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『すずめの戸締まり』 [上映中飲食禁止]

やはり観てしまうのだが...
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九州の静かな町で生活している17歳の岩戸鈴芽は、”扉”を探しているという青年、宗像草太に出会う。草太の後を追って山中の廃虚にたどり着いた鈴芽は、そこにあった古い扉に手を伸ばす。やがて、日本各地で扉が開き始めるが、それらの扉は向こう側から災いをもたらすのだという。鈴芽は、災いの元となる扉を閉めるために旅立つ。(シネマトゥデイより)

今や日本アニメ界を牽引する新海誠監督の最新作である。大ヒット作『君の名は。』では「隕石落下」を、前作『天気の子』は「水害」をモチーフにし、今作は「大地震」である。小生は勝手にこれを「新海・災害三部作」と呼ぶが、シリーズの締め?に相応しい壮大なスケールの現代絵巻となっている。

物語は日本各地の廃墟を巡るロードムービーの体裁だ。宮崎県日南市をスタートし、愛媛県・兵庫県・東京都と北上し、最終地が宮城県だ。実在しない廃墟ばかりだが、アニメ聖地探しの流行に乗って「此処がモデルだ!」とSNS上は賑やかなようだ。女子高生の鈴芽が呪術師(閉じ師)の青年・草太と出逢い、大地震を未然に防ぎながら旅を続けて行く。唐突に椅子の姿に変えられた草太の姿と各地で鈴芽と出会った人々との心温まる交流がユニークかつ美しく描かれる一方で、災害の予兆であるグロテスクな大ミミズと二人の激しい闘いはアニメならでは迫力を醸し出す。

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最終地でのクライマックスは予定調和的な大団円で終わる。だが「凄い映像だな」と感心するが「素晴らしい映画だな」まで行き着かった半端な気持ちで終わってしまった。新海作品の既視感が多くなった為、感動が薄れた訳ではなさそうだ。宮崎駿の多くのジブリ作品はパターンは同じでも毎回気持ちを揺さぶられる。やはり今作は設定に問題がある。新海3部作は災害を通しての人間の触れ合いをテーマにスピリチュアルな演出で描くが、新作ではその部分が安易かつ散漫である。バブル崩壊で廃墟と化した温泉地や遊園地と東日本大地震跡を同義に位置付けた時点で、大きな誤りを犯した。死者への冒涜だ。2011年の災害はまだ「思い出」ではない。ヒロインが一目惚れする大学生への想いも希薄だ。その為、良識ある観客には壮大なクライマックスがより空虚に響いてしまうのだ。

作品の大々的な宣伝にも不安を覚える。まるで東京オリンピックなのだ。本来は純粋なスポーツの祭典に利権を求めた輩が群がる構図が、クリエイターの意志をスポンサーの意向が微妙にずれた方向に導いた本作に似ている気がしてならない。莫大な経費がかかるアニメーションゆえの宿命でもあるが、初期の新海作品の原点は失わないで欲しい。「秒速5センチメートル」「言の葉の庭」では清廉な男女の心の機微をパステル画の如く淡く瑞々しく描いた。周辺に左右されず我儘を貫くべきだ、宮崎巨匠のように。

今作一番の収穫はヒロイン鈴芽役の原菜乃華だ。1700人のオーディションから選ばれた19歳の美少女だが、芸歴は既に10年を超える。声優業は初めてらしいが、声の抑揚が自然で感情表現に長けており、相手役ジャニーズとの格の違いを魅せつけた。将来楽しみな、孫の嫁にしたいタイプの女優だ。

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先日、出張時の機内で『ハケンアニメ!』を観た。アニメ業界の内幕を描いた実写映画だが、俳優陣の演技が秀逸なうえに非常に楽しめる内容だった。ヒット作品を生み出す為に手段選ばぬ営業担当者と作品作りに命を賭けるクリエイターとの格闘がリアルで、今回の話題作を思い浮かべてしまった。「10年後に評価される映画」か「今、売れる作品」が大事なのかを。







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