若菜(黒木華)のヒモ状態の生活に甘んじる。若菜に無理やり設営された写真展で、小さな出版社の編集長の目に止まり、政志の「家族写真」が漸く出版化される。商業的には、全く売れなかったが、写真界の芥川賞的存在である「木村伊兵衛賞」を奇跡の受賞。彼は、プロ写真家として日本中の家族を撮り歩く事となる。

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赤々舎の編集長役の池谷のぶえが素敵だ。「これ、面白いから本にしようよ」とノリで出版し、「想像以上に売れなかったねぇ」と笑って開き直る懐の深さを持つ、奇天烈な編集者との出会いがなければ、この映画自体も存在しなかった。写真に限らず、芸術家が世に出るには、彼らの才能を見出すパトロンなり強力な支持者との出会い無くして成り立たないのだ。存命中には不遇な生活を送り、死後に評価される芸術家は古今東西、推挙にいとまがない。その意味では、現在のネット世界は、芸術家にとって公平な作品発表の機会を与えられたと言って良い。一方で、アマチュアとプロの垣根を曖昧にもした訳でもあるのだが...

プロとして歩み始めた彼は、被写体である家族達が一番輝く瞬間をフイルムに焼き付けるべく、演出に腐心しながらも、魂を込めてシャッターを切り続ける。そして、仕事も軌道に乗り始めた頃、東日本大地震が起きる。政志は、以前に撮影した岩手県の家族の安否が気になり、被災地に向かうのだった。惨状を目の当たりにしながら、避難所を回るが家族の消息は掴めない。諦めかけて帰路に向かう時、津波に流された写真を回収し、汚れを落として家族に返却する作業をする青年(菅田将暉)と出会う。その作業に手伝う事になった政志は、写真の在るべき姿を自問する。そんな時、父親を亡くした少女から「家族写真を撮って!」と頼まれるのだが...

作品自体が心温まるヒューマンドラマだが、写真大好きローアマチュアの小生にとっては、写真のチカラを再認識する機会にもなった。映像と違い写真は、プリントという最終形になり、手に触れる事ができる。被写体から切り取った瞬間は永遠のモノとなるのだ。それは、人物・風景・静物に関わらずだ。その写真は、記録と呼ばれたり、芸術と崇められたりする。ただそこに、シャッターを切った人間の想いが伝わると、その写真は特別なモノになる。まさに家族写真がそうだ。たまに写真の神様がプレゼントをくれると感動の1枚が生まれたりする。突然現れた光と影や最高の笑顔達が揃った瞬間などだ。プロとは、この偶然を自力で呼び込む力を持った人だと小生は思うのだが。

最近、漫然とシャッターを切っているのを反省。昔は、フィルムがもったいないから、もっと真剣に1枚1枚を撮影していた気がする。デジタル慣れの弊害だな。作品内では、政志は2台のカメラを駆使している。アマ時代は父から譲られたニコンFE、プロデビュー後は中判のペンタックス67だ。やっぱりカメラは、ファインダーから目視し、息を止めてシャッターを切るんだよな[ぴかぴか(新しい)]

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中判かっこいいなぁ、たまにはフィルムカメラを使おうかなぁ〜でも引き伸ばし機は処分してしまったし...カメラ庫の奥にはライカM3とMamiya6×6が10年以上眠ったままだ[ふらふら] 元々は、レンジファインダー機で街角でのスナップ写真も好きだったけど、肖像権を気にしてからは、重たい一眼レフで花と神社仏閣ばかり撮っている。孫を被写体に、もう一回頑張るかな。


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ゆうみ

昨日この映画観てきました。
コロナ禍で 現場から遠ざかっており
これからまた現場での撮影が始まります。
心を押された気持ちとなりました。

by ゆうみ (2020-10-21 16:04) 

つむじかぜ

> ゆうみ 様
被写体としっかり向き合い、気持ちを込めてシャッターを切る!ですね^^
by つむじかぜ (2020-10-22 01:18) 

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