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『銀平町シネマブルース』 [上映中飲食禁止]

[ぴかぴか(新しい)]ミニシアターは不滅です[ぴかぴか(新しい)]
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いまおかしんじ氏が脚本と知り、新宿武蔵野館へ足を延ばす。シネコンの興隆により映画が身近になった反面、映画マニア達はマイナー作品鑑賞の為に数少ないミニシアターを探し出し時間を作って通うのだ。文芸系やピンク系の小作品は総じて上映期間が短く、少々遠い映画館に二の足を踏んでいる間に終了してしまう事が多い。下町在住の小生にとって同じ東京でも最近の新宿は魔界なのだが、こんな作品なら何処でも行くぜ[exclamation×2]という感じなのだ。

一文無しの近藤(小出恵介)は、かつて青春時代を過ごした街・銀平町に戻ってくる。そこで映画好きな路上生活者・佐藤(宇野祥平)、商店街にある映画館・銀平スカラ座の支配人・梶原(吹越満)と知り合ったことをきっかけに、銀平スカラ座でアルバイトとして働き始める。スタッフやベテラン映写技師、個性豊かな常連客たちとの出会いを通じて、近藤はかつての自分と向き合う。(シネマトゥデイより)

メガホンを取るのは、いまおか氏と同じピンク映画出身の城定秀夫監督だ。いまおか作品の大半は18禁ギリギリ15禁なのだが、本作は珍しく年齢制限無しの健全作品である。恒例のいまおか節からエロエロのみを削除した映画愛に満ち溢れた人間ドラマの佳作だ。

B級ホラー映画の旗手として活躍した近藤だが、3年前の助監督の自殺から業界を去り、家族とも別れて、今は人知れずホームレス生活者となっていた。ひょんな縁で、倒産寸前の映画館「銀平スカラ座」の支配人・梶原に拾われて住込アルバイトとして糊口を凌ぐことになる。舞台となる映画館は実際に埼玉県川越市で現役の「川越スカラ座」だ。『キネマの神様(2021年)』のロケ地でも使用された老舗映画館だ。

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小生が学生時代には、都内にもこんな映画館がたくさん存在した。上野、浅草、東銀座...現在のミニシアター系ではなく名画座と呼ばれるタイプで、ロードショーの終わった作品を3本立てなどで上映する学生の財布に優しい娯楽の殿堂だった。(都内で唯一存在した飯田橋「ギンレイホール」も遂に昨年11月に閉館した。)そして、銀平スカラ座では現在「カサブランカ」を絶賛上映中[exclamation&question]という設定なのだ。

1回の平均観客数一桁の時代遅れの当館に、変質的な映画好きが集まってくる。金が無くても月2回は映画が観たいホームレスを筆頭に、売れない俳優、映画オタクの中学生、映画ライター、ラッパ吹き、給料出なくても頑張る美人受付嬢2名、極め付けはいくら借金しようが能天気に営業を続ける元弁護士の支配人。そこに過去を隠した元映画監督の近藤が絡み、映画館の復興が練られて行く。近藤が最後に手がけた3年前の未編集作品の映像を偶然見つけた支配人が、スカラ座60周年式典の目玉として、この作品をロードショー公開する計画が進む。生きる希望を失くしていた近藤は、映画好きの仲間に囲まれ徐々に輝きを取り戻していく。別れた妻子と再会し、亡くなった助監督の母親と酒を酌み交わし、過去を受け入れ決別し、純粋に映画を作りたいと思うのだった。60周年式典の満員御礼の中、彼の未公開作品が日の目を見る。そして...

小出恵介が敢えて抑えた演技で物語に膨らみを持たせている。「流されるままのダメになった男」を好演だ。それに絡む曲者の脇役陣も素晴らしい。限られた時間で、多くの役柄の個性を炙り出した演出と演技力に拍手を送る。評価は高いが全く売れない二人の監督の人脈によって集まった俳優達が、多分安いギャラでも喜んで出演したのが目に浮かぶ。「皆、いい映画にでたいのだ」と。すでに名バイプレイヤーとして地位を築いた吹越満、宇野祥平は言わずもがな、浅田美代子、藤田朋子も熟練の極みだ。新人の谷田ラナちゃん可愛い過ぎる[揺れるハート]世界的トランペッター黒田卓也の演奏は一聴の価値あり[るんるん]

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ミニシアター公開から大ヒットした『カメラを止めるな!』のオマージュを織り込みながら「貧しい映画人に愛の手を[かわいい]」と自虐的に叫ぶ製作陣の崇高な想いを感じざるを得ない胸を打つ作品だった。映画館って、作り手も観る側も多くの多様な人々を丸ごと受け入れてひと時の間、幸せにしてくれる魔法の空間なんだよね。
今回伺った新宿武蔵野館は、戦前に開館移行、移転とリニューアルを繰り返しながらも、併営するシネマ・カリテと共にミニシアターの草分け的存在となっている。国内外を問わず良質の小品を上映するこのような映画館の存続を強く望む。ネット配信でも内容は理解できるが、あの空間でしか味わ会えない感動こそが映画の醍醐味なのだから。

最後に、
作中の助監督とどうしても被ってしまうが、映写技師役で渡辺裕之の勇姿にも会える。合掌...

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