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『離ればなれになっても』 [上映中飲食禁止]

[ぴかぴか(新しい)]人生って、映画って、なんて素晴らしい[ぴかぴか(新しい)]

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久々鑑賞のイタリア映画は、男女4人の40年間の軌跡を描いた秀作だ。日本のTVドラマ「男女7人夏物語(1986)」のメンバーのその後をリアルに綴ったようなイメージだ。さんまと大竹しのぶの結婚から破局、芸術家に転身した鶴太郎、芸術家一家の大御所である奥田瑛二等々の半生を赤裸々にドラマ化し、今、同窓会をしたらみたいな。だが、そこを伝統あるイタリア映画は、人生の機微を美しく重厚にスクリーンに投射し、我々の胸をときめかせてくれた。

舞台は1982年のローマ。16歳の高校生3人が偶発の事故に巻き込まれたのを契機に親友となる。そのうちの一人、文学青年パオロと恋仲になった美少女ジェンマを加えた4人は、常に行動を共にし青春を謳歌していた。7年後、パオロは教員、リッカルドは俳優、ジュリオは弁護士への道へ各々進む。そしてジェンマは母の死後、ナポリに引っ越し、荒んだ生活を送っていた。社会の荒海に出た4人のもがき苦しむ姿が簡潔だが濃密に描写されるテンポ良い演出が素晴らしい。

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そんな時、パオロとジェンマが再会し、初恋を成就させる。ジュリオは漸く弁護士業が軌道に乗り、リッカルドは熱愛の末、結婚し子供を授かる。4人が幸せの階段を登り始めたのも束の間、暗雲が立ちはだかる。パオロの母の介護に疲れ果てたジェンマは魔がさしてジュリオと関係を持ち、そのまま弁護士の妻の立場を選ぶ。リッカルドは生活苦から妻と別居し、最愛の息子を奪われてしまう。意気消沈したパオラは臨時教員として独り無為な日々を送る。

ある時は聖女、ある時は売春婦の如く振る舞うジャンマを軸に4人の関係が16歳の頃に戻れない現実を叩きつける。出自も生活環境が違っても同等に遊べた子供時代と違い、大人になれば社会的地位や経済力の差が壁になって来るものだ。

更に10数年の月日が流れる。上昇志向の強いジュリオはジェンマを棄て代議士の娘と結婚し、著名弁護士の地位を不動のものとしていた。だが、夫婦の関係は既に崩壊し、世間体の為のみに存在する家族に嫌気のさした16歳の娘は反抗期の絶頂だ。パオロは独身を貫いていた。正式な教員として採用されて以降も地道な努力を続け、今では教育指導者の権威だ。正式な離婚が成立したリッカルドは政治家転身の夢も破れ細々と生活している。息子の成長を遠目に見るだけが生き甲斐だ。今日は息子の16歳の誕生日祝いに会いに行ったが、玄関先で追い払われてしまう。そして疲労困憊した帰りの列車で偶然にジュリオと再会する。わだかまりを抱え10年以上音信不通の二人だったが、パオロを含めて3人で飲もうと約束し、連絡先を交換し合うのだったが...

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パオロとジェンマの40年に亘る純愛が骨格ではあるのだが、本質はそれでは無い。青春時代から老境に至るまでの人間の半生の浮き沈み、哀歓をものの見事に描き切った。辛い事も愉しみも一緒くたになってこそ人生は素晴らしいのだと、作品は訴える。そして子供時代の純粋な気持ちは、パズルのパーツのように全て揃えば、何十年も遡って蘇るのだと。

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青春期と壮年期の俳優陣の変更が違和感なく、「こんな子供はこうなるねぇ」と自分の同級生を想いながらほくそ笑む。4人の半生をコンパクトに編集しつつ彼らのアイデンティティまで観客に刷り込む巧みな演出に脱帽だ。そしてローマ...ローマの街並みである。彼らが生まれ育った街の情景は、半端な装飾美術を必要とせぬ絶品の背景となって物語と溶け込む。家族ぐるみで集まった新年カウントダウンの夜。4人はグラスを掲げる「心を熱くするものに乾杯!」と。4人の友情のドラマがお互いの子供達にまで引き継がれる予感のラストに、絵も言われぬ幸福感に浸る。老境に差し掛かった者しか共感出来ない部分もあろうが、個人的には大傑作新年から素晴らしい作品に出会えた[かわいい]

予告編の日本版は浅はかなラブロマンスの印象を与えている。(センス酷過ぎ)オリジナル版で雰囲気だけでも...




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