SSブログ

『八犬伝』 [上映中飲食禁止]

656236.jpg

江戸時代、戯作者・滝沢馬琴(役所広司)は友人の浮世絵師・葛飾北斎(内野聖陽)に構想中の物語を語り始める。それは里見家にかけられた呪いを解くため、運命に引き寄せられた8人の剣士たちの戦いを描く物語だった。たちまち魅了された北斎は物語の続きを聴くため、足しげく馬琴のもとへ通い、二人の奇妙な関係が始まる。執筆作業は、悪が横行する世で勧善懲悪を貫くという馬琴のライフワークとなるが、28年の歳月を経て最終局面に差し掛かろうとした矢先、彼の視力が悪化してしまう。(シネマトゥデイより)

山田風太郎の原作を下敷きに、「南総里見八犬伝」の華麗な空想世界と曲亭馬琴の28年間の執筆活動の実態を並行して描いた異色作だ。山田風太郎作品も馬琴原作も未読だし、少年時代に放映されていたNHK人形劇「新八犬伝」の内容もうる覚えだ。記憶に残っているとしたら1983年の映画「里見八犬伝」。薬師丸ひろ子のアイドル的作品を深作欣二監督が力技で新感覚のファンタジー時代劇に仕上げた。嗚呼、なんという初々しさ[揺れるハート]

e89d086d04c0304f699ffd51268f64bc.png.jpeg

小生が感銘したのはこの小説だ[パンチ]
滝沢馬琴 (上) (朝日文庫)

滝沢馬琴 (上) (朝日文庫)

  • 作者: 杉本 苑子
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2024/09/06
曲亭(滝沢)馬琴の生涯を綴った長編で、八犬伝の内容には深く触れていないが、滝沢家と彼らを取り巻く人々の交流を江戸時代後期の抒情と共に描いた佳作だ。この作品でそれまで知らなかった人間・馬琴の姿を知ることになった。

hake3-1024x683.jpg

hake4-1200x800.jpg

さて、本作は執筆に取り組む馬琴の実の姿と八犬伝を実写化した虚の世界で構成されている。ベテラン俳優を配置した重厚な人間ドラマが進むと思いきや、一転して売れ線フレッシュ俳優陣による「刀剣乱舞」色満載のアクション活劇となる。この落差がやたらと心地よい[exclamation&question]昭和爺いも刀剣女子も楽しめるという意外な組み合わせは、新しい時代劇への潮流を予感させる。『ピンポン(2002年)』や『APPLESEED(2004年)』を手がけたベテラン曽利文彦の面目躍如たるところか。

昭和チーム代表の小生としては「実話」のベテラン俳優による深い演技に心打たれた。役所広司内野聖陽が繰り広げる馬琴と北斎の友情物語のリアル感は、この名優だから出せる空気感か。性格は正反対、絵描きと物書きの差はあれど、初老の頃から老爺の域に至るまで芸術に命を賭す狂人二人に流れる絆が見事に表現されていた。さらに馬琴の悪妻役・寺島しのぶの名演が絡んで滝沢家の実態が深掘りされていく。

vPg.jpg

MkM.jpg

頼りにしていた長男に先立たれ、緑内障でついに失明した馬琴は八犬伝の完成を諦める。だが、無教養で文盲の長男の嫁・お路が馬琴の執筆を手伝いたいと熱望してくる。全盲が文盲に文字を教えながら口述筆記をさせるという気の遠くなるような嫁と舅の作業が始まるのだった...果たして八犬伝は終幕を迎えることが出来るのであろうか...

GR__WfsaMAAQQAu.jpeg

杉本苑子の小説では一番胸が熱くなった部分だが、本作では黒木華が深い演技力で存在感を示してエンディングに花を添える。亡き夫の思いを必死で叶えようとする意志強き女性を、少ない台詞と僅かな出演機会で強烈に表現した。

これらの名優陣をメインにリアル部分だけで制作しても秀逸な歴史人間ドラマとして成り立ったであろうが、評価が分かれることを覚悟しつつ並行して描いた空想編が、本作を八犬士の持つ仁義八行の玉がごとく不可思議な光を放たたせるのだ。

ha5-1024x615.jpg

とにかく八犬士はモデル級美男子が勢揃いなのである。正直、TVドラマの端役で何となく見覚えはあるがほとんど名前を知らぬ男優ばかりだ。少々調べると、元祖仮面ライダーの藤岡弘、元中日ドラゴンズの郭泰源の息子やら、見た目以上に歳がいっている苦労人ぽい俳優もいて、八者八様というメンバーだ。「刀剣女子よ、お好きなタイプをお選びください」という製作陣の声が聞こえる。そんな中で唯一知る俳優が非常に印象に残った。

tUU.jpg

昨年のNHK大河ドラマで井伊直政を演じた板垣李光人だ。女装での登場だったが、伏姫役の土屋太鳳、浜路役の河合優美(小生の推しではあるが)が霞んでしまう孤高の美しさに見惚れてしまった[揺れるハート]こんな正義の美男子軍団に対抗する悪の権化が怨霊・玉梓の栗山千明[がく~(落胆した顔)]

005_large.jpg

刀剣男士に対抗できるのは元祖キル・ビル女子ということか、絶妙の配役だ[exclamation&question]元美少女モデルがコメディからシリアスまで幅広くこなす円熟の女優となった。
空想編では、曽利監督は作り物感を残したVFXを多用し、かつ俳優陣にも素人臭い演技を要求し「虚の世界」を強烈に演出しているように思えてならないのだが。

wOc.jpg

202410hakkenden-sub-2shot-ken-gokou600.png

馬琴とお路の苦難の末に辿り着いた最終章の完結と同時に、空想編も南総里見八犬伝の筋書き通りに大団円を迎える。本作で2本分の映画を愉しんだような不思議な充実感。先日鑑賞した「侍タイムスリッパー」とはタイプが全く違うが、不遇が続いた時代劇が今、新しい次元に突入している気がする。ますます『チャンバラ』から目が離せない[ぴかぴか(新しい)]


nice!(41)  コメント(4) 
共通テーマ:映画

nice! 41

コメント 4

よしあき・ギャラリー

気になっていた映画です。よくぞご紹介いただき、ありがとうございました。
河合優実は私も注目の若手です。
by よしあき・ギャラリー (2024-11-08 06:02) 

つむじかぜ

> よしあき・ギャラリー 様
河合優実は楽しみな女優ですね、今作は控え目な演技ですけど。
by つむじかぜ (2024-11-11 01:42) 

hagemaizo

森田健作さんの前の千葉県知事、堂本暁子さんが里見家の末裔だと人づてに聞いたことがあります。
里見家が実在していたとは、と驚いたことがあります。

by hagemaizo (2024-11-14 06:39) 

つむじかぜ

> hagemaizo 様
意外と江戸時代の武家の血筋は今でも脈々と続いているようですね。
徳川宗家は現在19代当主がいらっしゃるとか(°_°)
by つむじかぜ (2024-11-16 03:44)