『侍タイムスリッパー』 [寫眞歳時記]
評判通り
自主映画の快作
今や落ち目の時代劇に没落の現代ニッポンを重ね、我々は熱き血潮漲る幕末の志士達の姿に憧憬の念を抱かざるを得ない構成になっている。だが、当の幕末の侍の感覚は全く違う。苺ショートケーキを初めて食した高坂は涙を流しながら語る。「こんな美味しいものを普通に食べられる豊かな国に日本はなったのですね。なんと素晴らしいことだ![[たらーっ(汗)]](https://blog.ss-blog.jp/_images_e/163.gif)
」倒幕から戊辰戦争、そして遂には太平洋戦争。多くの先人達の屍を乗り越え、現在の成熟の日本があることを忘れてはならない。
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口コミで評判が広がり単館公開から全国ロードショーとなった自主制作映画だ。先日、浅草演芸ホールで落語を聴いていたら、噺家がまくらでこの映画について触れており、勢い本日の鑑賞となった。どうも「タイムストリッパー」と誤って呼ぶ人が多いらしいが、決して侍の裸を拝む事はできない。「タイムスリッパー」が正解である![[ダッシュ(走り出すさま)]](https://blog.ss-blog.jp/_images_e/164.gif)
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幕末の京都。剣豪として鳴らす会津藩士・高坂新左衛門(山口馬木也)は、ある長州藩士を襲撃するように命じられて刃を交えるが、その瞬間に落雷に打たれて気を失う。目を覚ますと、新左衛門は現代の時代劇撮影所にいた。混乱しながら行く先々で騒動を起こし、江戸幕府が140年前に滅んだことを知ってがくぜんとした新左衛門は死を覚悟するが、この時代で生きることを決意する。自分には剣の腕しかないと、新左衛門は時代劇撮影所の門をたたき、斬られ役として身を立てていく。(シネマトゥデイより)
「タイムトラベル」を題材にした作品は非常に多いが、大きく2つのパターンに分けられる。主人公が自らの意志で過去・未来に移動する冒険活劇と、主役がアクシデントによりタイムスリップしてその時代に生きる姿を描く人間ドラマだ。前者はワクワク感は強いがタイムパラドックスが絡んでくると少々頭を使わないと理解できない作品も多い。本作は単純な後者パターンであり、構成は極めてシンプル。仕事帰りの疲れた体にも優しく、心地よい元気をくれる作品だ![[exclamation×2]](https://blog.ss-blog.jp/_images_e/160.gif)
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幕末時代に尊王攘夷派の要人暗殺の命を受けた会津藩士・高坂新左衛門が、決闘中に雷に打たれ現代にタイムスリップして物語の幕が開く。しかも転送された場所が京都太秦の映画村という設定が極めてユニークな展開を生んでいく。当然のように事態を理解できないリアル侍のドタバタ劇がスタートして、客席は笑いに包まれていく。
キャスティングは自主映画らしく地味だ。どこかの映画かTVドラマで見覚えはあるのだが、名前を知らない多数の俳優陣が作品を盛り上げる。兎にも角にも、芸歴25年にして初の主役の山口馬木也が実に素晴らしい。月代がこれほど凛々しく似合う俳優を見つけ出した安田淳一監督の審美眼に拍手。そしてその期待に、脚光を浴びずとも長年培った芸技を披露して応えた山口に本物の役者魂を見た思いだ。
自分に降りかかった不運を漸く理解した高坂はこの時代に生きる覚悟を決める。磨いてきた剣技を活かせる「斬られ役」という仕事に心を動かされたのだが、それ以上に彼を取り巻く現代の人々の温かさに触れ自分の居場所を見つけたのだ。その中の一人がヒロイン的存在となる助監督・山本優子役の沙倉ゆうのだ。
本格的な俳優活動は少ないが、安田監督から昔からの縁により抜擢されたと云う。因みに彼女は、本作で実際の助監督にも名を連ねている。女優特有の鼻に付くあざとさが皆無の清廉な演技が好感度の眼鏡美女が作品に華を添える![[揺れるハート]](https://blog.ss-blog.jp/_images_e/137.gif)
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優子に淡い恋心を抱きつつ、斬られ役の実績を積んでいた高坂に転機が訪れる。トップスター主演の時代劇映画出演のオファーが飛び込んで来るのだ。準主役のキャストで、往年の大スター・風見恭一郎(冨家ノリマサ)の指名だと云う。そして運命の再会。風間恭一郎はタイムスリップ直前まで剣を合わせていた長州藩士だったのだ。彼は高坂と同様に雷に打たれ更に30年前の映画村に飛ばされ、斬られ役から売れっ子スターに転身していたのだった。現在の生活を受け入れていたはずの二人だったが、撮影が進むごとに徐々に武士の志を取り戻していく。お互いのケジメをつけるべく、ラストの決闘シーンで真剣を使っての立ち回りを二人は希望し、遂に決着の刻が訪れる...
「カメラを止めるな!(2017年)」以来のインディーズ映画の大ヒットとなっている。B級ホラーコメディのチープな手作り感が逆に心地よかった「カメ止め」と比較して、本作は時間と金がかかる本格時代劇に挑戦している。アプローチの手法は異なるが、多くの観客に支持された両作の共通点は、斬新かつ緻密な脚本と溢れ出る映画への愛情だ。本作は、私財を投げ売った安田監督一人が撮影・音響・編集を担当し、ヒロイン役も雑用までこなしながら、10人足らずのスタッフで制作したらしい。人件費を極力削りながら、メジャー作品と見まごうレベルの時代劇まで完成度を上げた監督の手腕が光る。更に低額ギャラで招集した俳優陣の熱演とスタッフの熱意に触発された東映映画村の殺陣軍団の支援が融合して、ドッと「映画愛」が押し寄せてくる作品に仕上がっている。至る所で昭和映画のオマージュが感じられ、思わず微笑んでしまう。やはりチャンバラは邦画の原点、最強なのだ![[パンチ]](https://blog.ss-blog.jp/_images_e/153.gif)
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今や落ち目の時代劇に没落の現代ニッポンを重ね、我々は熱き血潮漲る幕末の志士達の姿に憧憬の念を抱かざるを得ない構成になっている。だが、当の幕末の侍の感覚は全く違う。苺ショートケーキを初めて食した高坂は涙を流しながら語る。「こんな美味しいものを普通に食べられる豊かな国に日本はなったのですね。なんと素晴らしいことだ
![[たらーっ(汗)]](https://blog.ss-blog.jp/_images_e/163.gif)
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平和ボケ日本の素晴らしさを噛み締めながら、総選挙の投票にはしっかり行こうと決めたのだった。
予告編を見て感情移入してしまうのは、こういう役者さんに陽が当たるのを見られたからです。
マイナーな劇団にいたあの人もあの人も、テレビ連ドラに一作出たっきりだったし、いい味出してたのに、朝ドラオーディションを毎回受けに行っていると言っていた青年はどうしてるのかなぁ。
by hagemaizo (2024-10-17 18:28)
おもしろい映画のようですね。
by JUNKO (2024-10-17 19:26)
> hagemaizo 様
俳優の売れるか売れないかの差は何なのか、難しいですね。
こういう作品は嬉しくなります^^
by つむじかぜ (2024-10-18 00:59)
> JUNKO 様
是非、多くの方に観てもらいたい作品です!
by つむじかぜ (2024-10-18 01:00)
観たい映画のリストに追加しておきます^^。
by Inatimy (2024-10-18 17:43)
眉村卓さんの小説「名残の雪」
(映画化タイトル「幕末高校生」)の
逆バージョンみたいだな、
と予告を見て思っていました^^
面白そうですね^^
いつかきっと観てみます^^
by 青山実花 (2024-10-20 09:22)
> Inatimy 様
nice&コメをありがとうございます。
是非、ご覧くださいませ^^
by つむじかぜ (2024-10-21 00:34)
> 青山実花 様
脚本が非常に面白いのでお楽しみ頂けると思います^^
by つむじかぜ (2024-10-21 00:45)