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『破戒』 [上映中飲食禁止]

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被差別部落出身の瀬川丑松(間宮祥太朗)は、自らの出自を隠し通すよう亡き父から強く戒められており、地元から離れた場所にある小学校の教員職に就く。教師としては生徒に慕われながらも、出自を隠すため誰にも心を許せないことに苦しみ、一方で下宿先の士族出身の女性・志保(石井杏奈)に恋心を寄せていた。やがて、彼の出自について周囲が疑念を抱き始める中、丑松は被差別部落出身の思想家・猪子蓮太郎(眞島秀和)に心酔していく。(シネマトゥデイより)

いわずと知れた島崎藤村の名著の実写化である。
昔から本好きな少年ではあったが、好みの作品がどうも極端に偏っていたようで、実はこの明治の傑作は未読だった。とはいえ被差別部落を題材にした社会派作品である事は知っていたので、敢えて令和の時代にこの重苦しいテーマをいかに映像化されたのかが興味津々であった。
結論から言えば、人間の尊厳を謳い上げた佳作であり、時代を超えて「差別問題」が常に私達の傍らにある事を再認識させる文学の力をも感じさせてくれた。
長編小説を2時間に凝縮した為に原作からの割愛部分が多いと思われるが、小生のような不勉強者や活字離れのZ世代にも十分伝わる脚本・演出が施されている。特に本作の成功の秘訣は、個々の登場人物を「映画的に」色濃く描いた点にある。主人公・丑松を演じた間宮祥太朗が素晴らしい。TVドラマでたまに見かける濃い顔の青年くらいの印象だったが、悩める青年教師の心情心理を自然かつ美しく演じた。

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高橋和也、竹中直人、本田博太郎、石橋蓮司など濃い目の俳優陣が脇を固める。猪子廉太郎を演じた眞島秀和の迫力は一見の価値あり、親友教師役の矢本悠馬の外連味のない演技が涙を誘う。「差別される者」「差別する者」「差別しない者」の三局を敢えて単純明快にすることで、差別問題の溝を描き切る手法が奏功したと言える。

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還暦を迎えた小生の年代でも同和問題は過去の差別意識になりつつある。幼少の頃から部落や在日の問題は親から何となく聞いており、隅田川沿いの皮のなめし工場からは異臭がよく漂ってきたものだった。ただし子供同士の友人関係には全く影響を及ぼしていなかった。大学生時代に白土三平の漫画「カムイ伝」を読んで衝撃を受け、部落問題を歴史的に認識した。そして25年前の大阪転勤時に、関東より遥かに関西地区に部落問題が根付いている事も体感した。だが、この差別意識は徐々に風化しているのも事実だ。地方都市の一部や後期高齢者の年代に蔓延る負の遺産のようなものだ。Z世代などには知らぬ存ぜぬの世界であろう。敢えて次の世代に我々が引き継ぐべき知識とは感じない。それよりも人権侵害の形や種類が多様化した今、その差別撲滅に向けて社会が漸く動き始めたことに力を注ぐべきではなかろうか。

「この差別が無くなったら、新しい差別が生まれているのでしょうね」作中での言葉だ。現代のダイバーシティを見透かしたような100年前の原作に重みを感じざるを得ない。小生は金子みすずの一節が好きだ。『みんなちがってみんないい』
世代を超えた観客に訴える為に美しく作り過ぎた傾向はあるが、今こそ観るべき作品だと思う。




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青山実花

「破戒」は市川雷蔵さん版を観ています。
負の遺産、本当にそうですね。
調べれば調べるほど、
根が深い問題だと思い知らされます。

by 青山実花 (2022-08-04 20:59) 

つむじかぜ

> 青山実花 様
流石、実花さまですね、旧作をご存知とは!
人間が弱い存在だから差別が生まれる...と劇中にありましたが、
まさに永遠の問題だからこそ立ち向かわなければなりませんね、
by つむじかぜ (2022-08-05 02:13)