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『最後の決闘裁判』 [上映中飲食禁止]

男の本質を暴くリドリー・スコット驚愕の大復活作[exclamation×2]

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中世のフランスで、騎士カルージュ(マット・デイモン)の妻マルグリット(ジョディ・カマー)が、夫の旧友であるル・グリ(アダム・ドライヴァー)から暴力を受けたと訴える。事件の目撃者がいない中、無実を主張したル・グリはカルージュと決闘によって決着をつける「決闘裁判」を行うことに。勝者は全てを手にするが、敗者は決闘で助かったとしても死罪となり、マルグリットはもし夫が負ければ自らも偽証の罪で火あぶりになる。(シネマトゥデイより)

巨匠監督の感性が80歳を過ぎて突然覚醒したのだろうか?
「エイリアン」「ブレードランナー」「グラディエーター」「ブラックホーク・ダウン」などジャンルを超越して小生好みの名作を世に送り続けた稀代の映像作家が、新たな切り口で中世の史実を紐解く傑作を生み出した。

今作の舞台は中世ヨーロッパ・百年戦争時のフランスだ。そして、マット・デイモンアダム・ドライバーが騎士役で登場となれば、リドリー・スコットお得意の『漢のドラマ』〜蘇る「グラディエーター」の感動[exclamation×2]・・・と胸が高鳴ったのだが、それは自分の勝手な思い込みだった事を知る。これは『男の愚かさを高らかに謳った人間ドラマ』なのだ[むかっ(怒り)]

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英国との戦争で幾度も死線をさまよい、二人の兵士は親友の絆を深めていく。カルージュ(マット・デイモン)は、小領主の家系で家勢が衰えたとは言え、国王に忠誠を誓う誇り高き男だ。一方のル・グリ(アダム・ドライバー)は名も無き商家の生まれから従騎士に出世した野心溢れる英才だ。この地を治めるピエール伯(ベン・アフレック)は、粗野なカルージュを毛嫌いし、知性豊かなル・グリを可愛がり重用していた。貴族の一人娘マルグリット(ジョディ・カマー)と結婚したカルージュは経済的に恵まれたのも束の間、義父の税金滞納で大事な土地を奪われ、亡き父の後を継ぐはずだった軍長官の職にル・グリが就くことになる。ピエール伯の横暴な決定に憤ったカルージュは王朝に直訴するが、当然のごとく敗訴し、彼のかつての名声は地に堕ちてしまう。三年後、旧友の宴に招待されたカルージュはマルグリットに促され、久しぶりに公の席に出席する。その場で、溝が深まっていたル・グリと固い握手をかわし、ピエール伯に忠誠を誓うことで漸く名誉を回復するのだった。パーティの最中、マグリットを見つめるル・グリの熱い視線が、その後の悲劇を生むことになる。

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美貌と知性、内助の功までも併せ持つ逞しきマルグリットは新進女優のジョディ・カマー。TVドラマで人気を博したが、映画での大役は初めてだ。名優が演じる屈強の騎士二人に愛を注がれるが、一方で男の本能を露わにさせ、それに翻弄される数奇な運命を歩む女性を、内に秘めた熱き炎まで緻密に演じた。英国リヴァプール生まれのブロンド美人、一昔前の気品と色気を兼ね備えた女優の香り〜小生好みでございます[揺れるハート][揺れるハート][揺れるハート]美しき彼女の存在感が史実に基づくこの映画を華やかに魅せ、男の脆さと中世から現代にまで通じるジェンダーギャップまでを浮き彫りにさせた。

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カルージュが出張中に留守宅に訪れたル・グリは、募る想いをマグリットに打ち明ける。自信家である彼は人妻も同様の想いであると確信していたが、彼女に固辞されるや強姦に及び、家の幸福を願うなら口外せぬよう脅すのだった。男の支配欲を満たすのみに蹂躙されたマグリットは悩んだ挙句、帰還した夫に全てを話す。彼は本来なら自分が得る地位と財産を奪い、妻の貞節まで汚した元親友を訴えるのだった。自分の自尊心と家の名誉のために。そこには妻への労わりの欠片も無かった。

ここまでの過程がカルージュ、ル・グリ、マグリット3人の視点から順番に描かれていく。内容はほぼ同じなのだが、雑誌に載る「二つの絵の違い探し」の様な微妙な相違が各々の男女の感情の行き違いを窺わせる独特の演出になっており、それが本作の本質でもあるのだ。
訴訟は国王立会いの裁判にまで発展したが、ル・グリは一切の事実は無いと無実を主張し、マグリットと真っ向から対立、証人の居ない事件の裁定は暗礁に乗り上げる。カルージュは、何十年間行われていない『決闘裁判』での決着を直訴する。一対一の決闘での勝者が神託を得た正しき人間であるという12世紀まで使われた裁判なのである。「夫が負けた時、妻の貴女は裸で磔にされ生きたまま焼かれますが構わぬか?」の問いにマグリットは気丈に「はい」と答えるのであった。そう、彼女は妊娠しているのだった。

元親友同士の決闘シーンは壮絶そのもの、リドリー監督の面目躍如たる殺陣の極みだ。血を流し合う二人を虚ろに見つめるマグリットは何を思うか、ただ願うは生まれ来る我が子の命だけか。果たして神託を受ける者はどちらに...

小生が特に印象に残ったシーンがふたつある。
マグリットがル・グリに暴行された事実をカルージュに涙ながらに話した晩、「あいつをお前の最後の男にしない」と夫は無理やり妻をベッドに押し倒すのだった。
そして、訴訟後にカルージュの母が「何故、表沙汰にするのだ。私も若い頃あなたと同じ目に遭ったが自分だけの秘密にした」と責め立てた。マグリットが「その代償はなに?」と聞くと「今も穏やかに生きているわ」と冷たく答える義母。

『決闘』という『男らしさ』の象徴のような言葉に隠された滑稽なほどの男の愚かさを、あの「戦い好きな」リドリー・スコットが描き尽くした異色作だ。しかも現代の女性目線までも包含した主題は、中世から現代のme tooまで続く男女差別に激しく警鐘を鳴らしている。まさに凄惨かつドラマチックでありながら、情けない男達をブラックコメディ仕立てに祭り上げるという奇妙なバランスに富んだ本作は、近年際立った作品が少なかったリドリー監督の完全復帰作と言って良い。83歳にして恐るべし[がく~(落胆した顔)] レディ・ガガ主演「ハウス・オブ・グッチ」の公開も間近、こちらも楽しみだ。

結局、マグリットが宿した子の父がどちらかは謎のまま。やはり女は怖い、母は強しか、いやこの考えこそ女性差別か。全ての男が情けないのは先刻承知であるが、それでも小生は「女性の柔らかみ」と「脚線美」を追い求めてしまうスケベ昭和爺いなのでございます[かわいい]




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らーめん一途【拉麺・錦糸町】 [江戸グルメ応援歌]

B級グルメ激戦地である錦糸町では、今回のコロナ禍でラーメン店の栄華盛衰を垣間見る事が出来る。残念ながら、この2年間で小生お気に入りの2店舗が消えた[たらーっ(汗)][たらーっ(汗)]


「あさり」と鶏ガラを合わせた美し絶品スープの『しお丸』

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レトロな内外装、あっさりなのにコク深い豚骨風味、選べる細太麺『ヨシベー』
(千葉県八千代市の本店のみで営業継続中らしい)

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超濃厚・背脂ギットリスープはとうの昔に卒業し、麺もスープもじんわりと素材の味が感じられる自然なラーメンが好きだ。何時行っても、同じ兄ちゃんが作ってくれる店が嬉しい。本物志向のマイナー路線に拘る店主にとって、今は苦難の時代だ。繁華街での高家賃、人手不足での労務管理+コロナ禍となれば、大チェーン店か家族労務の自宅営業店に分がある。緊急事態宣言明けで賑わっている錦糸町の店の大半は、フランチャイズ系の“ガツンと濃い味”の店舗だ。

そんな中で、『麺や左市』https://tsumujikaze3.blog.ss-blog.jp/2019-06-12)(此処はフレンチレストラン系列だが)と共にいまだ奮闘している小生のお気に入りがこの店である[かわいい]

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開業して7、8年経過しており、個人経営と思われるが頑張っています。調理場は常に1名で切り盛りしている。当初は2名の交代制だったが、最近は店主と思しき兄さん一人しか見かけない。店名そのままに、店主のラーメンへの一途な想いが伝わる丁寧な作りと独自の味付けが、有名チェーン店との「格の違い」を際立たせる。

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九条ネギのキラメキが眩しい。甘辛シナチクと赤身チャーシューにも手抜かりは無い。そしてストレート細麺が3層から成るスープに横たわっている。表層は背脂賑わうトロリ感を演出し、中間層はさっぱり系の鶏ガラ懐かし味、最下層が一味の効いたピリ辛なのだ。見た目よりしつこさは全く感じられない奥深い味。レンゲで3層をかき混ぜたスープと非常に甘みが強い味付玉子と麺を一気に口に運べば、複雑な味が渾然一体となって恍惚の時が訪れる[ぴかぴか(新しい)]食べ進めれば丼の内側に現れる「一途」の文字が洒落ている。

(こちらは辛にんにく麺〜ノーマルより若者向きかな)
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九条ネギごはんは超シンプル〜胡麻油と合う[かわいい]
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店主は京都有名店出身らしい。言われてみれば合点がいく。昔、京都市内でも2年ほど仕事をしていたので、京の食文化も多少は理解している。伝統を重んじる和食をイメージしがちだが、味への探究心が強いがゆえに、全ての料理において革新的である。それはラーメンと焼肉に顕著に現れる。東京には無い深みのある味に幾度と無く感動したものだ。あの元祖ドロドロスープの「天下一品」も京都創業だし、京都駅近くの跨線橋脇に並ぶ老舗「新福菜館」と「第一旭」の味は唯一無二だ。まさに『故きを温ねて新しきを知り』ながら、日々研鑽を怠らない姿勢をこの店にも感じてしまうのだが。飲食店の苦境は続くと思われるが、この店は永く応援し続けて行きたい[exclamation×2]

昔の博多ラーメンブームの影響か、普通のラーメン店でも、とりあえず「麺固、味濃」をオーダーする方が増えたような気がする。所詮、個人の好みの問題ではあるが、本気印の職人が作る店では、とりあえず店主おすすめのノーマルから食して欲しいなぁ〜




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佳き日 [寫眞歳時記]


今年2月末に入籍した長女の結婚披露宴が催された

コロナ禍で紆余曲折ありながら規模を縮小し本日の運びとなる

すでに夫婦然とした二人ではあるが

多くの方々の前で誓いを立て、皆から温かい祝福を受け

気持ちを新たにしたに違いない


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札幌転勤中に生まれた娘は身体も小さく病弱だった

ぬいぐるみをいつも抱え引っ込み思案の内弁慶

性格も体質も父親とは真逆

B型蠍座と旋毛が二つあるのが数少ない共通点

それがいつの間にか逞しく成長し

ダンス部で活躍するわ、1年間フランス留学するわ

一人で深夜のラーメン屋にも入れる父に似た図太く明るい女性になった

少しづつ背伸びをさせてあげた妻の力に感謝

これ以上父の変な血が目覚めない事を祈る

波乱万丈、喜怒哀楽に満ちて結構

二人で人生をたっぷり謳歌してくれ

なんとか施設に居る認知症の母にZOOMで孫の白無垢姿を見せられた...良かった

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『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』 [上映中飲食禁止]

小生にとってアクション映画の王道シリーズといえば『007』『M:I』が双璧である。緊急事態宣言解除直後に、待ちに待ったこの大作と出会えた幸せ〜奮発して思わずIMAX鑑賞なのだ[かわいい]


そういえば今夏、アベンジャーズシリーズの「ブラック・ウィドウ」劇場公開が中止となった。アメリカでディズニー社が劇場とネット配信を同時公開し興行収入が激減、主役のスカーレット・ヨハンセンが損害賠償訴訟を起こす事態となった。これを受けて、日本の大手シネコンもデイズニー社に反旗を翻した訳だ。コロナ禍という特異な状況下で多くの人に鑑賞させたいディズニー社の意図も理解できるし、青色吐息のシネコン側の反発も分かる。ただ、個人的な趣向からすれば、あのヨハンセンのムチムチボディは大スクリーンで観なければ興奮しないので、劇場公開して欲しかった。映画業界の苦境を慮り、双方の冷静な協議が必要だったと思う。結局、熱心なファンを失っては元も苦もないのだ。『映画』として作られた作品はスクリーンでこそ、その価値が伝わる。スマホで見られる韓流ドラマとは違うのである。


前書きが長くなったが、だからこそ今作はIMAXの大迫力で一際輝くのだ[どんっ(衝撃)]


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諜報(ちょうほう)員の仕事から離れて、リタイア後の生活の場をジャマイカに移した007ことジェームズ・ボンド(ダニエル・クレイグ)は、平穏な毎日を過ごしていた。ある日、旧友のCIAエージェント、フェリックス・ライターが訪ねてくる。彼から誘拐された科学者の救出を頼まれたボンドは、そのミッションを引き受ける。(シネマトゥデイより)

ダニエル・クレイグがジェームス・ボンド役となって通算5作目、すでに16年の月日が経過している。役者本人も53歳となった。その老兵ダニエル・ボンドの集大成を思わせる構成と過去のシリーズとは異質の感慨が駆け巡る大作である。

ファンの方なら承知の通り、007シリーズとして25作目であるが、ダニエル主演の5作のストーリーは完全に時系列で繋がっている。この新作鑑賞後にネット配信で過去4作を改めて視聴したのだが、ダニエル・ボンドの多分?最終作に感慨もひとしおとなった[たらーっ(汗)][たらーっ(汗)][たらーっ(汗)]
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雪に覆われた湖畔の家に能面を被った男が母娘を襲うジェイソンばりのオープニングと思いきや、これがマドレーヌ・スワンの幼少期の隠された過去だと判る。前作からの延長で、MI6を引退したジェームスは恋人となったマドレーヌとイタリアのマテーラを訪れていた。ジェームスは初めて愛した女・ジャスパーの墓参りをし、永らく引きずっていた気持ちにケジメをつけて、マドレーヌとの新生活をスタートする決意だった。だが、ヴェスパーの墓碑は爆破され、ジェームスは正体不明の刺客達に命を狙われる。石畳でのカーチェイス、橋上からのダイブ、愛車アストンマーチンの回転マシンガン乱射など、007ファン垂涎のアクションシーンの連続に頬が緩む。ジェームスは、元スペクター幹部を父に持つマドレーヌの裏切りだと確信し、彼女を長距離列車に乗せ別れを告げるのであった。そして5年の歳月が経過した...

この導入部で007を取り巻く状況を理解するには、せめて前作「スペクター」と1作目「カジノロワイヤル」を鑑賞していないと厳しいかも。「いい女は抱いても惚れない」歴代007の常識を覆し、敵スパイ・ヴェスパーを愛してしまったジェームス。目の前で彼女を失うのだが、ヴェスパーを裏で操っていたのが悪の組織「スペクター」幹部のミスター・ホワイト〜マドレーヌの父である。その後、スペクターを裏切ったホワイトは、娘の保護を条件に組織の秘密をジェームスに打ち明け自死する。そして以前にホワイトが惨殺した家族の生き残りが冒頭に現われた「能面の男」だ。復讐に燃える男はホワイトの留守宅を襲い、母親と幼少のマドレーヌに銃口を向けるのだった・・・と複雑な人間関係なのだが、マドレーヌ役レア・セドゥの魅力とダニエル・クレイグの男気だけでも十分成立する第5作目でもあるのだ[ぴかぴか(新しい)]

小生にとってなにはともあれレア・セドゥ[揺れるハート][揺れるハート][揺れるハート]

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生粋のパリジェンヌ、女盛りの36歳だ。10年程前から話題作のチョイ役で出演しており、ずっと気になる女優だった。同じスパイ映画のM:I4作目(2011年)では、刺客役となってドバイの高層ビルから見事な転落死を遂げたが、圧巻は「アデル、ブルーは熱い色(2013年)」での艶技だった。女性同士の純愛映画だが、自由奔放な芸術家を大胆な性描写含めて繊細に演じた。男に全く媚びない冷たい視線が好きだ。青い瞳の輝き一つで感情を表現できる女優だ。水着やハイレグが似合うモデル体型ではないが、女性独特の柔らかな色気が身体中から溢れてくる。歴代ボンドガールの傾向からは一線を画した魅力なのだ。今作でもCIAの新人諜報部員パルマ役のアナ・デ・アルマスの方がエロチック度では格上なのだが、007同様小生の好みはレア・セドゥ嬢である[キスマーク]

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気儘な隠遁生活を続けるジェームスの前に親友でもあるCIAのフィリックス(ジェフリー・ライト)が現れる。誘拐された細菌兵器学者の救出を持ちかけられ、友人として協力するが、CIA内部の裏切りによりフィリックスは命を落とす。彼は友人の無念を晴らす為、MI6復帰に向けロンドンのMに会いに行く。懐かしのメンバーそろい踏みだ。M(レイフ・ファインズ)、マネー・ペニー(ナオミ・ハリス)、Q(ベン・ウィショー)そしてジェームスの後任になっていた新007のノーミ(ラシャーナ・リンチ)だ。彼らが集結するだけで嬉しくなる。

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ノーミの自己紹介「貴方の後任007よ、傷ついた?永久欠番と思っていたの」に苦笑するジェームスが可愛い。MI6はDNAを利用した細菌兵器を手にした組織を追う。スペクターとも敵対している謎の組織を知る為、ジェームスは拘束中のスペクター総統ブロフェルド(クリストフ・ヴァルツ)と面会する為、5年ぶりにマドレーヌと再会する。既に彼女は能面の男・サフィン(ラミ・マレック)に脅迫されており、仕込まれた細菌兵器によりブロフェルドまで面会中に殺害してしまうのだ。マドレーヌへの疑惑が更に深まるジェームスは彼女の自宅に押しかけるが、そこには5歳になる彼女の娘が居た。ジェームスと同じ青い目をしたマチルダが...

007シリーズ60年の歴史の中でも異質の「愛に溢れた」ジェームス・ボンドの最終章である。サフィンの秘密基地に拉致されたマドレーヌ母娘の救出に向かう新旧007の二人。命を賭して愛する者を救い、かつ使命に殉じるジェームスの姿は、これこそお涙頂戴アルマケドンの王道エンディングではないか[exclamation&question] 完全無欠不死身の007の伝説が崩れた時、ダニエル・クレイグはジェームス・ボンドと決別する。ジェームスに降り注ぐミサイルの嵐は、シリーズを全うしたダニエル・クレイグへの慰労と次の門出への祝砲に見えてしまうのだった。

新進気鋭のC・J・フクオカ監督が、過去作とも遜色の無い演出で無事ラスト作を飾った。当初起用予定だった小生お気にりのダニー・ボイル&ジョン・ホッジのコンビであれば更に斬新な切り口を観せてくれかもしれぬが、致し方も無いところだ。ルイ・アームストロングとビリー・アイリッシュの新旧カリスマの歌う挿入歌が胸に沁みる。

『James Bond will Return』のテロップがエンドクレジットで現れる。次回作の新007は果たして誰か?今作のラシャーナ・リンチがそのまま居座るのはハードルが高いし、ジェームスの一粒種のマチルダが成人するにはあと15年かかる。ただ、スターウォーズも最期は女性を起用したし、「多様性と調和」が求められる現代において既存の007像を追い求めてはいけないのかもしれない。まさか、007は死んでいなかったでは、ダニエル・クレイグもやりにくかろう。老体に鞭打つのは、我が世代のヒーロー、トム・クルーズ様に任せれば良い。『M:I7』公開決定、『M:I8』製作中。こちらも楽しみであ〜る[わーい(嬉しい顔)]

[ぴかぴか(新しい)]ダニエル・ボンド16年の奇跡を振り返る[ぴかぴか(新しい)]

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『ドライブ・マイ・カー』 [上映中飲食禁止]

緊急事態宣言が解除されようが、全く変わらぬ生活を送っている。台風にもめげず、福岡出張をこなし、東京に戻れば普通に外食し、映画も観る。『正しく恐れる』行動を続けていれば、行政のお達しに振り回されてストレスを溜めることは無い。つむじ風流生活習慣だ。ただ日増しに街は人々が溢れ出してきたのを実感する。1ヶ月後の感染爆発が心配ではあるが、兎に角、飲食業が少し元気になるだけでも嬉しい。


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脚本家である妻の音(霧島れいか)と幸せな日々を過ごしていた舞台俳優兼演出家の家福悠介(西島秀俊)だが、妻はある秘密を残したまま突然この世から消える。2年後、悠介はある演劇祭で演出を担当することになり、愛車のサーブで広島に向かう。口数の少ない専属ドライバーの渡利みさき(三浦透子)と時間を共有するうちに悠介は、それまで目を向けようとしなかったあることに気づかされる。(シネマトゥデイより)

原作が村上春樹の短編小説なので当然ではあるが、極めて文学的な香りが強い映画だ。だが凝りに凝った文芸作ではなく、主題を押し付けることなく自然に映像化された巧みな演出と俳優陣の煌めく演技が心地よい佳作である。原作未読だ。春樹信望者でもなく、チェーホフの戯曲にも精通していないが、映画の発するメッセージが心に響く。3時間の長尺に老体の集中力が耐えられるか心配であったが、全くの杞憂だった。

貞淑な妻の浮気...となれば愛憎渦巻くサスペンタッチと思われるが、さもありなん。壮年の脚本家の妻と舞台俳優兼演出家の亭主は双方とも売れっ子であり、二人は何不自由無く仲睦まじく暮らしていた。そして深い愛で結ばれていた。7歳で亡くした長女の幻影と共に。或る日、出張イベントが延期となり、急遽自宅に戻った悠介は、リビングであられもなく男と戯れる妻・音の姿を見る。彼女は自分の脚本がドラマになる度に、目ぼしい男優を自宅に招き入れていたようなのである。二人の愛に疑いは無いはずなのに妻の行動に悩み苦しむ悠介。そして、「今夜、話したいことがある」と言った音は、裕介が帰宅すると脳溢血で急死していた。

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愛し合っているのはずなのに、お互いの心のひだまで歩み寄れていなかった想いがのし掛かる。その言葉を発せぬまま失った妻を常に引きづりながら、裕介は創作活動を続けていた。

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前半は、裕介が抱えるトラウマの発端を丁寧に描く。少々陰気なインテリ芸術家を西島秀俊が違和感なく演じる。この自然さが実に巧い俳優だ。天才肌の女流脚本家を霧島れいかがミステリアスに魅せる。隠微な色気を押し隠したような容姿は小生は好みでは無いが、「声」が魅力的だ。中盤以降も、カセットに収められた彼女の朗読が何度も流されるが、本作の骨格である「言葉の意味」を問うた「声」であり、声質に拘ったキャスティングと思われる。

2年後、裕介は広島での公演を請け負い、現地でのキャスト募集と面接を行う。題材はチェーホフの戯曲であり、彼の得意分野だ。俳優は数々の外国人を多く登用し、それぞれの母国語で台詞を話す。舞台上では何ヶ国語が飛び交い、対訳が舞台上のスクリーンに映し出される独特の演出方法を使う。この中盤以降、裕介は多くの人間と関わりを持ち始め、妻の死で見失ってしまった答えを探し出すことになる。まず、キャストに募集してきた若手俳優・高槻。妻・音の最後の浮気相手だ。裕介とは真逆の饒舌家であり、他人との距離を縮めるのが得意だ、男女問わず。数多の言葉を使いながらも、自分の奥深くに眠る熱情と凶暴性を表現しきれない男を岡田将生が好演だ。TV連ドラの常連でもあるが、優しい顔立ちに似合わず、非常に芸風が広い将来有望な俳優だ。彼の存在が主人公の孤独感を際立たせたと言っても過言では無い。そして、裕介の専属運転手として雇われ、彼の愛車 ・サーブを操る寡黙な女性・みさきに三浦透子満島ひかりを更に不機嫌にしたような顔立ちがアンニュイ。喪失感を抱えた裕介と徐々に距離を縮め、お互いの孤独を共有し、ついにはぶっきらぼうなセリフに隠された心情を吐露して行く過程をごく自然に演じた。

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死んだ妻と心の交感を出来なかった悔恨を抱えた裕介は、そんな彼らとの交流を通してその呪縛から徐々に解き放たれて行く。「言葉を伝える」ことと「心を伝える」意味を知って行く。舞台練習の本読みを敢えて棒読みさせ、本番に向け少しづつ言葉に命と真実を乗せて行く展開が緊張感を孕みながら見事だ。特にプロモーターの聾唖の韓国人妻も彼の演劇に参加するのだが、手話での台詞回しが健常者以上に力強く伝わってくるのである。このユナ役のパク・ユリムの美貌と健気な手話は作品中でも異彩を放ち、その存在が「言葉の意味」を更に浮き上がらせた。

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後半からは静かなる怒涛の展開だ。公演直前に高槻が傷害事件で逮捕され、主人公役が不在となる。全ての台詞を覚えているのは演出家の裕介だけだ。多くの関係者は彼の舞台出演を願う。だが、彼は妻の死後は一度も舞台に上がらず、演出のみに専念していたのである。「言葉を伝え演じる」ことに恐怖を感じていたのだ。悩み苦しむ彼は、ふと運転手のみさきに言う、「君の生まれ故郷に行ってみたい」と。みさきは素っ気なく了承し、車は広島から一路北海道に向かうのだった...
裏山の土砂崩れで母を亡くしたみさきの生家は既に跡形もなく、家の残骸に冷たく雪が降りしきっていた。物憂げに眺めながらみさきは、母の前では「良い子を演じ」続けて苦しかった事、母が生き埋めになった時に助ける気にならなかった事を話す。何かを通じ合った裕介に魂の言葉を投げかけるみさき。裕介は「貞淑な妻を演じた」まま亡くなった音を想い、演じさせ続けた自分の不徳を知る。彼は舞台に立つ決意をするのだった。今度こそ心を伝える為に。

ラストの「言霊」が交錯する舞台初日は、これまでの積み上げられたストーリーと伏線が一気に凝縮して放射される至福のシーンとなる。179分間を脇目も振らさずスクリーンに釘付けする言葉の力と研ぎ澄まされた俳優陣の演技を、もののみごとに融合させた濱口監督の感性と手腕に感服する。原作を紐解けば更に違う感動が押し寄せたかもしれぬが、小生ような不勉強者にも十二分に堪能できた傑作だった。言葉を操る真の役者の凄さまで改めて気付かせてもらった。


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