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上野の甘味処を巡る [江戸グルメ応援歌]

幼少の頃、甘党だった父が「あんみつ」を年に何度か買ってきた。当時のおやつと言えば、近所の駄菓子屋で買う一個十円のアイスキャンディーが関の山だった子供にとって、この高級和菓子は別世界の食べ物だった。小さな容器の中に、寒天・エンドウ豆・餡子・求肥・フルーツという全て食感も味も違う食材が美しく並び、そこに別容器から黒蜜を搾りかけ混ぜ合わせ、それらを一気に口の中に放り込む。餡と蜜の甘みと寒天の冷たく滑らかな食感が渾然一体となり、未体験の味のシンフォニーになんだか大人の仲間入りをしたような心持ちになったものだ。

◯みはし

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我が家であんみつといえば、この店の持ち帰り土産が定番だった。戦後、食糧事情も厳しい昭和23年に上野公園前に創業した老舗だ。以来地道な商売を続け、今や東京下町甘味の代表的存在となった。土産用あんみつの昔と全く変わらぬ器に胸が躍ったが、今回、生まれて初めて店舗の中で味わってみた。

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清潔な店内、自然な接客に老舗ならではの守り続けた心意気を感じる。多少混雑していても、落ち着いた空気感が心地良い。今回は奮発して白玉入りのあんみつを注文した。餡子の形が土産と違うのは、土産の方が機械生産の為と思われるが、当然ながら昔から慣れ親しんだ味に変わりがない。店内で食せば、手作り感と器の美しさが増し、美味さもひとしおだ。餡と黒蜜のしつこすぎない甘さと寒天の爽快さのハーモニーに白玉のプニュプニュ感がアクセントを加える。う〜ん、堪らない[わーい(嬉しい顔)]
都内東部の百貨店や駅ナカに売店も出し、土産用あんみつは手軽に購入できる。伝統を守りつつも生産体制を整え、販路拡大にも前向きだ。頑なに一店舗のみの味に拘る職人気質の老舗には頭が下がるが、多くの客に店の味を広げる努力に余念がない老舗も素晴らしい。商売人の真髄だ。

◯うさぎや

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大正2年創業の和菓子店である。ビルに建て替えられているが、1階部分の庇と暖簾、そして兎のオブジェが老舗の往時の貫禄を現代に呼び起こす。商品も多く、最中、うさぎまんじゅうも美味いが、「どら焼き」の存在感が半端ない。無類の餡マニア・つむじ風としては絶対に外せないオススメの一品である。日本橋、阿佐ヶ谷に親族の店があるが、この店のどら焼きはここでしか食べられない。賞味期限2日の出来立てを販売するのを旨としており、当日に食さなければ勿体無い旨さだ。

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しっとりとした皮にもほんのりと甘味が載り、これだけでも洒落た喫茶店のパンケーキより十分美味い。その優しげな皮に挟まれた餡子は、エグ味やしつこさとは無縁の小豆の旨味に溢れている。コッテリ系を珈琲で流し込むのも好きだが、このどら焼きならお茶無しで一気に5、6個は食える[わーい(嬉しい顔)]東京随一の美しくて上品などら焼きの銘品だ[ぴかぴか(新しい)]
この店はイートインコーナーは無く持ち帰り専門だが、歩いて30秒ほどの裏通りに併営の「うさぎやカフェ」が在る。本店の餡子を最大限活かしたメニューが人気の洒落たカフェだ。かき氷ならぬ「うさ氷」が有名らしいのだが、流石に今の季節では食指が動かないので...

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『うさ餡みつ』・・・あんみつというよりは、餡かけ寒天なのだが、まごう事なき「うさぎや」自慢の餡子だ。どら焼き同様に甘さを抑えた上品あんみつだ。店の伝統の味を、和菓子を食べ慣れない若者向けにアレンジして提供する姿勢に、進化する老舗の力強い姿を見た。

◯みつばち

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明治42年創業の氷屋をルーツとした甘味処だ。『小倉アイス』発祥の店と言われている。モナカに挟んだ小倉アイスを店先で販売するのを旨とし、特に夏には賑わう。店内でも食事のスペースがあり、アイス以外の甘味も扱う。と来れば、「小倉あんみつ」の一択しかない。

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アイス自体は決して高級な体ではない、正直「あずきバー」と大差無い。明治の時代から庶民に親しまれた味を守り続けて来た訳で、それこそ「変わらぬ味」の素晴らしさなのだ。大正期に田舎から丁稚奉公で上京した祖父も食べたであろう貴重な甘味の記憶が遺伝子に刷り込まれているに違いない。身体が喜んでいるのが判る。いつまでも継承して欲しいものだ。
但し、前述の甘味専門店と違い、アイス販売店が客引きの為に甘味も始めた為、店内で食すと際立つ職人度もおもてなし度も低いのが判る。店内は職人不在で、アルバイト風が出来上がった材料を組み合わせて提供しているだけのようだ。接客も片言の日本語の外国人を採用している。今の時代に老舗を光らせるのも、名跡の名だけで凌ぐのも、オーナーの姿勢ひとつだと思う。残念ながら、現状は小倉アイスのテイクアウト専門店か。

◯つる瀬

湯島天神下の交差点に在る昭和5年創業の和菓子店だ。豊富な種類の菓子を販売し、喫茶室もある為、参拝帰りの客で休日は非常に繁盛している。

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職人の良心を感じる店で何でも美味い。やっぱり豆が良いのだろう。良い材料に確かな職人の技が、この店を永きに亘り支えて来たのが窺える。

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白玉は注文されてから作っているに違いない。「みはし」の洗練度とは違う職人の手作り感が嬉しい。ほとんどの和菓子は防腐剤抜きの為に賞味期限は当日か2日間だ。余りにも豆が美味いので「鹿子」を追加してしまった。

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個性豊かな老舗が今だに息づく街・上野。コロナ規制も緩み、最近の休日はどこも大混雑だ。地元民が気楽に立ち寄れないのは少々残念なのだが、3年間の危機を乗り越えた老舗が頑張ってくれるなら、小生は大雨の平日にハシゴするからいいぜ[わーい(嬉しい顔)]

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