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『ザ・メニュー』 [上映中飲食禁止]

[ぴかぴか(新しい)]衝撃の傑作[ぴかぴか(新しい)]

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最近お気に入りのアニャ・テイラー=ジョイ見たさに、予備知識無しで臨んだ作品だった。題名からレストランを舞台にした洒落たラブロマンスを想像したが、さもありなん。恐怖一辺倒のサスペンスを超越したジャンル不問の問題作。何が出るか予測不能の究極のフルコースディナーは、客を戸惑わせ、驚愕させ、最期に史上の満腹感を与えてくれる...

予約が取れないことで有名なシェフ(レイフ・ファインズ)が提供する極上メニューを目当てに、孤島のレストランを訪れたカップル(アニャ・テイラー=ジョイ、ニコラス・ホルト)。素晴らしい料理の数々にカップルの男性が感激する一方で、女性は言いようのない違和感を抱く。店内が不穏な様相を帯び始める中、シェフ自慢のメニューには、思いも寄らないサプライズが用意されていたのだった。(シネマトゥデイより)

伝説のカリスマシェフが営む孤島のレストラン。世界一予約が取れにくい店に今回運良く招待されたのは、人気映画俳優、料理評論の重鎮、今をときめくエンジェル投資家など人生の成功者達だ。究極のグルメを求める金満家達に混ざり、男友達タイラー(ニコラス・ホルト)に誘われたマーゴ(アニャ・T=ジョイ)は奇跡的にこの会食に同席する事となる。

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食材を自給自足するこのレストランでは、従業員も島内で生活を共にし、シェフの統率の元で独自のコミュニティを形成していた。オープンキッチンで一糸乱れぬ作業で調理に励むコック達を眺め、マーゴは不快な違和感を覚えながらも、コース料理がスタートする。そして現れたカリスマシェフ(レイフ・ファイアンズ)の高圧的な料理の説明が始まる。

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使用人エルサ(ホン・チャウ)の怪しげな雰囲気から予兆はあったが、彼の登場で今作が「まともな」作品では無いことを確信するに至る。芸風が広い役者ではあるが、名作イングリッシュ・ペイシェント(1996年)の好青年は遠い昔、今回はまさしくハリー・ポッターのヴォルデモートそのものだ。この島の人間全てがシェフを頂点とした狂信的な集団と化していたのだ。神か悪魔か[exclamation&question] 教祖として君臨するシェフは、今宵のディナーを至高の最期の晩餐にしようとしていた。このレストランにいる全員の命と引き換えに。

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カリスマが作り上げる魔法のような料理を鮮明に写し出すカメラワークが凄い。一皿供される毎にシェフの計画が徐々に露わになり、客達は恐怖に凍りついて行く。招待客全員をシェフがこの日の贄の為に周到に選んでいたのだ、マーゴひとりを除いては。タイラーは誘っていた恋人に断られ、直前にマーゴに同伴を頼んだのだった。そう彼女は、富裕層を相手にするコールガールなのだ。シェフは他の客には感じない本質をマーゴから感じとり、興味を抱き始める。

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二人の心理的な闘いに思わず引き込まれる。彼女の本性を暴き屈服させようとするシェフに、圧倒的不利な状況でも抗い、脱出の機会を窺うマーゴ。そしてコース料理は終盤となり、刻一刻と最期の時が近づいて来る。果たして狂ったシェフの計画は成就するのか、囚われの金満家達の運命は如何に、マーゴに女神は微笑むのか...

孤島のレストランで繰り広げられる惨劇ショーの体裁なのだが、ありふれたサスペンスとは段違いの斬新な展開と味わい深さに、胸はときめき胃袋は軋むのである。残虐なシーンも料理同様に美しくエレガントだ。グルメ気取りの資産家達を嘲笑うが如くの諧謔味溢れる演出も心地よい。シェフが招待客一人づつの罪状を述べるが、どれも取り止めの無い理由ばかりだ。ただ、教祖様のお気に召さなかっただけなのだが、彼らは究極のメニューの一部として選ばれた。人間は生まれながらにして罪を背負っているというキリストの教義を感じさせ、「生きる事」=「食べる事」の人間の原罪を訴えているようだ。不気味なサスペンス調の展開の中で自然の恵みへの感謝を忘れ、飽食に明け暮れる現代人へ警鐘を高らかに鳴らしている。

本作の高い完成度は出演者の演技力を抜きに語れない。人を超越した重厚な存在感を見せつけたレイフ・ファインズ。自殺願望のグルメオタク役のニコラス・ホルトは、えげつない程軽薄な男を演じ切り、シェフに盲目的に忠誠を誓うホン・チャウの狂気が作品の混沌度を引き上げている。多くの俳優陣が食材の如く己の個性を極限まで調理され尽くし、メインディッシュに登場するのがアニャ・テイラー=ジョイだ。外見はエレガンスだが、実は出自不明の安物食材である。だが、荒海で育った天然魚のように漲る生命力とタフな精神力を併せ持った彼女はまさに美食家垂涎の味を持った素材なのである。出世作「クィーンズ・ギャンビット」同様、『負けない女」を演じさせたら、当代随一の女優であろう。今回も美しきセクシーボディと熱い目力に小生は虜となる。「ラストナイト・イン・ソーホー」時のブロンドヘアであれば即死であったが...[揺れるハート]

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シェフとマーゴの間に一瞬現れるシンパシーも束の間、一気に破滅へと雪崩れ込む緊迫感が半端無い。そして想像を超越したラストシーンに絵も言われぬ高揚感に包まれる。まさに究極のフルコースディナーのように緻密に計算され尽くした構成と演出は、目から胃袋へと楽しめさせ、ついに脳髄までを狂喜させてしまうブラック・コメディ・サスペンス。近年稀に見る異色の大傑作である。

シェフが劇中で宣う「この料理は決して食べないで下さい。味わって下さい」と...

『この映画は決して見ないで下さい。味わって下さい。』




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Labyrinth

つむじかぜ さま(^_^)ノ 流石…! 鋭い…!
ウチも明日up予定です~ 力不足を承知の上です~( ´艸`) フフフ
by Labyrinth (2022-12-04 13:59) 

つむじかぜ

> Labyrinth 様
拝見しました、お見事です^^
やはり、多くの方に劇場で観て頂きたいですな!
by つむじかぜ (2022-12-05 01:58)