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【番外】つむじ風亭『太刀魚尽くし』 [江戸グルメ応援歌]

2年半ぶりの釣行である。

東京湾での江戸前小物釣りが好きな小生だったが、転職と新型コロナの影響もあって、知らぬ間に竿を握らぬ期間が続いていた。久しぶりの今回は、葛西橋の船宿「須原屋」さんから出船し、太刀魚狙い単独釣行だ。

タチウオ専用の釣り具は持っていないが新品を揃えるのはもったいなく、深場アジ用の短い竿と太い道糸を巻いたままの電動リール持参で挑戦だ。遠足前の小学生並みに興奮して、前日夜は結局1時間ほどしか寝られなかったが、「気合と技術で大漁じゃ!」と船宿に向かう。

船で1時間半ほどで走水沖に到着。2年半ぶりの潮風が心地よいが、結構、風・波ともに強く、不安がよぎる...太刀魚は最盛期の夏には入れ食い状態なようだが、秋が深まるにつれ型はよくなるが繊細な釣りが求められるというのだ。

嫌な予感が的中、1時間経過しても全く釣れない...船内20人ほどの釣り人だが、盛り上がっていない。漸く右隣のいかにも貸し竿の初心者風の兄ちゃんが1尾釣り上げ、間も無く左のベテラン風の爺ちゃんが釣り上げる。焦る・・・周りを見渡せば、少しづつ釣果が上がってきているようだ。装備を見ると、みな細長い軽そうな竿だ、糸も細いはずだ。要するに、潮が強い上に魚の活性が低い為、小生の太い糸と重い竿では小さな「あたり」が感じられないのだ。しかもブランクもある。自分の甘さを一瞬悔やんだだ、仕方ない。釣りを始めて学んだのは、決して諦めずに、丁寧に魚への誘いを続ける事だ。

2時間経過...餌はズレないように丁寧につけ、誘いは海の中を想像してパターンを変えながら竿をシャくる・・・・若干、竿が重くなる〜魚が餌の端を食っているのだ。焦らず、完全に食い込むまで待つ〜更に竿が重くなった〜合わせる・・・掛かった!

久しぶりに稼働した電動リールが、水深60メートルから銀色に煌めく魚体を引き揚げてくれる。やっと1尾ゲット[exclamation×2] なんでも「0と1では大違い」と良く言うが、釣果もまさしくその通りで、半日頑張って1尾も釣れない「ボウズ」と雑魚でも1尾釣れた場合の疲労感の差は桁違いだ。釣り人にとってボウズだけは避けたいのだ。

1尾釣れて気楽になってきたのか、釣りの勘が戻って来たのか、それまで掴めなかった「あたり」が少し分かるようになって来た。重い竿をシャクリ過ぎて左腕が徐々に上がらなくなって来ているが、年甲斐もなく頑張ってみる。

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あっという間に5時間経過し納竿タイムとなった。初心者が多い上に強潮で船内オマツリ連発で、私も3度ほど巻き込まれロスタイムも長かったが、なんとか5尾確保だ。船中全体は0〜15尾の釣果で、悪条件でも上手い人は結果は出すものと脱帽。自分も装備と出足の悪さを考えれば奮闘したと方だ。左隣の結局3尾釣った爺さんが、「あんた、あんな短い竿でよく釣ったねぇ」と言っていた。自分の踏ん張りには納得しつつも、事前の研究・装備も大事だと思い知った次第だ。


調理タイム

キャッチアンドリリースは単なるスポーツフィッシュイングのルールであり、『釣ったら食う』が釣りの醍醐味であると信じる。そして我が家では、釣った魚は本人が下処理から調理するのがお約束なのだ。自分で苦労して釣った魚をなんとか調理し、皆が美味いと喜ぶ姿を見てしまったら、もう釣り人はその虜になってしまうのだ。

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とにかく細長〜い魚である。この日一番小さな奴でもまな板の長さが足らない。シンクの中に新聞紙を引いて、頭・内臓を落とし3等分してからまな板に戻す。最近は、ようつべでも魚の詳細な捌き方がアップされており参考になる。実は釣行前から捌き方とレシピの動画ばかり見ていて、もう少し釣り方の方を勉強しておけば良かった...は後の祭りだが、兎に角、見よう見まねで太刀魚料理に挑戦だ[かわいい]

本日のつむじ風亭の献立

刺身
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塩焼き(魚卵付き)
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梅しそ揚げ
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潮汁
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女房との二人の食卓(左下のみ女房作の肉じゃが)
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ほぼ爺い独りで頑張った[手(チョキ)] 梅しそを揚げる時と潮汁の最後の塩加減は、カミさんの力を借りたけど...顔はゴツいが上品で淡白な味の太刀魚を堪能した。腹一杯になるや、一気に疲れが出て、リビングで爆睡の至福の一日でございました[わーい(嬉しい顔)]
当日は長男一家が外出中の為、夕餉の招待は出来なかったが、今回の釣果は夫婦の食卓に丁度良かった。(2尾分は偶然夕方来た長女夫婦に奪取される)今度は、孫含めてファミリー全員揃った食卓に爺いの漁師料理を振舞いたい。その為にも腕を上げ、大漁を目指さねば[ぴかぴか(新しい)]


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『映像の世紀』コンサート [上映中飲食禁止]


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昨年3月15日に開催予定だったが、新型コロナにより8月8日に延期され、結局中止に至ったコンサートである。女房にしては珍しくこの硬派な番組がお気に入りで、地元トリフォニーホールでの開催を楽しみにしていたが、チケット返金となった我が夫婦にとっては幻のコンサートだった。

昨年は未知のウィルス襲来に全国民が行動自粛を余儀なくされた。それが1年半経過し、「緊急事態が通常状態」の首都東京は完全に『WITH コロナ』の風潮となり、同コンサート復活の運びとなった訳だ。当然の如く、ペアでチケット予約し、漸く本日の鑑賞となった。

ほぼ満員御礼の状態で、観客の年齢層も幅広い。単なるクラシックファンだけでなく、ファミリー鑑賞も多そうだ。ワクチン接種完了した我が夫婦としても、違和感も圧迫感も無く、普段と変わらぬ純粋にコンサートを楽しめる雰囲気だった。全員がマスクを着けている以外は。

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『音楽と映像がとても深いところで一体化して、見る人、聴く人に迫ってくるこのコンサートは、感動の力が通常のコンサートや通常の映像の鑑賞では想像できないほどの力でみなさんの心に押し寄せてきます。それが何といっても最大の見どころ、聴きどころです。その感動を、ぜひ多くのみなさんに体験していただきたいと思います。・・・・加古 隆

パンフレットに書かれた通りの心に沁みるコンサートだった。ナレーションに山根基世を起用し、NHK番組そのものの雰囲気を再現、映像自体は既に放映された作品の総集編という感で、20世紀の事件を駆け足に前後半で90分程に収めていた。とにかく、生の演奏の凄さだ。聴き慣れたピアノの旋律が、ホール全体を包み込む。ピアニシモの消えかかる余韻が美しい。交響楽団のアンサンブルとピアノが溶け込み、スクリーンに映し出される映像を際立たせて行く。ヨーロッパ王朝の崩壊から2度の大戦を通して繁栄と分断を繰り返す人類の姿が、ドラマチックに描かれて行く。人間の本質的な愚かさと逞しさをなぞるように、テーマ曲の「パリは燃えているか」のメロディが繰り返される。加古隆のピアノは哀しみを伴いながらも、人間の美しさを追い求める人類賛歌のようだ。





4年程前から全国コンサートを繰り返しており、すでに「加古隆」は一流作曲家としての地位を築いたといっても過言ではない。だが、小生の知る元々の彼はフリージャズのピアニストなのだ。芸大卒業後、現代作曲家を目指した彼はパリに留学するのだが、元々好きだったJAZZに傾倒し、TOKというバンドで現地デビューするのだ。高校時代からJAZZに親しんだ私は、彼の演奏もたまに聴いていた。もう40年位昔の事だが、変貌した彼の演奏を今まさに聴いている事に時の流れを感じる。70歳を越した彼は白シャツに黒帽子を纏い、いまだにダンディそのものだった。終演後、鳴り止まぬ拍手の中で弾いたアンコール曲は「黄昏のワルツ」という短いソロピアノ曲だった。あの激しいフリージャズの熱情が、こんなに優しい旋律に昇華されていた。心洗われるコンサートの開催に感謝の日だった。





先日、ZOZOマリンスタジアムで開催されたスパーソニックが物議を醸した。主催者側は感染対策に万全を期し、アルコール厳禁、間隔を開けた全席着席に変更したそうだ。そもそも屋外なので換気も良い。冷静に見れば、本日のコンサートの方が『密』だ。どうも、若者主体のロックコンサートは分が悪い。そろそろ日本も、ワクチンパスポート導入含めてイベント開催、夜間飲食への客観的な検証をすべきであろう。ワクチン接種が進み、「WITH コロナ」に向けてギアチェンジする時期だ。いい加減、コロナ被害の事業者に光を当てなければならない。


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『少年の君』 [上映中飲食禁止]


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進学校に通う高校3年生の少女チェン・ニェンは、大学進学のための全国統一入学試験を控え重苦しい日々を過ごしていた。ある日、一人の同級生が陰湿ないじめを苦に自殺し、彼女が新たないじめの標的となる。いじめっ子たちの嫌がらせが激しくなっていく中、チェン・ニェンは下校途中に集団暴行を受けている少年・シャオベイと出会う。共に孤独を抱えた彼らは次第に心を通わせていく。(シネマトゥデイより)

今の中国を覆う社会問題を、涙なしには観られない青春恋愛ドラマの体裁に落とし込んだ見事な力作である。2019年の香港・中国の合作映画で、民主主義陣営からは問題提起の多い中国だが、国の抱える病巣には我国以上に向き合っていると感じる政府公認の作品であり、当然の如く中国国民からも高く評価された。

冒頭から現在の中国の受験地獄の実態を目の当たりにさせられる。共産党支配と言いながら実態は自由経済市場を確立した中国でも学歴による格差問題が表面化している。低所得層がそこから脱出するには、超難関の一流大学に入学し、グローバル企業に入社するか共産党の幹部候補生になるしか成功の道は無いのだ。70年代の日本とも比較にならない熾烈な生存競争が、各都市の進学校で繰り広げられる。同級生は全て敵であり、その鬱屈とした環境から陰惨なイジメが後を絶たない。

母子家庭のチェン・ニェンは重慶(らしい?)のマンモス進学校に通う高校3年生。借金に追われる母は常に出稼ぎ状態で、彼女はほぼ一人で生活しながらもトップクラスの成績を収め、目標の北京大学も合格圏内だ。ある日、校内で飛び降り自殺したクラスメイトの遺体に上着を掛けてあげた事で全校生徒の注目を浴びてしまう。そして、その日を境に陰湿なイジメの刃が彼女に向かう。チェンの家庭環境と彼女が追い込まれていく様が淡々と描かれて行く導入部だが、痺れるようなリアルな緊迫感を生み出したのは、前半をほぼ台詞無しで演じたチョウ・ドンユイの力だ。

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撮影当時は25歳だが、運命に翻弄される女子高生になりきった迫真の演技は、まさに女優の鏡と言える。普通に着飾れば、スリムなモデル系美女だ。

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イジメがエスカレートし髪をザンバラに切られた彼女は、髪型を丸刈りにせざる得なくなる。本気の演技に胸が締め付けられる。今作の魅力は彼女の熱演失くして語れない

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チェンが出会う街のチンピラ青年シャオペイ役にイー・ヤンチェンシー。中国では人気のアイドルグループのメンバーらしいが、当時の18歳が等身大に純真なワルを好演だ。

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ひょんな事から出会ったチェンの用心棒を引き受ける事になるが、次第に二人は惹かれ合うようになる。シャオペイは、大学合格とそれから広がるであろう幸福を叶えてあげたいと、自分の身を賭して彼女を守りぬくと誓う。チェンは彼の気持ちを受け入れ、北京大学合格という目的と共に、都会で二人の生活を築きたいと夢見る。環境も背負っているモノも全く違う二人が、お互いに抱える孤独を糧に愛を膨らませる姿がいじらしいほど美しく描かれて行く。そして純愛ドラマの王道パターンは、更に二人を追い詰める。シャオペイの存在で一時は沈静化していたイジメだったが、執拗な首謀者は諦めていなかったのだ。

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イジメグループのリーダー役を演じたジョウ・イエ。可愛い過ぎるからこそ残忍さが際立つ深窓の令嬢を好演だ。イジメっ子になってしまった経緯を暗に伺わせる演出も光り、彼女も受験戦争の犠牲者だと作品は訴える。彼女の死の謎が、後半を一気にサスペンス調に展開させ、チェンとシャオペイの運命を決定づける。館内は至る所からすすり泣きが聞こえ、へそ曲がりな小生もここまでストレートに純愛を魅せられて不覚にも目頭が熱くなった。

今や世界経済を牛耳る大中国が抱える社会問題を真正面から捉えた今作は、紛れもなく社会派ドラマの秀作だ。その重いテーマを、手に汗握るサスペンスを織り込んだ青春迸るラブロマンスに昇華させた香港出身デレク・ツァン監督の手腕に拍手喝采である。全般を通じて、心も視線も『痛い映画』なればこそ、ラストの爽快感も格別だ。しかも問題提起は残しつつ。中核都市重慶の「今」を切り取ったカメラアイが秀逸、ストーリーに自然に溶け込んだ音楽も素晴らしい。こういう香港系映画なら中国共産党も認めるのか、と隣国の奥深さにも意外と感心したりして...

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『サマーフィルムにのって』 [上映中飲食禁止]

[ぴかぴか(新しい)]なんと爽やかでキモチ良い作品だ[ぴかぴか(新しい)]

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黒澤明やマキノ雅弘などの時代劇映画を愛する高校3年生のハダシ(伊藤万理華)は、所属する映画部が青春恋愛映画ばかりをつくっていることに不満を抱いていた。ある日、ハダシの前に武士役にぴったりの凛太郎(金子大地)が現れる。ハダシは仲間とともに時代劇をつくろうと張り切るが、凛太郎はタイムトラベルで現代にやってきた未来人だった。(シネマトゥデイより)

青春の甘酸っぱさと映画への熱き想いが一杯詰まった宝石箱みたいな作品だ。若手俳優陣のフレッシュな演技が夏の涼風となってスクリーンからそよぐ。ウイットに富んだ設定と小気味良い演出を観るにつけ、主人公以上に製作陣の映画愛を感じてしまう。

女子高生ハダシ(伊藤万理華は映画部所属だが熱狂的な時代劇ファンの為、変わり者の扱いだ。文化祭に上映する映画部の作品がベタなラブコメとなり、彼女は反旗を翻し独力でガチな時代劇の製作を決意する。親友である天文部のビート板(河合優実)、剣道部のブルーハワイ(祷キララ)と一風変わった男子生徒達を集め製作チームを組む。そしてハダシが街中で時代劇にピッタリと一目惚れした凛太郎(金子大地)を強引にスカウトし、主役に抜擢だ。ラブコメ製作の主役兼監督である花鈴(甲田まひる)とのプライドを賭けた女子高生監督の戦いの火蓋が切って落とされ、素人軍団のハダシチームは悪戦苦闘を繰り返しながらもクランクアップ目前となる。そんな時、凛太郎がタイムマシンでやってきた未来人と知る。彼は、後に巨匠となるハダシの作品の狂信的ファンであり、更に彼の時代には「映画はほぼ死滅」しているのだった。悩めるハダシ監督の記念すべき第1作は完成するのか、それは彼女自身が納得できる作品となったのだろうか...

ハダシが素晴らしい[かわいい]
元乃木坂46と言われてもピンと来ないのである。昨今の大人数グループの個人を見分ける芸当を持ち合わせておらず、限界はキャンディーズ3人までだなと思い込む爺いにとって、主演の伊藤万理華は新鮮な驚きだ。元アイドルとは思わせない存在感だ。

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乃木坂時代
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ショートカットでボーイッシュに変身し、時代劇オタクの熱血監督をコケティッシュに演じた。今作の観客にはアイドル時代のファンも多いと思われるが、前歴・先入観抜きに将来有望な女優だと確信できる。川栄李奈か末は永作博美か、割と玄人好みのタイプかな。ハダシを囲んだ共演陣も今後の活躍が楽しみだ。河合優実、祷キララ、そして今作の脚本家・三浦直之が手掛けた『NHKドラマ腐女子、うっかりゲイに告る。』の主演も演じた金子大地。

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異彩を放ったのはハダシのライバル役の花鈴を演じた甲田まひるだ。彼女の方が元アイドルの様なキラキラ女子高生を演じたが、16歳でジャズピアニストデビューし、SSW・モデル・女優などマルチで活躍する二十歳のアーチストだ。劇中でも彼女の楽曲が使用されている。とにかく最近の日本の若者は凄いと思う。東京オリンピックでも再認識したが、スポーツ界も芸術界も世界に通用する若者が着実に成長している。日本の将来を嘆く人々も多いが、小生はさほど悲観していない。政治界もいずれ変わる。こんな若者がいる限り、まだまだ日本の未来は明るい。こじ付けがましいが、この作品にも、そんな暗喩を感じるのだが...

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PLANKTON

PLANKTON

  • アーティスト: 甲田まひる a.k.a. Mappy
  • 出版社/メーカー: ソニー・ミュージックダイレクト
  • 発売日: 2018/05/23
  • メディア: CD
 
今作には大人はほとんど出演しない。高校の教師も主要人物の家族も存在感無しであり、彼らの自主製作映画同様に、若者しか登場しない異質な作品なのだ。一見、日常の高校生活を描きながら、実は若者の青春エキスのみを凝縮して一気に解き放つ大胆不敵な構成なのだ。80年後には、1分以上の映像作品は皆無となり、世界中から映画館は消えたと未来からの青年は話す。現在すでに、映画や小説を5分程度でエッセンスのみを理解させる動画や書物が増えている。最近、高額な賠償金でニュースにもなった「ファスト映画」などだ。そんな軽薄な鑑賞法で心揺さぶる映画に出会えるはずはないにだが、トレンドらしい。若き製作陣の映画への熱き想いが、『映画も恋愛も素晴らしいものは未来に繋がるんだぁ〜』と、純粋にひた走るハダシを座頭市に扮装させ、表面上の薄っぺらいものを一閃でぶった斬る[むかっ(怒り)]文化祭のラストシーンの爽快感は、近年の邦画では抜きん出ている。異色の傑作である[グッド(上向き矢印)][グッド(上向き矢印)][グッド(上向き矢印)]




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『白頭山大噴火』 [上映中飲食禁止]


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北朝鮮と中国の国境付近に位置する火山・白頭山で、観測史上最大級の噴火が発生する。噴火によって大地震も誘発され、ソウル市内のビル群が倒壊するなど人々はパニックに陥る。白頭山の地質研究の権威である大学教授カン(マ・ドンソク)がさらなる大噴火の発生を予測したことを受けて、韓国政府は韓国軍大尉チョ・インチャン(ハ・ジョンウ)と彼が率いる爆発物処理班に対し、北朝鮮に潜入して火山沈静化を図る秘密作戦の遂行を命じる。そのためにインチャンたちは、作戦成功の鍵を握るとされる北朝鮮人民武力部の工作員リ・ジュンピョン(イ・ビョンホン)を見つけようとする。(シネマトゥデイより)

SFアクションの王道を行く韓国の大作だ。ハリウッドの名作の既視感オンパレードだが、そんな事はお構いなしに突き進むパワーに酔いしれる。

白頭山(ペクトサン)の噴火により韓国全土に大地震が襲う設定である。地震大国に生まれ育った日本の観客からすると、冒頭のビルの倒壊シーンなどは「地震でこんな倒れ方はしない」のは脳裏に焼き付いおり、荒唐無稽な描写に失笑を禁じ得ない。コテコテCGの「インセプション倒壊状態」の中を乗用車が猛スピードで疾走などすれば、「地震が身近ではない国」との違いを隣国でありながら感じてしまう。そう我がニッポンは世界基準で見れば「災害大国」であるのを再認識する。

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ストーリーは、この荒唐無稽さをパワーアップして突き進むのみだ[どんっ(衝撃)] 白頭山は更に3回の噴火を繰り返し、最後に引き起こされる地震により朝鮮半島の80%が壊滅するという分析がされた。4度目の噴火を止めるには、地下深くのマグマ近辺を人為的に爆破し噴火エネルギーを分散するしか方法は無い。だが、その爆発には核爆弾級の威力が必要だった。核を持たぬ韓国政府は、北朝鮮の秘密基地に侵入し核弾頭を盗み出し、白頭山地下で爆破させる計画を打ち出す...なんと無茶な...いや、これが映画じゃ[わーい(嬉しい顔)]

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その特殊任務メンバーに選出されたチョ・インチャン大尉をハ・ジョンウが好演。徴兵で爆弾処理班に所属するが、除隊期限目前で臨月の妻の元に戻るのを心待ちにしている優しき男だ。北朝鮮への侵入作戦は、まさに「ブラックホークダウン」か「プライベートライアン」並みのシーンの連続だ。白頭山爆破チームの輸送機が火山灰で墜落し、核弾頭の設置のみで帰還予定だった戦闘経験の無いチョのチームが最後まで遂行する羽目になり、彼がリーダーに任命されてしまう。最初の関門が、核爆弾倉庫の場所を知るリ・ジュンピョン(イ・ビョンホン)の救出である。スパイ容疑で北朝鮮内に投獄されているが、中国とのパイプもあり二重スパイの可能性もある危険人物でもある。

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イ・ビョンホン〜韓国内では大スターのようだが、小生は『JSA(2000年)』での兵長役での活躍しか知らなかった。20年が経過し、苦みばしった中年男に再会である。深みのある感情表現は当然見事だが、お尻丸出しの野糞シーンも厭わず、またそれが絵になる俳優だ。チョ大尉に協力し、核弾頭の抜き出しを成功させ、部隊は爆発地点の白頭山に向かう。だが、国境近くでの核使用を阻止したい中国が暗躍し、リ・ジュンピョンに極秘の指令を下す。一方でアメリカも韓国政府の危険な賭けに危惧し、作戦中止を要請し北朝鮮内に米軍を投入する。各国の思惑が蠢く中、三竦み四竦みの戦いが展開されていく「007シリーズ」状態へ。互いに命を賭けて任務遂行を目指す謎のスパイ・リとチョ大尉の運命はいかに...果たして白頭山の噴火を止められるであろうか...

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脇役陣も多彩な上に、人物描写も丁寧な演出だ。青瓦台の女性幹部役チョン・へジンとアメリカ籍科学者役マ・ドンソクがアメリカの監視をかいくぐり遠隔地のチョ大尉に情報を送る。妻役ぺ・スジは、身重でありながらダム決壊の大洪水に飲み込まれても無傷で(笑)、夫の帰りを待つ。北朝鮮内の激闘一辺倒でなく、ソウルの3人3様の行動と心情も並行して描き、作品に抑揚がつき、終盤のクライマックスに寄与した。

ラストはまさに『アルマケドン』[ひらめき][ひらめき][ひらめき]  さてブルース・ウィリスはイ・ビョンホンかハ・ジョンウか[exclamation&question] 韓国映画のパワーを感じさせる娯楽大作だった。




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『プロミシング・ヤング・ウーマン』 [上映中飲食禁止]

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明るい未来が約束されていると思われていたものの、理解しがたい事件によってその道を絶たれてしまったキャシー(キャリー・マリガン)。以来、平凡な生活を送っているように思えた彼女だったが、夜になるといつもどこかへと出かけていた。彼女の謎めいた行動の裏側には、外見からは想像のできない別の顔が見え隠れしていた。(シネマトゥデイより)

小生が憧れる審美眼をお持ちのLaby様のレビューに魅かれての鑑賞なのです[かわいい]

一言では表現できない魅力に溢れた作品であり同時に困惑も付きまとう不思議な作品だ。サスペンスを装いながら極太の社会派ドラマであり、アーティスティック度も非常に高い。流石、Laby様^^

冒頭から戸惑いと衝撃なのである...

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あのキャリー・マリガンがこんなに変貌していようとは[がく~(落胆した顔)]「ドライブ(2012)」「わたしを離さないで(2011)」での可憐だが意志の強いキューティ・ブロンドに胸キュンだったのだが、ほとんど狂った「ハーレイ・クイン」状態ではないか[exclamation&question]

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毎夜クラブで派手な衣装で泥酔し、男に「お持ち帰りされる女」を演じる。餌食にされる寸前に正気に戻り、男の『股間』と『プライド』をズタボロにして帰る正体不明の美女キャシーを演じる。医師免許も持つ英才でありながら、昼間は喫茶店で無愛想なアルバイトととして生計を立てている。誰にも心を開かず、ナンパ男への復讐を繰り返す彼女の「怒りの源泉」の謎がサスペンス調に解き明かされて行くのが前半部だ。学生時代のパーティで、泥酔した男子生徒に慰め者にされた親友が心に闇を抱えたままその後に自殺して以来、キャシーは女性の弱みに付け込む男性を毛嫌いし、事あるごとにそんな彼らを痛めつけていたのだ。
ようやく親友を死に追いやった張本人の消息を知った彼女は、男性全般への仕返しから具体的な標的への復讐劇を開始する。それは、犯人を不問に付した当時の関係者から見て見ぬ振りをした者にまで向けられる。キャシーの用意周到かつ冷酷無比な手法は、観る者を快感に導く。キャリー・マリガンがシーンごとに纏う個性的なファッションとアートなセット、展開と不釣り合いな音楽の挿入が、観る者の快感と不安感を双方増幅させる稀有な脚本・演出だ。

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女流監督らしい視点から独特な表現法を用い「女性蔑視」を強く訴えた力作である。だが、その本質は更に深い。「殴った者は忘れるが、殴られた者は忘れない」「犯した罪は一生消えない」という男女差別を超越して『罪と償い』の意味を問う。国家間で言えば、現在も重くのしかかる日本と韓国の戦争犯罪問題であり、卑近な例なら東京オリンピック直前に過去の問題で辞任・解任されたクリエイター達だ。更に、他人の罪を見過ごした者も同罪だと作品は突きつけてくる。こんな重すぎるテーマを、視覚・聴覚に残り続ける敢えてアンバランスな演出に封じ込めているのだ。ラストシーン〜後味の悪さも天下一品であり、終映後も喉に小骨が刺さったままの感覚が残っておれば、それこそ製作陣の思う壺に他ならない。凄い映画だ[ぴかぴか(新しい)]




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