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『孤狼の血 LEVEL2』 [上映中飲食禁止]

またも本年度日本アカデミー賞はこれで決まりか[exclamation&question]

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広島県警呉原東署刑事二課の日岡秀一(松坂桃李)は、マル暴の刑事・大上章吾に代わり、広島の裏社会を治めていた。しかし、上林組組長の上林成浩(鈴木亮平)が刑務所から戻ったことをきっかけに、保たれていた秩序が乱れ始める。上林の存在と暴力団の抗争や警察組織の闇、さらにはマスコミのリークによって、日岡は追い詰められていく。(シネマトゥデイより)

1作目を配信で観てからレビューしちょるけん。(広島弁になってしまった[あせあせ(飛び散る汗)]

前評判通りの「熱くさせる」映画だ。伝説の深作欣二『仁義なき戦いシリーズ』が約半世紀を経て復活した感あり。昭和爺いから平成青年まで楽しめる娯楽大作であり、今の邦画の素晴らしさが詰まった傑作だ。

何と言っても主要キャストの演技力だ。
最近の松坂桃李の活躍が目覚ましい(戸田恵梨香は男を立てる女性に違いない[黒ハート])が、今作で更に新しい境地に到達したと思われる。優柔不断・意志薄弱だが、唐突に「燃える男」に変身する役柄が似合うタイプで、実際、前作での役風もそれに近かった。ヤクザを裏で操る伝説の刑事・大上(役所広司)が非業の死を遂げ、彼の遺志を継いだ日岡が、今までの自分の価値観をかなぐり捨てて極道達に立ち向かったのが前作である。警察上層部の飼い犬が狼に生まれ変わった瞬間だった。模範的なエリート警官が狂気の世界に踏み込んでから3年が経過し、別人の如く変貌した日岡。

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3年前の好青年時
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圧力感とやさぐれ度がMAXである[がく~(落胆した顔)] 彼は心酔していた大上の手法を引き継ぎ、警察幹部の弱みを握りつつ暴力団を飼い馴らして行く。裏社会に便宜を敢えて図り、馴れ合いの関係を作り出すのだ。賄賂・裏金は当然に清濁併せ吞みながら、街の平穏に努めた。日岡の信念は、暴力団同士の抗争が一般人を巻き込む事を決して許さぬ、その為には手段を選ばない事であり、それが彼の『正義』なのだ。

そんな見せかけの平穏に刃を突きつけたのが上林だ。この狂気の漢を演じた鈴木亮平がまた凄まじかった。芸域の広さは衆目一致するところだが、刺青と褌がこれ程似合う男優は今の邦画界において彼に並ぶ男はいないかも知れない。彼が俳優として素晴らしいのは、仕事の選り好みをしない事だ。変態仮面から西郷隆盛、せかほしのMCまで、多岐に渡るキャラクターの体験が役者として血となり肉となっている。今作成功の立役者は、狂った極道を内面からも演じきった鈴木亮平と言っても過言では無い。

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8年前の肉体美そのまま
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7年ぶりに出所した上林が目の当たりにしたのは、腐りきった極道世界だった。親分を殺されても、日岡の懐柔で敵と手打ちにし、ビジネスマフィアとして暴利を貪る組の上層部にいきり立つ。そして親分殺害の手引きをした日岡への復讐を誓う。悪魔のように恐れられる上林の行動は、彼の信念というより本能によって導き出される。義理を立てるのは亡き五十子親分のみで、自分の仲間以外は全て敵であり、その生殺与奪に選択肢は無い。敵ならばその家族、友人も同類であり、戦国時代の罪人の一族郎党皆殺しと同義なのだ。それが彼の『正義』であり自分の『掟』だ。

兄貴分(寺島進)を惨殺し五十子会を乗っ取った上林は、上部機関の仁生会にも反旗を翻し、因縁の尾谷組との抗争が再燃する。抗争を止めるべく、上林逮捕に奔走する日岡だが、県警幹部(滝藤賢一)の妨害により事態は悪化する一方となる。信頼していた相棒(中村梅雀)までも遠藤の犬と知り、上林組に内偵として潜り込ませた家族同然の恋人の弟チンタ(村上虹郎)は無残な死を遂げる。孤立無援・満身創痍の日岡は単騎、小谷組に殴り込みをかけた上林との対決に臨むのであった。

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アウトロー刑事と狂った極道のタイマン勝負は当然のように命のやり取りとなる。互いの肉を削ぎ骨を軋ませ、相手の血しぶきを浴びる毎に、熾烈な殺し合いが次第にじゃれ合う兄弟喧嘩に見えてきたのは私だけであろうか。生き様も拠り所も全く違う二人が、生死の狭間で互いに共鳴するものを敵の魂に見た刹那、殺意が慈愛に変わる。「死にたくても、死ねねぇんだよ」と叫ぶ上林に日岡は最期の銃弾を叩きこむ...

極道映画の典型ではあるが、主役の日岡が徐々に追い詰められ孤立無援の状態で宿敵と対峙する過程を息もつかせぬスピードで描き切った演出が見事だ。更に、宿敵・上林にも強く光を当て、二人が抱える「正義と掟」を対比させ、この戦いのクライマックスを劇的に導いた。ここまでパワーと緊張感を持続した邦画は最近には無く、この迫力だけでも今年度の映画賞総ナメする勢いだ。2019年の前作同様、少なくとも日本アカデミー主演・助演男優賞は固いだろう。

だが個人的趣向からすると、作品の濃密度は前作には及ばない。役所広司の神憑り的な演技には「遊び」があった。張り詰めた中に適度にウイットを滲ませた演技が、映画全体の抑揚に繋がり、他の共演者の存在感も際立たせた。今作では、松坂・鈴木二人の演技が飛び抜けて激しく、描写される人物バランスが崩れ過ぎだ。前作が直木賞候補小説を原作にしたものに対し、今作は映画用に書き足されたオリジナルストーリーゆえの文学的な深みの差か、はたまた脚本かキャスティングの破綻か。何と言っても女優陣が弱い。日岡の恋人役として、貯杉先生こと元乃木坂・西野七瀬が熱演している。小生も好みのタイプではあるのだが、前作の真木よう子、阿部順子と比べれば、残念ながら俳優レベルが違う、色気が違う、荷が重過ぎた。同士の痺れる作品だからこそ、オンナの存在が大事なのだ。筧美和子も宮崎美子も出番少なく、かたせ梨乃姐さんが少々頑張っていたけど...
 
でも可愛いです[揺れるハート]
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前作を配信で見直したおかげで2作の違いが見えてきた。これは絶対に2作セットで観るべき映画である[exclamation×2] 昭和から平成に至る漢たちの変わらず引き継がれた魂の叫びにドップリ浸れること間違いなし[むかっ(怒り)] ラストシーン〜地方の派出所勤務になった日岡が山狩りに駆り出され、偶然に絶滅したはずのニホンオオカミと遭遇する。それは、鏡に写った自分の姿か、慕い続ける大上の魂か、はたまたまだ下界で彷徨う上林の亡霊か...


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コメント 4

Labyrinth

いつもながらの筆の冴え…! 素晴らしいです♪ (^_-)-☆
“2作セットで観るべき映画”  はい! ( ..)φ メモメモ
心して観てみます。時期はズレるかもしれませぬが…?(汗)
by Labyrinth (2021-08-26 11:11) 

JUNKO

なんだか24を連想しました。
by JUNKO (2021-08-26 12:27) 

つむじかぜ

> Labyrinth 様
お褒めに預かり光栄です^^;
観るのにパワーが必要な作品ですので、体調十分でお楽しみを!


by つむじかぜ (2021-08-30 01:06) 

つむじかぜ

> JUNKO 様
確かに主人公の頑なな感じは似ているかも、不死身ですし。
24ほどは長くありませんけど^^
by つむじかぜ (2021-08-30 01:09) 

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