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『市谷の杜』から [寫眞歳時記]

『市谷の杜』という文字から(杜=森=涼しい)を連想し、都会のオアシスを求めて市ヶ谷の牛込地区に足を伸ばしてみる。高層ビルが密集する中を迷いながら歩いていると、森と呼ぶには程遠いが木立が並ぶ緑の密集地帯に出会う。

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この杜らしき人工の緑地を抜けると近代的な高層ビルとレトロな建物が待ち構えていた。事前に細かい情報を確認していなかったのだが、この一帯はDNPの敷地なのだ。
DNP=大日本印刷の前身の秀英舎が此の地に工場を建設したのが1926年。以来、戦災も乗り切り稼働を続けていたが、2020年に創建当時の姿に修復・復元し、本作りの文化施設『市谷の杜 本と活字館』として生まれ変わった。

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入場無料の懐の深さ[exclamation]館内ではかつての印刷工場の風景を再現すると共に現代に繋がる印刷・製本技術の進化を辿る企画展が開催されていた。小生は活字媒体の仕事にも長く関わっていたので、昔の活版印刷の姿に感無量となった。

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この辺りの高層ビルの多くがDNP関連であることに気付く。書籍・新聞・雑誌をはじめとした紙媒体の低迷は時代の趨勢だが、飽くなき技術進化により隆盛を続けるかつての印刷会社の姿は頼もしい限りだ。ライバル企業の凸版印刷=TOPPANや富士フィルムの変貌も同様だ。デジタルでは沸き起こらない感動を創出する印刷事業は永遠に不滅だ[ぴかぴか(新しい)]

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汗だくになりながらも、靖国通り沿いのDNPプラザまで歩いて一休みだ。喉を潤しながら新人の写真展を見て本を物色する。

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灼熱下でもなんとか駐車場まで戻ったが小銭の持ち合わせが無く清算できずに狼狽える。DNPから離れた住宅街なので付近に自販機もコンビニも見当たらない。とりあえず、地下鉄駅方面を目指して再度歩く。また汗まみれでようやくフルーツスムージーの店を見つけ飛び込む。

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いちごフルーツサンド&ブルーベリー・スムージー。嗚呼、身体が喜んでいるのが分かる。体力回復して精算に向かうとなんと現金不可とのこと[あせあせ(飛び散る汗)]腹の中はポッタン状態なのだが、今度は喫茶店を見つけアイスコーヒーをテイクアウトし、ようやくコインゲット[exclamation&question]この牛込中央通りの商店街が面白そうなので、もうヤケクソで散策だ。意外と爺いはタフです[ダッシュ(走り出すさま)]

旨いアイスコーヒーだった〜下町の珈琲専門店
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老舗和菓子店〜創業124年目[exclamation×2]
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思わず買ってしまった葛桜「エメラルドの瞳」
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廃業した町中華
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「宮城道雄記念館」老朽化により建て直しらしい〜素敵な建築だが...
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改めて駐車場に戻り、車内で葛桜でコーヒーブレイク。水分補給充分につき近場のお気に入りスポットを目指す[かわいい]

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東京日仏学院〜アンスティチュ・フランセ』・・・フランス政府が運営する日仏文化交流センターだ。フランス語学校を主体に展覧会や映画上映を催して、戦後まもなくからフランス文化の発信に力を入れている。旧館は坂倉準三が設計した建築が現存しており、以前から何度か訪れているのだ。このキノコ型の柱も独特だ[exclamation&question]2022年に藤本壮介により新校舎部分がリニューアルされ、校舎全体が異国情緒漂うスペースとなった。(以前撮影した写真もあり)

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此処で一番の見どころは旧館側に位置する1951年竣工の『坂倉の塔』だ。内部が美しい二重の螺旋階段になっており、トップライトが差し込むとまるでカタツムリに取り込まれたような不思議な感覚に陥る。まさに異世界空間[がく~(落胆した顔)]

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こんなに素敵な校舎なら、退職後に一からフランス語を学ぼうかしら...と思わせる魅力あふれる空間だ。新校舎側にオープンしたレストランにも是非伺ってみたい...カミさんと[あせあせ(飛び散る汗)]

日仏学院前の「遭坂」を登り切ると広大な敷地に立つ和風建築が塀の向こうに僅かに見える。入口には警備員もいるので、誰の建物かと訝しんだが最高裁判所長官公邸だった。戦前までは財界人だった馬場家牛込邸と言われている。

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少し脇道に逸れると、今度は瀟洒な和風建築が目に飛び込んで来た。黒川紀章設計により、1987年に安田火災(現・損保ジャパン)の迎賓館として建てられた『朝霞荘』だ。

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まるで人気が感じられず、内部も確認できない。方々に工事用の三角コーンが置かれており、まさか取り壊しはなかろうが、改築が近いのかもしれない。

あまり陽の目を見ない隠れた名建築も機会があれば公開して欲しいものだと思いながら、小生の暑く長い1日が終わった。過信は禁物だが、我ながら夏に強い爺いだな[あせあせ(飛び散る汗)]



 

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「稲荷町」の定番コース [寫眞歳時記]

JR上野駅から5分ほど南へ歩くと、駅前の喧騒が嘘のような静かな下町地域に出られる。小生お好みの近場の散策コースは、町名上では東上野と呼ばれるエリアで地下鉄銀座線の稲荷町駅界隈だ。割と狭いエリアに魅力が詰まっており、最近の灼熱下でも爺い散歩認定コース[exclamation&question]

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この辺りは戦前の看板住宅や昭和レトロな物件が今も多く点在している都内有数の地域なのだ。盛り場の上野と浅草に挟まれた住宅地の位置付けで、下町の心意気と共に昭和ニッポンの香りを残す街並みは、いつ歩いても気持ちが洗われる。

「寿湯」
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「下谷神社」
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「龍谷寺」
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そして必ず立ち寄る蕎麦屋『翁庵』
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王道は「ねぎせいろ」大盛り
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昭和32年創業の町蕎麦の原点のような店だ。近くには銘店「上野藪そば」があるが、値段も味も雰囲気もこちらの方が小生には合う。衣ダブダブのかき揚げを辛めの熱い蕎麦つゆをたっぷり浸し、キリッと冷えた細めの麺と共に食せば、イカの風味とネギの香りが鼻腔をくすぐり、喉が喜びの雄叫びをあげる。家族連れから昼呑み派まで広く支持されている上に、最近は観光客も増えて混雑度が上がっているようだ。ランチ時を少し外すのがオススメ[わーい(嬉しい顔)]

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翁庵から30秒歩いてコーヒーブレイク&デザートタイム[わーい(嬉しい顔)][わーい(嬉しい顔)][わーい(嬉しい顔)]

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上野・浅草エリアには個性豊かなレトロ喫茶店が数多く存在するが、小生が一番心地よい店がこの『古城』だ。時代錯誤も甚だしい豪華な内装、絶品とは言えないが尾をひく昭和メニューの数々、小気味良いウエイトレスの接客、そして今時でも喫煙可という無法ぶり[あせあせ(飛び散る汗)]全てが爺い好みなのだ[どんっ(衝撃)]

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甘過ぎシロップのバナナパフェを苦〜いブラックコーヒーで流し込む快感は記憶は薄れていても舌が覚えているのだ[ぴかぴか(新しい)]軽い昭和タイムスリップをご希望の方は、この1963年創業の高級喫茶はオススメである。最近はレトロブームで若い方々も押しかけて、休日の昼などは地下の入り口から地上まで長蛇の列となる。20時閉店なので平日の夜がイチオシだ。

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そして日が沈むと稲荷町は夜の別の顔を出してくる。嗚呼、なんて素敵な町なんだ[キスマーク]






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『ルックバック』 [上映中飲食禁止]

胸に沁み渡る珠玉のアニメ[exclamation×2]
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小学4年生の藤野は学生新聞で4コマ漫画を連載し、クラスメートから絶賛されていた。ある日、藤野は先生から不登校の京本が手掛けた4コマ漫画を学生新聞に載せたいと告げられる。そのことを機に藤野と京本は親しくなっていくが、やがて成長した二人に、全てを打ち砕く出来事が起こる。(シネマトゥデイより)

僅か58分間の衝撃の青春ドラマだ。二人の女子小学生の出会いと成長の物語に、美しい友情と運命の縁(えにし)を溢れんばかりの漫画愛を持って押し込んだ傑作といえよう。口コミの良さに惹かれて軽い気持ちでの鑑賞だったが、年甲斐も無く涙腺が緩くなった初めてのアニメ作品となってしまった[たらーっ(汗)][たらーっ(汗)]

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感情表現豊かなキャラクターのコッテリとした描き方と絵画風の自然な背景美術に昭和劇画の香りを感じ、爺いにも非常に好印象だ。昨今のデジタルアニメのリアルティの高さには目を見張るものがあるが、手書き風のアナログ感を残した本作もまた世界に誇るジャパニーズ・アニメの真髄なのだ。

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学校新聞の4コマ漫画をお互いに描いていた縁で親友となった二人の小学生。藤野は独創的な創作と作画が得意な明るい自信家、京本は精密な情景描写が天才レベルのコミュ障オタクだ。

藤野が小学校の卒業証書を登校拒否だった京本の家に届ける羽目になり、それが二人の運命的な出会いとなる。不登校ながら4コマ漫画の連載だけを続けていた京本の作画技術に驚嘆した藤野は、彼女に負けじと2年間に亘り猛特訓を重ねたが、結局能力の違いを自覚して漫画を諦めていたのだ。気配はあるが部屋から出ない京本に嫌気がさした藤野は、彼女を揶揄した4コマ漫画を書き殴って家を出る。と、追いかけてくる褞袍姿の少女。実は京本は藤野の独創力に憧れて、ずっと「先生」と崇めていたのだ。二人はお互いの長所を活かして大好きな漫画を共同で作る誓いをする。自分の能力をまだ測りづらい年頃の二人の少女がお互いを認め合った時に奇跡のコンビが生まれた。

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中学在学中、藤野が物語の設定と人物描写、京本が背景描写全般を分担して「藤野キョウ」のペンネームで見事に雑誌社の漫画賞を獲得する。高校進学後は7本の読み切り漫画が掲載されるほどの将来有望なアマチュア作家へと成長していく。雑誌社から連載の要望も入り、藤野は卒業後にプロになる決意をする。一方、さらに絵画を極める為に京本は美大への進学を目指し、長年のコンビは解消となる。本音は引き留めて共に漫画を描き続けたい藤野だが、生まれて初めて自分の意思で社会に出る選択をした京本に驚きながらも嬉しさも隠せない。敢えて憎まれ口を叩いて藤本は彼女と別れるのだった。

プロデビューした藤野だが、有能なアシスタントに巡り会えず、連載作品の人気は伸び悩む。京本の凄さを再認識すると共に、作品には助手との信頼関係が不可欠であるのを痛感する藤野。できれば京本を呼び戻したいが、それがやっと飛び立った彼女の為にならないことを知る親友は、悶々と悩みながら独り作品に立ち向かう...そして連載漫画「シャークキック」は徐々に人気を得て、単行本11巻の頃にはアニメ化も決定した。ある日、人気絶頂となった漫画家「藤野キョウ」の元に驚愕のニュースが飛び込む。地方の美術大学に不審者が乱入し、多数の学生が殺傷されたという。その大学には京本が通っているはずだった...

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得難い人との出会いも別れも偶然の産物ではなく必然であり、運命の縁(えにし)に導かれたものだ。永く生きていれば多くの大人が体験せざるを得ない定めが、二十歳そこそこの藤野に答えを迫る。「もし私が京本を外の世界に連れ出さねば...部屋の前で4コマ漫画さえ描かなければ...」藤野の『IF』がそのまま映像化され、観客も当惑したままその世界に引き込まれていく...そして現実に引き戻される無情までも共有する。

笑いを交えながら真逆の個性の二人の出会いをドラマチックに描き、序盤から観る者を一気に引き込む。藤野役の声優は、今年一気にブレイクした女優・河合優実だ。小生は昨年のBS連ドラから「推し」ているのだが、コメディからシリアスまでこなす幅広い演技力は最近の若手では頭抜けており、本作の主人公とも見事に一体化していた。中盤は二人の成長をスピード感溢れるテンポで綴り、特に不登校生の京本が外の世界に目覚める様が微笑ましい。そして驚愕の最終章で、普遍の理(ことわり)を通じて『運命を受け入れる尊さ』を歌い上げる。物語の展開は熾烈を極めるが、ラストに見せる黙々と漫画を描き続ける藤野の後ろ姿に涙を禁じ得ない。

原作はヒット作「チェンソーマン」(小生は未見だが)の藤本タツキの読み切り漫画だ。本作は過去の名作のオマージュを指摘され、その側面も否定できないが、1時間弱の尺の中に「人間が生きる意味」を焼き付けた圧倒的な漫画の力は紛れもなく本物だ押山清高監督の細やかな脚本・演出の手腕も光る。音楽も主題に沿った自然なものだ。背負ってきた人生によって受け取り方は違うだろうが、年齢に関係なく「大事なモノ」を気づかせてくれる。素晴らしい作品と出会えた[ぴかぴか(新しい)]


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昼下がりの『銀座ライオン』 [寫眞歳時記]

あまりの暑さ[かわいい]に珍しく奥様の送迎役を買ってでた殊勝な旦那は、彼女の要件が終わるまで銀座を彷徨く...つもりだったが、喫茶店に即入だ[どんっ(衝撃)]この陽気では爺いは無理をしてはいけない[あせあせ(飛び散る汗)]だが、いつもは長蛇の列の『銀座ライオン』の入口が閑散としているのだけはチェックしていた。カミさんと合流して一目散に昼下がりの老舗ビアホールに向かう[ぴかぴか(新しい)]

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待ち時間無しで入店だ[わーい(嬉しい顔)]此処は若い頃に仕事がらみで何度か利用したが全て2階のレストランでの会食で、1階のホールに来たのは初めてなのだ。ホールは予約不可な為に来店順だが、昨今のレトロブームとインバウンド客襲来により連日大混雑なのだ。しかも下戸の爺いが独りでは非常に入りにくい店なので、ウワバミの女房を連れた本日は千載一遇のチャーンス。待ち望んでいたビアホールの内部の雰囲気はいかに[exclamation&question]

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足を踏み入れた途端にタイムスリップだ。薄暗い店内は280席がほぼ満席状態だが、ビアホールはやはりこんな喧騒が似合う。聞こえる会話は日本語が少なく、まるで外国にいるようだけど...

昭和9年竣工の建物は戦災を奇跡的に免れ、日本最古のビアホールとして銀座の一等地で現役として活躍している。6メートルの高い天井と重厚な梁と鮮やかなモザイク壁画が戦前の威容を物語る。

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そんな事はお構いなしにビールを飲み続ける妻とジンジャエール片手に写真撮影に燃える夫。いつもの凸凹夫婦健在なり[あせあせ(飛び散る汗)]料理は全て旨く、女房に言わせればビールに合うメニューばかりとか。私は、300人近い客のオーダーに的確に応え、しかも待たせないシステムに感動してしまった。従業員の動きは自然で小気味よく、目立たないが、まさに熟練のプロの店だ[exclamation×2]

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タイル細工や葡萄を模したシャンデリアそして四方に描かれた12枚のモザイク画は「豊穣と収穫」をテーマに製作されているという。そしてほぼ100年近く前の姿のまま生き残り、現代の我々に憩いの場を与えてくれている。それは建物だけではなく、飲食業のプロ精神までも引き継がれているのだ。奇跡のビアホールとビール好きのカミさんに感謝。久しぶりの女房のアッシーで、素敵なご褒美を貰った気分の昼下がり[わーい(嬉しい顔)][わーい(嬉しい顔)][わーい(嬉しい顔)]


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