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『82年生まれ、キム・ジヨン』 [上映中飲食禁止]

韓国でベストセラーとなった小説の映画化だ。我が国ではあまり話題に上っていないが、古くからの社会規範に対し、静かにされど真っ向から立ち向かった素晴らしい作品である。

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近年、お隣韓国と我が国は仲がよろしくない。両国のトップが勘違いの愛国心を振りかざし、愚かな意地の張り合いをしたからに他ならない。持論を封じてでも国民の利益の為に外交を行うのが「政治家」なのだが、かの両名にはその資質が欠けていた。その意味では、日中国交回復を成した田中角栄と周恩来は真の政治家だった。この度、某国の宰相が、支持率が落ちると腹痛になる持病再発の為、戦線離脱した。新しいトップには是非ともマトモな「政治」を執ってもらいたいものだ。

当然の事ながら、日本と韓国は歴史的に強い結びつきがある。儒教に根ざした社会規範や慣習などには共通する部分も多い。最たるものは、家長制度・男尊女卑である。本作は、韓国社会に根強く残る差別問題を掘り起こしており、我が国としても対岸の火事ではない問題作であり、傑作ドラマなのだ。

結婚を機に仕事を辞めたジヨン(チョン・ユミ)は育児と家事に忙殺され、時に閉じ込められているような感覚に陥ることがあった。ある日、ジヨンは他人が乗り移ったかのような言動をするようになり、さらにその時の記憶は全くなくなっていた。夫のデヒョン(コン・ユ)はジヨンにその真実を告げることができずにいた。(シネマトゥデイより)

何はともあれ、主人公役チョン・ユミの魅力だ。今時の韓流スターとは一線を画した、我国で言うならば昭和美人である。ほぼ原作に近い1983年生まれの37歳だが、この透明感の維持は奇跡的だ。昭和の爺ィにとっては憧れの存在に近い[揺れるハート][揺れるハート][揺れるハート]

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この美人妻の羨ましい旦那役がコン・ユ。この組み合わせに何となく見覚えがあったのだが、衝撃の韓流ゾンビ映画『新感染 ファイナル・エクスプレス(2016年)』で共演済みであった。

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彼は敢え無くゾンビ化するが、妊婦役の彼女は最後まで生き残り、拍手喝采であったのを思い出す[手(チョキ)]今回は主客逆転、チョン・ユミが主役であり、コン・ユが脇役となる。今作は非常に重々しいテーマであり、展開が進むごとに観る者を鬱屈とした気分にさせてもおかしくないのだが、そうさせないのは、彼女の魅力か、小生の助平心か...[あせあせ(飛び散る汗)]

表面的には、心の病に苦しむ主婦の物語である...
デヒョンは、妻の異常に気が付き始めていた。普段は明るく振る舞うジョンが、突然、別人が乗り移ったような言動を起こすのだ。本人にはその自覚がなく、亭主はその症状を妻に伝える事に躊躇している。彼からは育児ノイローゼに見えるのだが、実はその病巣は非常に深く、それこそが本作の主題だ。

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ジヨンの幼少期に遡る。
働き者の父母と姉・弟に囲まれた、極めて韓国で標準的な家庭で幸せに成長する。だが、その過程で、幾度かの女性ならではの理不尽な扱いを受けるシーンが描かれる。小学生時に男の子から虐めれれ、教師に訴えるが「それは男の好意の表れ」だと取り合わない。予備校からの帰宅時にストーカーに付きまとわれ、父に助けを求めるが、「お前にスキがあるからだ」と叱られる。念願の会社に就職しても、父は「無理に外で働かずに、家にいればいいのに」と嘆く。
社会に出てからも、「女性は長く勤めないから」と重要な仕事は任せてくれない。そして優しい男性に巡り合い、結婚し、出産するが、結局は退職を余儀なくされる。

一連の出来事が、ジョンゆえの災難ではなく、韓国社会では当たり前の事象として刻々と描かれて行く。仕事に生きがいを感じていたジョンは、娘と楽しい時間を過ごしながらも、ふとした時に疎外感に苛まれ、次第と病が深まっていくのだ。
正月休みに亭主の実家で過ごす場面。日本でも良く見る風物詩だが、ジョンは体調の悪い中、姑に気を使い、寝ずにおせち料理を作る。亭主の妹家族が現れ、賑やかな会食の中、一人蚊帳の外の家長の嫁は、ついに他人が憑依し、暴言を吐いてしまう。

ジヨンの母は、デヒョンから娘の症状を聞かされ、衝撃を受ける。積もりに積もった怒りを涙ながらに夫にぶつける場面は、涙を誘う。「あなたは娘のことを何一つ分かっていない。分かろうとしなかった。息子のことしか考えていない!」妻の糾弾に慄いた夫は、娘に好物の差し入れをするが、それはジョンが好きなクリームパンではなくあんパンだった...まさにトドメだ。
心優しき夫・デヒョンは、ジヨンの心情を察し、育児休暇を取って、彼女を復職させようとするが、実母の反対に会い挫折する。彼は悩んだ挙句、妻を慮る優しさだけでは解決しない事に気付き、彼女と向き合い、「病気」について直言するのだった...果たして...

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ラストシーンは、その後の家族の再生を垣間見せる。
夫婦間の問題解決により表面上ハッピーエンドに見せるが、未だ韓国社会に重くのし掛かる性差別をかえって浮き彫りにさせたまま作品は終わるのだった。

法的には男女平等が謳われて久しいが、日韓共に「男尊女卑」の慣習が色濃く残っているのは明白だ。米国の人種差別問題同様、その国々の歴史文化によって長く熟成された慣習なり社会通念は、たかが1世紀足らずでは塗り変わらない。だが、次の世代に引き継ぐべき慣習か否かを取捨選択するのが、戦後生まれの我々の使命のような気に陥り、ふと孫の姿を思い浮かべながら我国の30年後を想うのだった。

多くの韓国女性の共感を生んだ作品だが、これは日韓の男こそが観るべきだと思う。

P.S.
「心の病」もガンと同じく早期発見により治癒の可能性が上がる。側にいる人間が早めに本人に自覚させ、専門医の治療を受けさせれば、「最悪の事態」は防げるはずだ。最近の哀しいニュースに触れる度に思ってしまう。
遥か昔の男の厄年に、鬱病を克服した小生が、いまだに愚妻に頭が上がらないのは、そんな事があったからだ。


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