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花寒の東京② [寫眞歳時記]

前回の続きです[ぴかぴか(新しい)]

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諏訪山・吉祥寺という室町時代創建の曹洞宗の古刹であった。帰り際の車窓から一瞬見えた山門の先を見逃さなくて良かった。東京の近場にも、まだまだ私の知らない桜の名所がたくさん在ることを知る。花見酒さえ諦めれば、やはり神社仏閣は花の宝庫なのだ。此処は江戸時代の大名・旗本の菩提寺としても著名であり、二宮尊徳や榎本武揚などの墓碑もある。境内・墓地の至る所に種類の違う桜が咲き乱れており、さしずめ桜の博物館のような寺院だった

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元々は古木の一本桜が好きで遠方まで足を伸ばしたものだが、今回は見頃時の荒天が怪我の功名の如く東京都内の桜を見直す良い機会となった。名も知れぬ神社仏閣で名も無い桜たちの競演と巡り合うのも素晴らしいものだ。

翌日も調子に乗って土砂降りの中、都内散策に出掛ける花撮り爺いさんと化すのであった[ダッシュ(走り出すさま)]この日は少々足を伸ばして品川区までGO! 

ナビに従い白金台の高級住宅地の坂を駆け登る。雨は小降りになったが、道幅がどんどん狭くなり不安になる。なんとか桜が咲いている寺院に着き駐車場に停める。だが、山門を見るとどうも違う。斜向かいに見過ごすほどの小さな寺があった。もちろん参拝者など誰もいない

清岸寺祐天桜・・・推定樹齢300年の東京23区内で現存する一番古い桜木だと言われている。2000歳の山梨県・神代桜から見れば子供みたいなものだが、それでも元禄時代の生まれだ。まさに樹木の生命力に畏敬の念を抱かずにはいられない。
幹の半分近くが壊死しているようで樹勢に翳りが見られるが、それでも小さな枝を四方に伸ばし健気に薄桃色の花を咲かせている。非常に珍しい種類で、既存の200種類のサクラに同種は存在しないらしい。小雨の中、メジロの群れがその貴重な蜜を吸いに集まって来ていた。

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この古木の隣に小さな桜木が植えてある。最新バイオテクノロジーにより苗木の増殖に成功し、唯一無二の祐天桜の後継がスクスク育っているのだ。あと半世紀も経てば、親に代わって見事な花を境内一杯に咲かせているだろう。クローン人間と聞けば生命を弄ぶ危うさを感じるが、絶滅植物の増殖となると不思議とロマンが膨れる。

帰り際に乃木神社に寄って行く。残念ながらお目当ての枝垂桜は半分散っていたが、ソメイヨシノが寒空の下、気を吐いていた。気がつけば裏山の新緑が際立ってきており、もう東京には初夏の彩りが訪れてきている。

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新年度からブログタイトルを昔風に戻します。コロナ禍での飲食店応援歌のつもりで3年前に再スタートしましたが、ボチボチ役目を終えたというか、ネタ切れというか...以前ほどバカ喰いできなくなりましたので[あせあせ(飛び散る汗)] 改めて「續 向島のつむじ風」をよろしくお願いします。






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『シン・仮面ライダー』 [上映中飲食禁止]

楽しめ[パンチ]最強の大人の学芸会を[exclamation&question]

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人類を幸福に導く”と謳う組織〈SHOCKER〉によってバッタオーグに改造された本郷猛は、緑川弘博士とその娘、緑川ルリ子とともに組織を裏切り、逃亡する。追ってくる敵を“プラーナ”によって得た力で殺してしまったことに苦悩する本郷。しかし、緑川弘が殺され、死に際にルリ子を託されたことで、『仮面ライダー』を名乗りルリ子と共に〈SHOCKER〉と戦うことを決意する。(MOVIER WALKERより)

賛否両論の問題作になっているようだ。

昭和ライダーを観て成長した真っ当な爺さん達は甘い思い出を壊され、オリジナルを知らないバリバリSFX使いの現代ライダーファンの若者は拍子抜けなのだろう。当然、私も爺さんの部類だが、同世代の庵野秀明の変態度を知る小生にとっては十分過ぎるほど楽しませてもらった極上の娯楽作であった。

宣伝文句「変わるモノ 変わらないモノ そして変えたくないモノ」と謳っているように『シン・シリーズ』で一貫している庵野美学を受け入れるかによって作品の評価は大きく変わる。特に今作は「ゴジラ」「ウルトラマン」以上に原作者・石ノ森章太郎の狂気と庵野秀明のエヴァ的世界観がまさにシンクロしているので生真面目に鑑賞したら身が持たない。我ら昭和の爺さんは、遥か昔の映像を瞼の裏に刻みつつ、旬の俳優陣と偏執狂クリエイター達が如何にオリジナルをシン化させるかを素直に楽しめば良い。ツッコミどころと納得感が交互に現れる賑やかな大人の学芸会みたいな作品なのだ。

1971年放送開始の初代仮面ライダーの本郷猛は藤岡弘、ヒロインの緑川ルリ子は真樹千恵子が演じた。そして緑川ルリ子の親友・野原ひろみはブレイク前の初々しい島田陽子だった[揺れるハート](因みに2号ライダーシリーズには山下リンダもレギュラー出演だ)

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50年後の今作は池松壮亮と我が愛しの浜辺美波のコンビとなる。緑川博士の遺志を継ぎ、本郷が娘のルリ子を守りつつ、ショッカー滅亡に命を懸ける設定はオリジナルに近い。野原ひろみは割愛かと思われたが、中盤に改造人間ハチオーグとして西野七瀬が登場だ[がく~(落胆した顔)]この庵野的アレンジが原作忠実派には許せないかも知れないのだが、小生はこんな遊び心溢れる変化球に大喜びなのだ。

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小生としては孫の嫁にしたいタイプの美波と七瀬を観られただけで本作は◎なのだが、ストーリーは「エヴァンゲリオンの人類補完計画」を彷彿させるショッカーの人類滅亡計画に向けて次々と刺客の改造人間が送り込まれて来る、しかもパロディ風に。多くの有名俳優がカメオ的(顔出しNGで)に出演しているのだが、白眉はサソリオーグの長澤まさみ嬢だ。「シン・ウルトラマン」での巨人化でも笑わせてくれたが、今回も壮絶な最期[あせあせ(飛び散る汗)]で観客を煙に巻く。シリアスからコント風までこなす彼女は今、ノリに乗っている[どんっ(衝撃)]

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オリジナル擁護派の心中など一切関知せず、更に仮面ライダー2号の一文字隼人まで唐突に投入し本郷との共闘作戦開始である。特殊能力を持つシン・緑川ルリ子も二人と共にショッカーに立ち向かうが、敢えなく非業の死を遂げる。そして遂に本郷もまた...

石ノ森章太郎「デビルマン」のラストに近いダークファンタジー要素をふんだんに取り入れながら、独り残った柄本佑が扮する仮面ライダー2号はシン・サイクロン号に跨り明日に向かって疾走するのであった[かわいい][かわいい][かわいい]

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シン3部作の最後?を飾るに相応しい庵野イズム満載の力作だ。前2作以上に遊び心と細部の拘りが増している気がする。半世紀前の少年達は「変えたくないモノ」が人それぞれ違うだろうが、小生はショッカーの掛け声「イィー」だけは踏襲して欲しかったのだが...
血飛沫飛び交うPB12仕様につきファミリー鑑賞厳禁、オリジナルを知らぬ若者は金を捨てる覚悟が必要だ。ライダーカード集めに奔走し、エヴァ世界にも嵌った『20世紀少年』のみがエンドロールのオリジナル挿入曲で涙を流す、対象者超限定作。庵野監督の仮面ライダーへの捻れた愛をご覧あれ[どんっ(衝撃)]こんな映画もたまには嬉しい[わーい(嬉しい顔)]

果たして「シン・シリーズ」はまだ続くのか?小生の希望的観測では、本命は『ガメラ』対抗『悪魔くん』単穴『サイボーグ009』大穴『赤影』なのだが、何が来ても庵野氏にとことん付き合うつもりである。




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花寒の東京① [寫眞歳時記]

関東の桜は例年より早めに満開を迎えた。ならばこの週末は群馬県辺りへ撮影小旅行でもと考えたが、あいにくの悪天候につき断念[ふらふら]それでも諦め切れない小生は雨合羽を羽織って近場の桜を探しに出るのだった[パンチ]

とりあえず車で20分程の行き慣れた『白山神社』へ。3年ぶりの訪問だが《白旗桜》が変わらぬ凛として美しい立ち姿で迎えてくれた。千年以上前の源義家の奥州征伐時所縁の桜の後継だ。まさに満開のところに昨晩からの強い風雨で舞い散った花びらが地面を敷き詰めていた。

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ようやく雨が上がり、野良猫が桜茶のように水たまりで喉を潤す。4年ぶりの規制の無い花見シーズンとなり、悪天候でも外国観光客中心に都内名所は大混雑のようだ。時折の参拝の方だけが訪ねる静かな境内で桜を独占出来る時間をくれた花寒の天気に感謝だ。撮影には残念ながら向かない条件だけど...
次は「小石川庭園」でも行こうかと、車を走らせていると道路側に不思議なオブジェがピンク色に染まる寺院らしき場所を通り過ぎた。反射的にUターンし覗いてみる。やはり小生の知らないお寺だった。入り口に色鮮やかな布袋様が桜を背に立っている。墓地に囲まれた参道脇に満開の桜が並び、今まさに散らんとする頃合いではないか[exclamation×2]先客はインドネシア人と思しき家族のみだ。

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常光院浄心寺という江戸三十三観音に数えられる浄土宗の古刹だった。此処は都内の隠れた桜の名所だ[exclamation×2] 我が国では墓地に咲く花を忌み嫌う傾向があるかも知れぬが、私は美しい日本の原風景のひとつだと思っている。魂行く所には必ず花が在る。現世も来世も花が彩る世界なのだ。
ボチボチ帰ろうと車を走らせていると...今度は山門の奥に枝垂桜が見える寺院を通る。またまた途中下車なのだが詳細は次回へ[わーい(嬉しい顔)]






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『湯道』 [上映中飲食禁止]

[いい気分(温泉)]さぁ、身も心も温まろう[いい気分(温泉)]
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大正期に私の祖父は東京の銭湯に丁稚奉公する為に北陸から上京した。下働き、番頭を経て本所の地で晴れて独立を果たし、戦前には都内で4つの銭湯を持つほど商売を広げていたらしい。戦後の混乱で現在の向島の1店舗だけになり、私が大学生時の父の代で廃業した。言うなれば幻の風呂屋の3代目の小生としては、この作品を観ないわけにはいかないのだ[かわいい]

建築家の三浦史朗(生田斗真)が、「まるきん温泉」を営む実家にある日突然戻ってくる。彼は亡き父が遺(のこ)した銭湯を切り盛りする弟の悟朗(濱田岳)に、古ぼけた銭湯をマンションに建て替えると伝えるために帰省したのだった。ある日、悟朗が入院することになり、銭湯で働く秋山いづみ(橋本環奈)の助言もあって、弟の代わりに史朗が店主を数日務めることになる。(シネマトゥデイより)

詳細なストーリーを述べるほどの内容ではないのだが、個人的には幼少期の思い出とシンクロしまくりで、祖父の働く姿が瞼に浮かび、昭和の哀愁に包まれた。銭湯を舞台にしたTVドラマや映画は過去にも多く存在するが、風呂屋の裏側を知る身として今作は非常にリアリティーに富んでいると感じた。(あくまでも銭湯の日常の部分に関してなのだが)

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凝りすぎのセットではあるのだが、「昭和」を知る者の哀愁を呼び起こすには十分の装飾だ。そして肝心なのは、この「まるきん温泉」は源泉を引いている訳ではなく、井戸水を薪で沸かす正真正銘の『銭湯』であるという事だ。小学生時代、近所から貰った廃材をリアカーに積んで祖父と歩いた記憶が蘇る。ノコギリで廃材を燃えやすい長さに切り、釜の中の火種の具合を見ながら焚べていく。燃え盛る炎が地下から汲み上げた水をゆっくりと温めて行く。薪で炊いた湯は「柔らかい」と言われ、確証は無いのだが私はそう信じている。

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一番風呂はやたら熱い[どんっ(衝撃)] 生田斗真の体当たりの「裸の演技」が光る。水でぬるめようものなら、近所の御意見番に怒鳴られる。江戸っ子のマナーというより「掟」である。下町では毎日決まった時間に決まった客が来た。つむじかぜ少年は、小学校低学年まで番台に座っていたので良く判る。(異性を意識する高学年になってからボイラー室に廻されたのは我が家の健全な教育方針だった[あせあせ(飛び散る汗)])昔は「刺青禁止」など無いので上半身極彩色のオッチャン達も多かった。おかげで成人してからも、半社会的な方々とも違和感なく付き合えた。裸になれば皆同じなのだ。そして町の風呂屋は地元の大事な社交場でもあったのだ。

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窪田正孝が師範として演じる「湯道」なるものは現実には存在しない。企画・脚本の小山薫堂の洒落心から生まれたものだろうが、入浴マナーを究極の芸事に転じた発想から彼も相当な風呂好きと見た。銭湯の存続に揺れる兄弟の人情噺を中心に「入浴を極める」ことに異様な執着を持つ集団や日常的に地元の銭湯に集う人々そして温泉至上主義の評論家も絡めてのドタバタ劇である。若手からベテラン俳優、芸人、歌手、タレントと数多の出演者でごった返しているが、風呂上がりの開放感の如く皆が気楽に伸び伸びと演じているのが窺える。特にベテラン俳優陣の「気持ちいい〜」顔の演技が秀逸だ。潰えた家業に一抹の淋しさを覚えつつ、終始気楽に観られる娯楽作だった。一点苦言を呈するなら、『女優の皆さん、湯船に浸かる時は化粧を落としなさい[パンチ]



温泉、サウナに続いて今や銭湯ブームらしい。都内で生き残っている銭湯が何処も若者中心に賑わっている。宮造りの建物の意匠や煙突、富士山のペンキ絵、ケロヨンの風呂桶、瓶入りコーヒー牛乳までもが昭和レトロを醸し出して「映える」のが理由らしい。しかしながら、失われつつあるものは懐古趣味を誘う物質ではないのだ。銭湯とは地域住民の社交場であり、ある意味、コミュニティの中心を担っているのだ。我が家の銭湯の通りには、一杯飲み屋、中華料理店、八百屋、和菓子屋、氷屋、米屋、豆腐屋、パン屋が並び、風呂の行き帰りに町内の人々が立ち寄る処が多かった。銭湯廃業から40年、今や全ては一般住宅に建て変わり、私の息子の世代では誰が住んでいるかお互いが知らない。現在、銭湯を愉しむ方には、そこまで感じていただけると嬉しい。


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『逆転のトライアングル』 [上映中飲食禁止]

[ぴかぴか(新しい)]ブラックな諧謔味に溺れる[ぴかぴか(新しい)]
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モデルでインフルエンサーのヤヤは、恋人である男性モデルのカールと共に豪華客船のクルーズ旅行に招待される。リッチでクセの強い乗客はゴージャスな船旅を堪能し、客室乗務員は彼らから高額のチップをもらおうと笑顔を振りまきながら要望に応えていたが、ある夜に船が難破する。さらに海賊に襲われ、無人島に流れ着いた乗員乗客たちが食料、水、そしてSNSのない状況にあえぐ中、トイレ清掃員が圧倒的なサバイバル能力を発揮する。(シネマトゥデイより)

昨年の『チタン/TITAN』もヤバかったが、今年のカンヌ映画祭パルムドール受賞作も小生好みの少々イカれた奥深い人生喜劇だ。

オープニングの男性モデルのオーディション風景から、今作が薄っぺらな現代社会を風刺したものであるのを予感させる。そしてそこに参加していたカールが、旬を過ぎた売れないモデルであるのも窺わせる。そんな彼の恋人ヤヤは超売れっ子モデルでインフルエンサーとしても大活躍である。本作はこのカップルを中心に3部構成で描かれていく。

高級レストランでの二人の痴話喧嘩。「昨晩、私が奢るって誘ったくせに伝票をそれとなく僕の方に押し付けた」といきりたつカール。言った言わないで揉め、「割り勘で」とヤヤが言えば「そういう問題じゃない」と拗ねるカール。業を煮やしたヤヤがカードで支払おうとするが、使用停止だと判り、結局カールが全額カードでお支払いという顛末だ。二人の役者の攻防が見事だ。表情、間の取り方、激しい言葉、まさに痴話喧嘩だ。不穏なムードのままホテルに戻るが、結局は元の鞘に収まる浪費癖の派手女とプライドだけ高い臆病男の姿を強烈に見せつける演出で第一部が終わる。

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今をときめくジェンダー問題の奥深さにも婉曲的に触れているのだ。男が女を守り、養うべきという封建的な思考より経済的に優れた者がリードすべきなのか?では男の価値とは、女の価値とは?
封建的家庭で育った小生は、結婚前のカミさんとのデートでも一回も彼女に食事代は払わせなかった。だが、結婚後は全ての財布を奪われ、小遣い亭主に成り下がっている。姉さん女房を娶った長男は、結婚前は稼ぎの良い彼女にほとんど奢ってもらっていたらしい。要は当人同士が納得していればいいだけで、社会規範などに照らし合わせる必要など無いと思うのだが...問題は、女性が男性と同等に働き稼げる環境が整備されているかなのである。

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第2部が個人的にお気に入りだ。
豪華客船クルーズに招待されたヤヤとカールは、世界屈指のセレブ達と極上の船上生活を愉しんでいた。カールはヤヤのネット投稿用の写真を撮りまくっている。完全に彼女の付き人兼ヒモを自覚しているが、周りからはいい女を囲ったエリートと見られたいと熱望している。1部に輪をかけてカール役のハリス・ディキンソンが情けない男を好演だ。ロシアの大富豪、武器商人の老人、IT業界の買収家など人生の成功者達は個性的な強者揃いだ、そして彼らへの極上のおもてなしを心掛ける客室乗務員達は全員白人で、多額のチップの為にどんな我儘な要望にも笑って「YES」と答えるのだった。優雅な船内の最下層には、人目につかないように働く清掃員や機関工員がいる。全て黒人やポリネシアンなどの有色人種だ。夢のような豪華客船が、歴然とした階級社会で成り立っている事を示し、船が地球そのものであるのを示唆している。

ある晩、船長主催のイベントである「キャプテンズ・ディナー」が盛大に催される。折しも海上は大しけとなり、徐々に客船の揺れが激しくなって行く。絶品料理がサーブされる中、気分の悪くなった客が徐々に席を離れ始め、一人の老婦人がテーブルに嘔吐したのを皮切りに、次々と吐瀉の連鎖が起こり、船内は阿鼻叫喚の地獄絵に様変わりする。セレブ達がゲロまみれでのたうち回る描写が非常に秀逸で小生は笑いが止まらない。(上品な方は正視できないと思われるが[あせあせ(飛び散る汗)])いくら金が有っても苦しみからは逃げられないし、どんな美食も上から出せばゲロだし下から出せば糞だと、俯瞰した北欧の奇才監督はのたまう。ほとんどの乗員が苦しみ喘ぐ中、アル中の船長とロシアの大富豪は意気投合し、泥酔しながら「ソ連の共産主義」を語り合う場面もシュールだ。
一夜明けて嵐が去り、落ち着きを取り戻したのも束の間、海賊に遭遇した客船はあえなく手榴弾で爆破され沈没してしまうのだった...(爆笑[わーい(嬉しい顔)][わーい(嬉しい顔)][わーい(嬉しい顔)]

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何とか一命をとりとめた数名が無人島に流れ着き、第3部が展開される。カール&ヤヤ、ロシア大富豪などセレブ5名と客室係チーフのポーラ、黒人の機関工員、そしてトイレ清掃婦のアビゲイルが水・食糧完備の救命艇で余裕で上陸して来る。途方に暮れるセレブ達の期待に応えようと仕事に忠実なポーラが指揮を執ろうとするが徒労に終わる。火を起こし、魚を素手で取るアビゲイルに皆は驚愕し、彼女にグループの生存を委ねて行く事になるのだった。機嫌を損ねれば食料を与えられず、皆はアビゲイルに従属して行く。カールは食料のためにとヤヤを諭し女王様の性奴隷に化す。2部から更に男を落とすハリスの迷演技が光る[exclamation&question]
階級の逆転のストーリーには既視感が付き纏うが、俳優陣の熱演と機知に富んだ演出で極上のブラックコメディに仕上がっている。特筆すべきは、彼氏を差し出しても微妙なバランスでアビゲイルと対峙するヤヤだ。そして彼女の弛まぬ精神力がラストのどんでん返しを生む[がく~(落胆した顔)]

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全編を通じて人間同士の普遍的な関係性を見せつけ、個人のアイデンティティを問う。複数の人間が集えば、支配する側とされる側に分類される。現代社会では富を多く持つ者が無き者を虐げ、無人島のような経済概念が通用しない世界であれば生き残る術を持つ者が君臨する。いつの時代もいかなるコミュニティにもピラミッド型のヒエラルキーが構築されるのだ。それは夫婦、恋人の男女の間にも同じく存在する。そして不思議とお互いの状態が居心地良くなってしまう人間の哀しい性を、本作は小気味よいほど諧謔味溢れる演出で描いているのだ。
多くの登場人物の中で、状況が変われど自己の存在位置が変わらなかったのはヤヤと認知症のセレブ妻だけだ。普遍の精神とは狂人のそれと同義であり、大多数の人間が配と被支配の関係に満足する共依存の本能を持っている事をアイロニカルに炙り出す傑作コメディである[exclamation×2]無人島で女王様となったアビゲイルが「元の場所」に戻る局面が訪れたラスト、抗いながらもふと安堵の表情を見せて、彼女はヤヤの頭に石を振り下ろそうとするのであった...[がく~(落胆した顔)]
アカデミー賞が世界標準ではないでしょう!と宣う方には、パルムドール連続受賞の奇才・リューベン・オストルンドの魔法にあえて嵌って戴きたい[かわいい]
 
作中の華は勿論、このブレないイカした女を魅力たっぷりに演じたチャールビ・ディーンだ。彼女の見事な肢体と豊かな感情表現が、通好みのブラックコメディに艶と生命力を与え、カンヌの栄冠まで引き上げたと言っても過言ではない。

カンヌ映画祭でのチャールビ
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今後楽しみな女優だったが、受賞後の昨年夏に細菌性敗血症で急逝してしまった。
黙祷...

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春が来る [寫眞歳時記]

今年の桜開花日は平年より早めの予想となっている。東京では16日らしい。靖国神社のソメイヨシノの標本木が5、6輪咲いたら気象庁が公式開花日として公表するらしい。待ちきれない小生は、早咲きの桜を求めて街に出てみた。

日本橋のオフィス街では『オカメザクラ」が満開だ。濃いピンクの花弁が多くの買物客を振り返させる。味気ないビルの谷間の街路樹というのも都会の素晴らしい風景のひとつだと思う。


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九段下から千鳥ヶ淵に足を伸ばす。ソメイヨシノの名所であと二週間もすれば花見客でごった返すはずだが、本日は散歩を気楽に楽しむ人々のみだ。寒桜が独り気を吐いて咲き誇り、桜以外にも春の訪れを告げる花々が散歩客に語りかけて来る。

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明日からマスク着用が原則不要となる。即、昔通りとは言わない。いや昔に戻るだけでは駄目だ。そう、コロナを乗り越えた新しい春を我々で作るのだ



先日観た「BLUE GIANT」のおかげで最近コルトレーンを聴き直しています[るんるん]

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『BLUE GIANT』 [上映中飲食禁止]

[るんるん]音楽ファン必見[るんるん]

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仙台に暮らす高校生・宮本大。ジャズに魅せられてテナーサックスを始めた彼は、来る日も来る日も河原でテナーサックスを吹き続ける。卒業を機に上京した彼は、ライブハウスで同世代のピアニスト・沢辺雪祈の卓越した演奏を聴いてバンド結成を持ち掛ける。取り合わない沢辺だが、聴く者を圧倒する宮本のサックスに胸を打たれて話に乗り、さらに宮本の熱意に感化されてドラムを始めた高校の同級生・玉田俊二も加わって“JASS”が結成される。日本のジャズシーンを変えようと、彼らはまい進していく。(シネマトゥデイより)

今、ジョン・コルトレーンの初リーダー作を聴きながら書いている。
コルトレーン (Prestige)(SHM-CD)

コルトレーン (Prestige)(SHM-CD)

  • アーティスト: ジョン・コルトレーン
  • 出版社/メーカー: Universal Music
  • 発売日: 2016/08/24
  • メディア: CD
高2の頃にコルトレーンに出会い、ロック小僧からにわかJAZZファンになった。以来、定期的に友人と新宿ピット・インに通うようになり、ロックとは違う生の迫力と即興演奏の奥深さを身体中に浴びた学生時代だった。
今現在、JAZZが世間で支持されているとは思えないのに映画としては結構評判だったので半信半疑のとりあえずの鑑賞だった。だが冒頭で、コルトレーンの名曲「インプレッションズ」のテーマが吹かれた瞬間、一気に引き込まれ、青年期の厚き血潮が蘇って来た[むかっ(怒り)]

原作漫画は3部作の長編で今も連載中である。本作は、18歳のサックス奏者・宮本が初めてバンドを組み、プロデビューするまでの第一部をアニメ化したものだ。映画2時間枠に収める為に細かなストーリーは相当割愛されていると思われるが、原作未読でも十分楽しめる極上の仕上がりになっている。

原作者のモダンジャズへの愛とコルトレーンへの崇拝がスクリーンから溢れ出る。全体を通した心地良い熱量を支えるのは、音楽の秀逸さである。原作漫画には実際の演奏は流れないが、今アニメでは現役ミュージシャンの演奏が挿入されている。音楽監修はジャズピアニストの上原ひろみだ。メンバーの演奏シーンは、ほぼ上原のオリジナル曲で構成されるが、若さ漲るコルトレーン風の楽曲が見事にストーリーと合致しているのだ。しかも演奏中の細かい動きや運指までが実物の演奏と寸分違えずアニメーション化されている圧巻の仕上がり。プロの演奏家も納得の作り込みなのだ。

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「世界一のジャズプレイヤーになる!」と仙台から上京した宮本大は、高校時代の友人・玉田の下宿先に転がり込む。アルバイトをしながら毎夜猛練習に明け暮れる宮本は、偶然に同年代のピアニスト沢辺と出逢い、意気投合しバンドを組む事になる。ドラム奏者を探す中、宮本の演奏に心打たれた玉田は唐突にドラマーに立候補する。野生のテナー奏者、天才ピアニスト、ど素人ドラマーのトリオ『JASS』は、紆余曲折を繰り返しながら実力を身につけ、遂にプロが夢見るJAZZクラブ「SO BLUE」(現実ではブルーノート東京と思われる)への出演を勝ち取る。だが、公演直前に沢辺が交通事故に巻き込まれ、右腕に全治不能の大怪我を負う。残された二人は周囲の反対を押し切り、ピアノ抜きでのステージに立つ決意をするのであったが...

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ドラムの玉田くんがいいなぁ[ぴかぴか(新しい)]無為な学生生活に嫌気がさし、いきなりプロの世界に飛び込む非常識さ以上に不断の努力を厭わぬ熱い情熱が素晴らしい。二人だけで臨むステージでのドラムソロには思わず涙腺が熱くなってしまった[もうやだ~(悲しい顔)]ラストシーンでのJASS3人での最後の演奏は、御涙頂戴に流れすぎる嫌いはあるが、映像と音楽の一体感は「アニメもここまで来たか[exclamation×2]」と感嘆するに十分のレベルだった。3人の成長を静かに見守るJAZZ喫茶の女主人(元JAZZヴォーカリスト)も妙に素敵だった。昔はこんなJAZZ喫茶が学生街にたくさん在った。原作漫画は各登場人物描写を更に掘り下げているはずで、あと30分長尺になっても宮本の中高校時代の背景を描いてくれたらと思うのは少々贅沢か。声の出演はプロの声優では無く、渋めの若手俳優を起用し、自然体の雰囲気を大事にしている。田舎っぽさを出す為、主役は山田裕貴だったが、一直線の演奏同様に声質に野性味が加われば更に印象が強くなったかもしれない...場面によっての3DCGの導入は迫力溢れる作画とのバランスを崩し少々興醒め。粗もあるのだが、それを補って余りある作品が発する圧倒的な熱量にやられてしまうのだ[パンチ]
 
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音楽系アニメは年甲斐も無く話題作はほとんど観る。古くは「のだめカンタービレ」「けいおん!」から「響け!ユーフォニア」まで。昨年末に放送された「ぼっち・ざ・ろっく!」にハマり過ぎて、昔のエレキギターを引っ張り出して30年ぶりに弾いている今日この頃。日本アニメの進化は止まる事なく世界のトップランナーを疾走中だが、今作の精密な映像と同期した練り込まれた挿入音楽により、更に高みに昇った感だ。ジャンルを問わず音楽が好きな方には是非とも鑑賞して欲しい作品だ。
熱い[exclamation]熱い[exclamation]熱い[exclamation]真っ赤を通り越して青く光り輝く魂の音楽をご体験あれ[むかっ(怒り)]

作中では宮本の過去の関係者のインタビューが挿入されており、すでに宮本大が世界的なプレイヤーになっている事を物語る。JASS解散後、彼がヨーロッパに単騎で乗り込むシーンで今作は終わるが、宮本の栄光への道筋と袂を分けた沢辺、玉田の行く末に興味が尽きない。次回作にも期待だ...と、その前に我慢できずに漫画を読んでしまうかも知れないが。




ブルー・トレイン+3(SHM-CD)

ブルー・トレイン+3(SHM-CD)

  • アーティスト: ジョン・コルトレーン
  • 出版社/メーカー: Universal Music
  • 発売日: 2016/09/28
  • メディア: CD
ジャイアント・ステップス<SHM-CD>

ジャイアント・ステップス<SHM-CD>

  • 出版社/メーカー: ワーナーミュージック・ジャパン
  • 発売日: 2016/06/29
  • メディア: CD
この二枚のコルトレーンの名盤から『ブルー・ジャイアント』の題名が決まった?

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上野の甘味処を巡る [江戸グルメ応援歌]

幼少の頃、甘党だった父が「あんみつ」を年に何度か買ってきた。当時のおやつと言えば、近所の駄菓子屋で買う一個十円のアイスキャンディーが関の山だった子供にとって、この高級和菓子は別世界の食べ物だった。小さな容器の中に、寒天・エンドウ豆・餡子・求肥・フルーツという全て食感も味も違う食材が美しく並び、そこに別容器から黒蜜を搾りかけ混ぜ合わせ、それらを一気に口の中に放り込む。餡と蜜の甘みと寒天の冷たく滑らかな食感が渾然一体となり、未体験の味のシンフォニーになんだか大人の仲間入りをしたような心持ちになったものだ。

◯みはし

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我が家であんみつといえば、この店の持ち帰り土産が定番だった。戦後、食糧事情も厳しい昭和23年に上野公園前に創業した老舗だ。以来地道な商売を続け、今や東京下町甘味の代表的存在となった。土産用あんみつの昔と全く変わらぬ器に胸が躍ったが、今回、生まれて初めて店舗の中で味わってみた。

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清潔な店内、自然な接客に老舗ならではの守り続けた心意気を感じる。多少混雑していても、落ち着いた空気感が心地良い。今回は奮発して白玉入りのあんみつを注文した。餡子の形が土産と違うのは、土産の方が機械生産の為と思われるが、当然ながら昔から慣れ親しんだ味に変わりがない。店内で食せば、手作り感と器の美しさが増し、美味さもひとしおだ。餡と黒蜜のしつこすぎない甘さと寒天の爽快さのハーモニーに白玉のプニュプニュ感がアクセントを加える。う〜ん、堪らない[わーい(嬉しい顔)]
都内東部の百貨店や駅ナカに売店も出し、土産用あんみつは手軽に購入できる。伝統を守りつつも生産体制を整え、販路拡大にも前向きだ。頑なに一店舗のみの味に拘る職人気質の老舗には頭が下がるが、多くの客に店の味を広げる努力に余念がない老舗も素晴らしい。商売人の真髄だ。

◯うさぎや

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大正2年創業の和菓子店である。ビルに建て替えられているが、1階部分の庇と暖簾、そして兎のオブジェが老舗の往時の貫禄を現代に呼び起こす。商品も多く、最中、うさぎまんじゅうも美味いが、「どら焼き」の存在感が半端ない。無類の餡マニア・つむじ風としては絶対に外せないオススメの一品である。日本橋、阿佐ヶ谷に親族の店があるが、この店のどら焼きはここでしか食べられない。賞味期限2日の出来立てを販売するのを旨としており、当日に食さなければ勿体無い旨さだ。

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しっとりとした皮にもほんのりと甘味が載り、これだけでも洒落た喫茶店のパンケーキより十分美味い。その優しげな皮に挟まれた餡子は、エグ味やしつこさとは無縁の小豆の旨味に溢れている。コッテリ系を珈琲で流し込むのも好きだが、このどら焼きならお茶無しで一気に5、6個は食える[わーい(嬉しい顔)]東京随一の美しくて上品などら焼きの銘品だ[ぴかぴか(新しい)]
この店はイートインコーナーは無く持ち帰り専門だが、歩いて30秒ほどの裏通りに併営の「うさぎやカフェ」が在る。本店の餡子を最大限活かしたメニューが人気の洒落たカフェだ。かき氷ならぬ「うさ氷」が有名らしいのだが、流石に今の季節では食指が動かないので...

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『うさ餡みつ』・・・あんみつというよりは、餡かけ寒天なのだが、まごう事なき「うさぎや」自慢の餡子だ。どら焼き同様に甘さを抑えた上品あんみつだ。店の伝統の味を、和菓子を食べ慣れない若者向けにアレンジして提供する姿勢に、進化する老舗の力強い姿を見た。

◯みつばち

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明治42年創業の氷屋をルーツとした甘味処だ。『小倉アイス』発祥の店と言われている。モナカに挟んだ小倉アイスを店先で販売するのを旨とし、特に夏には賑わう。店内でも食事のスペースがあり、アイス以外の甘味も扱う。と来れば、「小倉あんみつ」の一択しかない。

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アイス自体は決して高級な体ではない、正直「あずきバー」と大差無い。明治の時代から庶民に親しまれた味を守り続けて来た訳で、それこそ「変わらぬ味」の素晴らしさなのだ。大正期に田舎から丁稚奉公で上京した祖父も食べたであろう貴重な甘味の記憶が遺伝子に刷り込まれているに違いない。身体が喜んでいるのが判る。いつまでも継承して欲しいものだ。
但し、前述の甘味専門店と違い、アイス販売店が客引きの為に甘味も始めた為、店内で食すと際立つ職人度もおもてなし度も低いのが判る。店内は職人不在で、アルバイト風が出来上がった材料を組み合わせて提供しているだけのようだ。接客も片言の日本語の外国人を採用している。今の時代に老舗を光らせるのも、名跡の名だけで凌ぐのも、オーナーの姿勢ひとつだと思う。残念ながら、現状は小倉アイスのテイクアウト専門店か。

◯つる瀬

湯島天神下の交差点に在る昭和5年創業の和菓子店だ。豊富な種類の菓子を販売し、喫茶室もある為、参拝帰りの客で休日は非常に繁盛している。

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職人の良心を感じる店で何でも美味い。やっぱり豆が良いのだろう。良い材料に確かな職人の技が、この店を永きに亘り支えて来たのが窺える。

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白玉は注文されてから作っているに違いない。「みはし」の洗練度とは違う職人の手作り感が嬉しい。ほとんどの和菓子は防腐剤抜きの為に賞味期限は当日か2日間だ。余りにも豆が美味いので「鹿子」を追加してしまった。

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個性豊かな老舗が今だに息づく街・上野。コロナ規制も緩み、最近の休日はどこも大混雑だ。地元民が気楽に立ち寄れないのは少々残念なのだが、3年間の危機を乗り越えた老舗が頑張ってくれるなら、小生は大雨の平日にハシゴするからいいぜ[わーい(嬉しい顔)]

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