『チネチッタで会いましょう』 [上映中飲食禁止]
![[黒ハート]](https://blog.ss-blog.jp/_images_e/136.gif)
![[黒ハート]](https://blog.ss-blog.jp/_images_e/136.gif)
チネチッタ撮影所での新作撮影を控える映画監督・ジャンニ(ナンニ・モレッティ)。5年ぶりの撮影は順調にスタートしたかと思われたが、俳優たちは的はずれな解釈を主張し始め、プロデューサーであり40年連れ添った妻からは別れを切り出されてしまう。さらに撮影資金を調達していたフランスのプロデューサーが警察に捕まり、資金難で撮影は中断。映画監督としての地位を築き、家族を愛しているにもかかわらず疎外感にさいなまれたジャンニは自らの人生を見つめ直す。(シネマトゥデイより)
老境の主人公に自分を重ね、少々自嘲気味になりながら苦笑いと相槌を繰り返すが、後の痛快なエンディングが絵に言われぬパワーと爽快感を与えてくれる『愛』に溢れたヒューマンドラマだ。
主人公役の俳優があまり巧くないな、と感じていたらナンニ・モレッティ監督自身と知ったのは観賞後のことだった
だが、頑固、不器用、無神経なイタリア映画界の重鎮という主役の設定がモレッティ自身とすれば納得のキャスティングなわけでもある。結果、脇役陣の好演が主人公の滑稽な愚鈍さを際立たせており、そこまで計算していたとすればモレッティは凄い![[exclamation&question]](https://blog.ss-blog.jp/_images_e/159.gif)
主人公役の俳優があまり巧くないな、と感じていたらナンニ・モレッティ監督自身と知ったのは観賞後のことだった
![[あせあせ(飛び散る汗)]](https://blog.ss-blog.jp/_images_e/162.gif)
![[exclamation&question]](https://blog.ss-blog.jp/_images_e/159.gif)
映画監督として40年以上に亘り、ほぼ5年おきに作品を発表し、イタリア映画界ではそれなりの地位となったジャンニは、現在新作を製作中だ。だがどうも最近おかしい、しっくりこない。新作は1950年台のイタリア共産党の活動をテーマにしているが、歴史を知らない若手の製作スタッフと全く話が噛み合わない。ヒロイン役の女優が勝手に作品を解釈してアドリブを入れてくる。結婚以来、全作品をプロデュースした妻・パオラ(マルゲリータ・ブイ)が若手監督につきっきりで自分の撮影現場に顔を出さなくなった。「自分が老いたのか、周りが変化したのか」自問自答を繰り返すが、映画の本質は普遍だと信じる彼は己を貫く。そんな彼に更にトラブル続出だ。
娘にようやく出来た恋人に合いに行けば、自分と変わらぬ年寄りだし、理解者だった映画の出資者ピエール(マチュー・アルマック)が詐欺罪で逮捕され資金が枯渇する。トドメは妻が離婚を切り出して自宅から出て行ってしまう。今までの価値観が崩れ、信じていた者から裏切られ茫然自失となるジャンニ
それでも彼は映画製作続行に向けて少しづつ歩き始める...果たして作品は完成するのか、彼を取り巻く人々との絆は取り戻せるのだろうか?
![[もうやだ~(悲しい顔)]](https://blog.ss-blog.jp/_images_e/143.gif)
老人の時代ギャップを嘲笑うコメディシーンが続出するのだが、裏を返せば現代の商業映画に強烈な警鐘を鳴らす。Netflixとの商談で「冒頭2分で盛り上げる脚本に変えて下さい。我が社は世界190ヵ国で放送されていますので。」を繰り返されたと思えば、助っ人の若い韓国製作陣が彼の脚本を一読しただけで、作品の本質を理解し絶賛する。まさに、生活トレンドの変化とグローバル化が及ぼす混沌としたエンターテイメント業界を表現した。
若手監督の撮影現場に立ち会い、バイオレンス一辺倒の作品に異議を唱えて自説を7時間ぶち上げるような独りよがりのジャンニだったが、多くの困難を踏み台にして周辺の人間を理解し受け入れる大切さをこの歳にして知っていく。次第に家族の綻びが戻り始め、新しい協力者の力も得て、作品は製作続行となる。そして彼は、自分の美学に通じる一番拘っていたラストシーンを描き直す大いなる決意をし、物語は壮大なラストシーンに向かっていくのだった。
輝かしいキャリアから得た思想が決して絶対では無いとモレッティ監督は訴える。そして古い考えは切り捨てるのではなく、ポケットの中にそっと仕舞い込んだおけば良いのだと。生きることも、作品を創ることも、経験則だけに固執せずに周辺を受け入れつつ模索していけば、もっと違う色の人生が彩られる。71歳のモレッティが到達した境地を落とし込んだ様な作品なのだ。
確固たるモチーフに多くの娯楽性が注ぎ込まれている。随所に笑いを散りばめ、過去の名画や自作品のオマージュを適時に織り込む。戦後のイタリア共産党の盛衰に現在のロシアの凶行を仄めかし、ジェンダー平等などの社会問題にも触れる。ジャンニ・パオラ夫婦と共に製作映画内の俳優カップルと製作スタッフの恋人同士を並行して半世紀に及ぶ男女関係を三重構造で描くロマンチックな香りも楽しい。鑑賞する度に練り込まれた演出や伏線が少しづつ解き明かされていくような構成だ。『より良い未来を夢見ることを忘れない』という監督のメッセージが染み入る感動作だった。シルバー世代だけでなく多くの年代の方にも鑑賞して頂きたい珠玉のイタリアからの贈り物だ![[ぴかぴか(新しい)]](https://blog.ss-blog.jp/_images_e/150.gif)
![[ぴかぴか(新しい)]](https://blog.ss-blog.jp/_images_e/150.gif)
何か共感できそう!
by よしあき・ギャラリー (2024-11-30 05:38)
> よしあき・ギャラリー 様
身につまされる話が連発で苦笑いの傑作です!
by つむじかぜ (2024-12-01 00:25)