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『クライ・マッチョ』 [上映中飲食禁止]

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ロデオ界の元スターのマイク・ミロ(クリント・イーストウッド)は、落馬事故をきっかけに家族とも別れ、今は競走馬の種付けの仕事をしながら一人で暮らしている。ある日、彼は元雇用主にメキシコにいる息子のラフォ(エドゥアルド・ミネット)を誘拐するよう頼まれ、単身メキシコに向かう。マイクは少年ラフォと出会い、二人でテキサスを目指すが、その道のりは困難なものだった。(シネマトゥデイより)

えも言われぬ優しい空気感に溢れた作品だ。
90歳を超えてなお監督兼主演をこなすイーストウッド翁は枯れない。ハートは熱いままだが決して荒ぶらずに常に自然体を貫く。彼の一挙手一投足に、永い人生の末に辿り着いた悟りとそれでも抗う男の魂を見る。

ストーリー自体に特筆すべきものは無い。行方知らずの親友の息子を取り戻しに、老人が単騎でメキシコに潜入するというアクション映画の形態だが、当然ながら卒寿の主演男優のアクションシーンは皆無だ。老人と青年が米国に戻るまでの間の心の交流を描いたロードムービーの色合いが強い。全米での評価も分かれている通り、主演がイーストウッドでなければ凡庸な作品のレベルかもしれない。彼だからこそ成り立った「撃たないガンマン」〜現代版西部劇なのだ。

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孫というより曽孫に近い年代のラフォに若き自分を重ねるマイクが彼に話す。

「若い頃には気が付かず、今になって気づく事がある。それは、もう取り返しのきかない事なんだ・・・」

人気絶頂のロデオスターに襲う落馬事故、そして妻子の事故死。自堕落な生活に陥った時に手を差し伸べてくれた友人のおかげで細々と調教師生活を送れた老後。マイクの過去が徐々に明らかになって行く。波乱な人生と悔恨を全て受け入れた彼は、「男らしさ」とはをラファと我々観客に訴える〜『男らしさなんてのは、たいしたモンじゃないよ』と。老いたダーティーハリーは多くは語らず、すっかり薄くなった背中を隠しもせず、後ろ姿の演技で魅せてくれる。

ワンショット・ワンショットの美しさに胸が温かくなる。いまだ衰えないイーストウッドの鋭い感性と「今の彼」だからこその優しさが溢れた映像と音楽が、今作の見所とも言って良い。

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鶏のマッチョや荒馬に寄せる優しい眼差し、そして老いらくの恋の素晴らしさ。演技と共に、光の扱いと音楽の挿入のセンスが憎い。『男の優しさ』が滲み出る見事な演出だ。

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若い世代の観客の共感を得るのは、些か難しいと思われるが、昔少々ヤンチャだった還暦過ぎの御仁には嬉しい作品であり、心洗われる。C・イーストウッドがあとどれくらい作品に関われるかは神のみぞ知る。出来れば、常人では辿り着けない芸の領域をもう少し見せて欲しいものだ。還暦なりたての小生としては、まだまだ呆けている暇はないのだ。とりあえず、車の運転は死ぬまでやりたいのだが...[あせあせ(飛び散る汗)]




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中銀カプセルタワービル [寫眞歳時記]

今年中に取り壊されるレトロビルの見学に行って来た。

1972年に竣工された黒川紀章氏設計のマンションである。


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独特のフォルムを味わいながら望遠レンズで撮影していると、小生と同年代風のご夫婦に声をかけられる。

「建築関係の方ですか?」
『いえいえ、今年中に解体と聞いて写真を撮りに来ただけですわ』
「私、ここのマンションに部屋を持ってますので、よろしかったら中からご覧
になりませんか」

一瞬戸惑うも、ありがたくご厚意に甘えることとする。休日の為、正面玄関は閉鎖中で入居者専用の裏口から案内された。エレベーターホールの古びた集合ポストに哀愁を覚える。ご招待された6階の一室は4畳足らずのワンルーム。横浜在住の建築士であるご主人が4年前に購入されたという。週末専用の書斎のはずが、ほぼ友人達との酒盛り場と化したらしい。使用されないユニットバスには大量に洋酒の空き瓶が鎮座していた。丸窓から眺める都会の夜景も格別であろう。いやはや羨ましい限りの男の隠れ家である。

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小生のような爺さんは拉致監禁されることも無く、ご主人と和やかに歓談し別れ際に名刺交換をしてマンションを後にした。建築士S氏ご夫妻の厚意に感謝するともに出会いの素晴らしさを感じたひとときだった。

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