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東京割工業 [寫眞歳時記]

子供の頃から慣れ親しんだ風景が消えるのは寂しい。

私の住む町内で一番古いと思われる工場が先日取り壊されていた。


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東京都墨田区は今でも「ものづくりの街」と呼ばれるが、私が幼少の頃は近所の至る所に町工場が在り多くの職人が住んでいた。金属プレス、ガラス製造、木材加工などの下請けの小さな工場が散在し、子供達の絶好の探検の場でもあった。まだ大らかな時代で、小学生が勝手に忍び込んでも、そのまま仕事を見学させてくれたものだった。

「東京割工業」は創業100年を越す皮革プレス専門の会社だ。国道6号線沿いに建つ工場は、私が物心つく頃から稼働しているので、築60年以上は間違いない。大きなプレス機で職人さん達が色とりどりの革に型押しの作業をしている姿が今でも思い浮かぶ。

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正面の半円ドームのフォルムとボロボロのホーロー看板が印象的な外観だった。昨年末に廃業したらしく、隣の従業員宿舎と思しき建物共々解体され更地になっていた。どうやら高層マンションが建つらしい。昨年撮り貯めた近所の写真の中にこの建物が含まれていたので、自分の記憶の風景としてアップしてみた。時代の流れと共に近所の工場のほとんどは廃業もしくは移転し、跡地は集合住宅に変わって行った。建築物には寿命があるので、感傷にだけ浸るつもりは無い。なにせ、こんな下町にスカイツリーみたいな超近代建造物が聳える時代だ。ただ、日本が誇る職人の技術が消えていくのが残念で仕方ない。

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亀戸ぎょうざ【餃子・錦糸町】 [江戸グルメ応援歌]

わが下町が誇る餃子チェーン店の老舗である。昭和30年創業で、店名の通り本店を亀戸に置き、錦糸町・両国・大島に支店がある。本支店で若干のメニューの違いがあり、本店は餃子と飲み物のみの拘りの佇まいだ。食いしん坊の小生は、ライス、チャーハン、ラーメンも提供する錦糸町店が常連なのである。腹ペコの時に焼きたての餃子を眼の前にしてライスが無いのは、ちとツラい。また、錦糸町店の狭苦しい細長カウンターの雑多な雰囲気が不思議と気持ちが落ち着くのが良い。


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目の前にWINS(場外馬券場)があり、土日は馬券を握り締めた人々でごった返し、勝負師達の胃袋を満たす憩いの場所にもなる。小ぶりで薄皮の餃子は非常に食べやすく、一人前5個づつ出される皿があっという間に積み上げられていく。注文に合わせて一皿食べ終わる毎に焼きたてを次々と提供してくれるので、所謂「わんこ餃子」状態に陥るのだ。

チャーハン単品も旨いが、餃子にはやはり白飯が合う。小生は「ギョウザライス」に腹具合に応じて一皿づつ追加するのが王道パターンだ。薄皮でもパリッと見事に焼きあがり、野菜たっぷりの餡の旨味が口の中で広がって行く。つけダレは酢醤油に洋がらしを溶くのが当店オススメ。最近置き始めたが、以前はラー油も無かったくらいだ。これが野菜のジューシーさそのままと皮の存在感を味わえる秘訣なのだ。

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これが2皿(10個)と炊きたてライスとワカメスープ、何故か付け合せにモヤシのセットが最強の「ギョウザライス」=740円[exclamation×2] 
プラス2皿食えば至福の時が訪れる[わーい(嬉しい顔)][かわいい][わーい(嬉しい顔)]

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本日は、この味を我が家でも味わおうと生餃子を持ち帰る。あえて女房の手を借りず、自力で爺い独りで焼くことに挑戦だ[どんっ(衝撃)]焦げて失敗しない為に、鉄板では無くテフロン加工のフライパンを使用する。

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少々焦げ目はきついが、店の味をいい感じで再現できた気がする。長男一家を招待し、2歳と4歳の孫にも食べさせてみる。手づかみで餃子を頬張る孫達を眺めながら、我が家系の食への貪欲さはこの様に引き継がれて行くのだ、と爺いはほくそ笑むのだった[ぴかぴか(新しい)]




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『エターナルズ』 [上映中飲食禁止]

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マーベル作品の「いかにもアメリカっぽい」外連味の無い明るさが好きで、特に単品ヒーロー物は観る機会が多い。初期の「アイアンマン」や「スパイダーマン」「マイティソー」は結構お気に入りだが、アベンジャーズシリーズとなると出演ヒーローが多過ぎて意味不明に陥ってしまう。本作はアベンジャーズと直接の関係は薄いが、大量のヒーロー・ヒロインが地球を救うあらすじでは酷似しており、普通なら素通りする作品だが、監督がクロエ・ジャロという点に惹かれ鑑賞してきた。昨年「ノマドランド」でアカデミー賞を受賞した中国の女流監督が、この大衆娯楽作をどう仕上げるかに興味は尽きるのだ。

ヒーローチームが不在となった地球で、人類の行動が新たな脅威を呼び起こしてしまう。そんな中、7,000年にもわたって宇宙的規模の脅威から人類を見守ってきたエターナルズと呼ばれる10人の守護者たちが、数千年の時を経て次々と姿を現す。散り散りになっていた彼らは、人類滅亡まで7日しかないと知って再結集する。(シネマトゥデイより)

まさに超娯楽作品。
アメリカ人がポッコーンを頬張りながら(小生は絶対に喰わないが)気軽に楽しめる内容だと感じた。創造主セレスティアルズによって生み出された10人の守護者が魅力的だ。宇宙種族と言いながら、人間の姿をした神である。人類学的に全員が出自が異なる民族で、使いこなす特殊能力も全て違う。それに合わせ出演俳優それぞれが、米英、中国、韓国、メキシコ、パキスタン出身であり、多人種の男女混合チームで形成されている。中にはゲイもいれば、聴覚障害者も含まれる。そしてこの7000年間、人類を救ってきたスーパーヒーロー達が、現代では一般の人間として静かに暮らしている設定である。どこかで聞いた様な話だな...昭和爺いは考える...『サイボーグ009』[exclamation&question]

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石ノ森章太郎先生がすでに約半世紀前に作り上げたプロットではないか[パンチ] 人種・性別・世代に捉われない多様性ある社会が求められる現代において世界標準からは遅れをとっていると言われる日本人が、遥か昔に劇画の中でダイバーシティをさり気なく受け入れているのだ。儒教の影響が強い我国は、男女の機能の差がそのまま男尊女卑の文化につながったのは事実だが、外国文化に関しては類稀なる許容度の高さを誇る島国であり、欧米諸国よりも「世界平等」を謳える素地を持っていると思う。

・・・とダイバーシティ論は置いて、なにはともあれアンジェリーナ・ジョリーである。本作の主人公セルシを演じるは中華系のジャンマ・チェンであり、ストーリーの鍵を握るイカリス役はスコットランド人のリチャード・マッテンだ。10人のスーパーヒーローのうち9人は、ほぼ無名に近い俳優陣で、事実、小生が知る者は最近観た「白頭山大噴火」のドン・リーだけだ。アベンジャーズ系映画の成功の一つは「あの名優がこんな役で出ている[がく~(落胆した顔)]」意外性と彼等の存在感であったと思う。本作の9人の俳優陣の演技に不足は無いのだが、肩の力を抜いたアンジーの一挙手一投足に9人がかりでも敵わない。ギリシャ神話の女神アテナを描いたと思われるこの神々しさは、華を持つトップスターでなければ醸し出せないのかもしれない。

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SFXが秀逸で、特に捕食者ディヴィアンツとの戦闘描写などは心踊る。彼等は地球人の外敵とは闘うが、人間同士の争いには関わらないルールを守り続ける。7000年の歴史の中で、人類が殺戮と搾取を繰り返しながら繁栄していく姿が随所に描かれていく。発明の神ファストスが、原爆投下により焼け野原と化した広島の町で呆然と立ち尽くす姿は特に印象的だった。10人の守護神達を極めて人間的に描き、それぞれが背負う宿命と人類への思いを掘り下げて行く。肌の色、ジェンダー、障害という人間の多様性を神に投射し、繁栄の先にある人類の破滅までをも示唆する非常に野心的な作品である。クロエ・ジャオ監督の少数民族にも優しい視線を向けるアジア的な感性も窺える。長尺156分ではあるが弛緩は無く、10人の守護神達に感情移入するのは時間が足らない位だ。この辺は、次回作やスピンオフ作品で深掘りされて行くに違いない。

ただ、小生は何でもかんでもシリーズ化していくマーベル商法には少々辟易しているのも事実なのだ。アイアンマン亡き後のアベンジャーズシリーズの後釜を狙っている節も見える。また、多様性を重んじる米国民主主義を標榜し過ぎる最近のハリウッド作品の傾向に『偽善』を感じるのは私だけではないだろう。一話完結でも、多くの登場人物に心奪われる『七人の侍』の様な完成度の高い社会風刺作品を望みたい。黒澤明レベルは容易ではないが。ゆえにこの次回作には食指は動かない。観るとしたら、セナ(アンジェリーナ・ジョリー)とギルガメッシュ(ドン・リー)の二人だけの悲恋のスピンオフ作品が製作されればかな。




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【番外】つむじ風亭『寂しい河豚刺し』 [江戸グルメ応援歌]

久しぶりに「フグのカットウ釣り」に行ってきた。

「カットウ釣り」とは数ある釣法の中でも特殊な部類で、いわゆる「引っ掛け釣り」である。餌のエビの下に錨みたいな針を付け、餌を突いた魚を引っ掛ける手法である。

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アタリが小さく、棚どりも誘いも頻繁に行なわねばならない繊細かつ難しい釣りなのだが、小生はこの変態的な釣りが結構好きなのだ。そして何よりも、フグは美味い。東京湾で獲れるフグでも十分に高級料亭のトラフグ並みの味がするのである。そんなわけで、今回は横浜鶴見の新明丸から出航だ[exclamation&question]

...と勢い込んではみたものの... なかなか釣れません[あせあせ(飛び散る汗)]ほぼ3年ぶりのフグ釣りの為、勘が鈍っているのか、加齢により反射神経が落ちているのか、アタリが掴めない。船中は18名の満員、ベテラン・常連と思しき方が多い感じで、周りでは大型のヒガンフグが釣れだした。小生はといえば、根掛かりの連発状態に陥り、仕掛けを何個も海中に失い、ラインバッククラッシュも続出、ついには穂先は折れるは、3年手入れしなかったリールが壊れるはのトラブルの嵐。釣っている時間よりも、装備を整える作業に時間を費やす有様だ。釣り開始から5時間経過し、1尾も連れていないのは、小生と隣の釣りギャルコンビの3名だけのようだ。
ここで船長が「河豚のサイズは小さめだけど、根掛かりしない場所だからねぇ〜」と、初心者エリアに移動してくれた。いきなり隣の釣りギャルの竿が曲がる・・・15センチほどの可愛いフグだ[exclamation&question] 更に焦る爺いの竿も本日初めて曲が〜る・・・同じく超ミニ河豚ゲットだ[ダッシュ(走り出すさま)] 船長によると、「コモンフグ」という成長しても20センチ弱の河豚で、味は結構イケるとのこと。小さくても1尾は1尾。急に元気を取り戻した小生は、納竿までのラスト1時間でミニ河豚6尾をなんとか確保した。

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釣ったフグは船宿で捌いてくれる。猛毒で有名な魚種の為に持ち帰り厳禁であり、免許を持ったスタッフに釣り物を持っていくと目の前で手際よく「身欠き」にしてくれるのだ。30センチ前後の河豚を釣ったメンバー達に紛れて、ミニ河豚6尾で順番を待つのは悔しい。因みに釣りギャル二人は1尾づつの釣果だったが、連れ過ぎた常連さんから小型フグを20尾ほど貰っており、見た目でダントツビリは小生だった[たらーっ(汗)][たらーっ(汗)] この悔しさが次回へのバネとなるのだ[むかっ(怒り)]

家に帰るとこんな感じに変身
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河豚釣りが好きなもう一つの理由には、自宅に帰って下ごしらえが必要ない事だ。釣った魚は本人が全て処理するのが我が家のルールなので、アジ30尾でも釣れようものなら、真夜中まで残業となる。その点、河豚ちゃんは釣行後の疲労感がゼロなのだ。
15センチの河豚も身欠きになると更に10センチにサイズダウンする。当初の予定はデカ河豚を3尾ほど釣って、長男夫婦を呼んでの「河豚ちりパーティ」だったが、企画倒れとなった。夫婦二人で食せるメニューに変更だ。とりあえず、身欠きをペーパータオルに包んで冷蔵庫に保管することにした。基本的に魚の身は適切に処理した後は、何日間か寝かせた方が旨味が出る[ぴかぴか(新しい)]

3日後、こうなりました[かわいい][かわいい][かわいい]
やっぱり小さくてもフグは『てっさ』だね[わーい(嬉しい顔)]
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4尾を刺身に2尾を湯引きにしてみた。適度な歯ごたえと抜群の旨味、ポン酢に合うなぁ〜女房もビール片手に舌鼓をうつ。だが、釣行にかけた経費を考えれば、外食のトラフグコースとあまり変わらんな。一家でのフグちりを夢見て、リベンジを誓う爺いであった[ぴかぴか(新しい)]


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『モーリタニアン 黒塗りの記録』 [上映中飲食禁止]

[ぴかぴか(新しい)]本年「感激度ナンバーワン[ぴかぴか(新しい)]
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実話を基にした法廷ドラマの体裁だが、ここまで心打ち震える作品に出会ったのは久しぶりだ。よくある男女の悲恋や家族愛を訴えるお涙ちょーだいパターンではなく、根源的な「人間の尊厳」に迫った構成と演出、俳優陣の名演が揃った本年度の隠れた傑作である。あくまでも個人的な趣向ではあるが。

モーリタニア人のモハメドゥ(タハール・ラヒム)は、アメリカ同時多発テロの容疑者として、キューバにあるアメリカ軍のグアンタナモ基地に収容されていた。彼の弁護を引き受けた弁護士のナンシー・ホランダー(ジョディ・フォスター)とテリー・ダンカン(シェイリーン・ウッドリー)は、真相解明のため調査を開始する。彼らに相対するのは、軍の弁護士であるステュアート中佐(ベネディクト・カンバーバッチ)だった。(シネマトゥデイより)

ジョディ・フォスター・・・出会ったのは私が中三の時、初めて一人で観た洋画「タクシードライバー」(1976年)での娼婦役だった。彼女は小生の一つ下だから14才か。小生が映画沼に引き込まれて45年、お互い爺婆の年代に突入したが、素敵な女性(ひと)は良い歳の取り方をする。プライベートでは世間を騒がせた時期もあったが、皺が増えても真っ赤な口紅が今でも似合う[揺れるハート]

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初オスカーを受賞した「告発の行方」(1988年)では被害者役だったが、本作ではモーリタニアの青年モハメドゥの9.11同時多発テロでの容疑を解くために奔走するホランダー弁護士役である。情に流されず真実を突き詰めていく冷静沈着な姿勢と、ベトナム戦争時から人権問題で国を相手取って戦ってきた年輪と貫禄までをも緻密かつ圧倒的な存在感で演じている。

一方、容疑者を正式に起訴し極刑に持ち込みたい国側は、海兵隊所属の辣腕検事・スチュワート中佐を指名する。9.11でハイジャックされた航空機の副操縦士は彼の親友であったのだ。切れ者だが敬虔なクリスチャンでもある彼も、証拠を積み上げ真実を立証する法律家であり、親友の弔いの意を込めて、真正面からホランダーとの法廷闘争に臨むのだった。ベネディクト・カンバーバッチが、この天才肌の検事役を熱演だ。小生はNHKで2010年から放映された「シャーロック」が大のお気に入りだったが、まさに名探偵再登場の感ありだ。

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立場の違う法律家が真実を求めて腐心し、地道に証拠集めに奔走する姿がスリリングに描き出されて行く。二人がキューバのグアンタナモ収容所近くのバーで偶然出会い、お互いの杯を傾けるシーンは静かな火花散る名優の競演だ。客観的な材料が少ない中、モハメドゥの供述調書が最重要視され、彼の自白が有罪の決め手とならざる得ない状況だった。国家をバックにしたスチュワートは圧倒的に有利なはずだが、彼は公式な調書以外に機密書類の存在を突き止め、その獲得に力を入れる。一方、ホランダーは心を閉ざしたまま核心を話さないモハメドゥに弁護を諦めかけるが、彼に何度も手記を書かせる事で少しづつ信頼を得て行く。そしてついに、最高機密書類を手にしたスチュワートと容疑者から真実を聞き出したホランダーが、雌雄を決する法廷に立つことになるのだが...

二人が一歩づつ真実に近づく様が、モハメドゥの回想の形で並行して描かれる。貧しい家庭に生まれながらも成績優秀で奨学金を得てドイツ留学した青年時代。アフガニスタンのタリバンに入隊し軍事訓練を受けるも脱退し、幸せな結婚生活を送る日々。友人の紹介で一晩泊めた見ず知らずの男が、その後のテロの実行犯であった事。モーリタニアの実家で逮捕され、このキューバの収容所に移送され、繰り返される尋問。タハール・ラヒムの熱演が今作のリアリティの根幹である。そして、執拗ながらも紳士的だった尋問が、或る日を境に非人間的な拷問に変わるのだが、その凄惨な描写に至っては、絵に言われぬ感情が沸き起こる。これほどの仕打ちができる人間の狂気とそれに耐えうる人間の精神力に、驚きと悲しみと怒りと尊敬の念が一緒くたになって胸に込み上げて来るのだ。

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テロ撲滅にアメリカ合衆国の威厳を賭けた当時のブッシュ政権が犯した罪を訴えただけの作品ではない。まして宗教や国家観の違いによる『正義』の不在を示したものでも無い。本作は、掲げる正義が違えど、互いの「人間の尊厳」を守らねば無為な争いは無くならぬと警告する。この壮大なテーマを、3人の俳優の研ぎ澄まされた演技を中心に周辺の人物まで深く掘り下げて描き切っている。スチュワート検事の最後の行動やそれを支えた悩めるニール(ザッカリー・リーヴァイ)の良心には胸のすく思いであったし、拷問するアメリカ軍兵士にまで人間的な優しさを垣間見せるシーンなどは、映画的とはいえ見事な作り込みだ。製作は英米共作としながら主体はBBCであり、ケヴィン・マクドナルド監督を筆頭に多くの英国人スタッフが関わっている。アメリカ偏重のハリウッド作品では成し得ないバランスと緻密さが包含され、心地よい限りだ。

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〜最後の法廷シーン〜
証言を認められたモハメドゥが語る言葉に胸がこみ上がり瞼が熱くなる[たらーっ(汗)][たらーっ(汗)]
罪もなく8年間も拘留され、果てなく続く凄惨な拷問と自白の強要を受けながら、彼が発する心の叫びとは・・・人間の尊厳を高らかに謳った社会派ドラマの大傑作である。
そう、イスラム人だってボブ・ディランが好きなんだ。




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『DUNE/デューン 砂の惑星』 [上映中飲食禁止]


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冒頭の題名に「part1」と映し出され、今作だけで155分の大作が一話完結では無いと知る。(Laby様と同じ展開[あせあせ(飛び散る汗)])何度か映像化が試みられたSF小説の名作だが、壮大過ぎるドラマの制作は困難を極め、多くの失敗作や途中での企画中止を生み出した曰く付きの作品だ。1984年にあのデイヴィッド・リンチ監督が製作したが、4時間の作品を興行上2時間に短縮し公開した為か低評価に終わった。(小生は、STINGが映画初出演と知り、非常に観たかったが結局見逃してしまった)果たして今作は、過去の呪縛を振り払えるか[exclamation&question]

人類が地球以外の惑星に移り住み宇宙帝国を築いた未来。皇帝の命により、抗老化作用のある秘薬「メランジ」が生産される砂の惑星デューンを統治することになったレト・アトレイデス公爵(オスカー・アイザック)は、妻ジェシカ(レベッカ・ファーガソン)、息子ポール(ティモシー・シャラメ)と共にデューンに乗り込む。しかし、メランジの採掘権を持つ宿敵ハルコンネン家と皇帝がたくらむ陰謀により、アトレイデス公爵は殺害されてしまう。逃げ延びたポールは原住民フレメンの中に身を隠し、やがて帝国に対して革命を決意する。(シネマトゥデイより)

公開直後から評価が分かれているようだが、小生は久しぶりに胸躍るSF映画に接し、次回作への期待が大きく膨らんだ。スターウォーズとの既視感が拭いきれないのは当然で、ジョージ・ルーカス自身がこの原作からも着想を得た事を認めている。所謂、こちらが元祖なのだ。原作小説愛読者からは割愛部分が多過ぎるのだろうが、小生のような未読者には十分な内容だ。複雑な人間関係を理解するには多少の努力を要すが、弛緩の無い展開と演出で長尺155分が瞬時に感じられるほどだった。

上半身裸の華奢な美少年が夢にうなされる場面から壮大なドラマがスタートされる。アトレイデス国の王子ポールは実母ジェシカの血を強く引き継いでいる。ジェシカは全宇宙を操る超能力を持つ秘密結社ベネ・ゲゼリットのメンバーであり、レト公爵の愛妾としてポールを産み、実子の能力開花に力を注いでいる。この件が当初は理解出来ないのだが、ストーリーが進むごとに謎の端緒が見えてくる。スターウォーズ的に言えば「フォース」を得たジェダイのような存在にポールが成長し、その力を持って帝国打倒に立ち向かうのだが、多くの血を流す革命戦争に思い悩む主人公の姿が同時に思い浮かぶ...と、原作未読者のみが許される勝手な想像をしてみる。

圧倒的な映像の迫力が本作1番の魅力だ。後期のスターウォーズシリーズ程の細部まで緻密過ぎるCGでは無く、砂漠の惑星の世界観自体を優先した造り込みが素晴らしい。予算上の問題だろうが、アナログ的な香りも残った部分が絵画的な美しさを産み、逆に功を奏したというべきか。陽光に煌めく砂丘の美しさ、個性的な数々の宇宙船、おどろしい砂虫のフォルム等々、トンボ型のヘリコプターなどは斬新そのものだ。

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俳優陣も粒ぞろいの演技派を集めた。主役ポールに新進売り出し中のティモシー・シャラメ、母親ジェシカにはM:Iシリーズでお馴染みのレベッカ・ファーガソン。父親アトレイデス公爵にオスカー・アイザック起用となれば、これこそスターウォーズのデジャブなのだが、この親子3人がそれぞれの背負った宿命を外連味なく演じた。特にレベッカは想いを内に秘めた気丈な女性が良く似合う。

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小生好みで言えば、砂漠族フレーメンの部族長スティルガーを演じたハビエル・バルデムだ。「ノーカントリー」「ビューティフル」での怪演の通り、普通でない男を演じれば天下一品である。そして、ポールの予知夢に現れたフレーメンの女戦士チャニにはマルチアーチストのゼンデイヤだ。

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PART2では、ポールとチャニの関係が物語の中心になると思われるが、初々しくも実力派俳優同士のカップルが非常に魅力的だ。ゼンデイヤのスリムな肢体が作品内では防塵服に阻まれて拝見出来ないのが残念ではあるが[あせあせ(飛び散る汗)]

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砂の惑星アラキスの統治を帝国から命令され、宇宙のレアメタルとも言うべきメランジの採掘権を獲得したアトレイデス国だったが、これは陰謀だった。帝国に裏で後押しされたハルコンネン国の奇襲を受け、当主レト公爵は惨殺され、アラキスに移住したアトレイデス国は滅亡する。急激に力を付けたアトレイデスに危惧した皇帝が仕組んだ強大な罠だったのだ。辛くも生き残ったポール・ジェシカ親子は、砂漠の奥地に逃げ込み、アラキスの先住民たるフレーメン族と接触するのであった。果たしてポールは頑強なフレーメン族と手を組み帝国に反旗を翻す事ができるか?彼の隠された能力は何時目覚めるのか?ジェシカが息子に託す真の目的「クイサッツ・ハデラッハ」とは一体?

謎が深まるばかりのPART1のエンディングと共に次回作への期待が大きく膨らむ。カナダの鬼才ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の手腕が光るSF大作の序章の見事なスタートだ。前3作の「ボーダーライン」「メッセージ」「ブレードランナー2049」は高評価の割には興行的には大成功とは言い難かった。(全て小生好みの作風だが[わーい(嬉しい顔)])原作小説のDUNEシリーズは、「砂の惑星」を第1巻として全6巻の壮大なる宇宙大河絵巻なのである。なんとか今作が売れて最終章までの映像化を望みたい。「スターウォーズ」「ハリー・ポッター」が終幕した今、爺いとしても長生きしてでも最後まで観たいSF映画の大作が欲しいのである[どんっ(衝撃)]
まずは次回作でのポールとチャニが臨む聖戦の行方が待ち遠しくて仕方ない[かわいい][かわいい][かわいい]




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