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『蟻鱒鳶ル』 [寫眞歳時記]

三田の「サグラダ・ファミリア」と言われた『蟻鱒鳶ル』が20年の歳月を経て遂に完成したとの情報を得て飛んで行く。

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その建物は東京タワーに近い聖坂の一角に立っていた。再開発により近隣の建物が全て取り壊されて、異様な風貌が際立って見える。丹下健三のクェート大使館や三田ツインビルが間近にあり何度も通りかかる場所なのに気がつかなかったのは、長期間に亘りシートに覆われており、全貌を露わにしたのはつい最近の為だ。

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『蟻鱒鳶ル』は「アリマストンビル」と読む。現代のビル建築に疑問を抱いた建築家・岡啓輔が「200年もつコンクリート建築」をモットーに2005年から着工を開始した。完成図無しのアドリブ建築により工期が想像以上に伸びた上に、近隣の再開発計画が立ち上がり、20年の歳月が流れた。ガウディや梵樹綱を彷彿させる歪なフォルムと装飾の緻密さは耐用年数50年が前提の現代の商業ビルと一線を画す。

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幾多の困難を乗り越え完成に辿り着いた建築家の執念と努力に拍手を送りたい。一介の建築士である岡氏にとってこの建物が生涯最初で最後の代表作になるだろう。全国の一級建築士の現役数は13万人と言われているが、そのうち「建築家」として「自分の作品」を世に送り込める者はほんの一握りだ。世界を股にかけて活躍するビッグネームから下請けの建築事務所で一生を終える者まで、他の芸術の分野同様に厳しい世界だ。
この度の完成により多くのメディアで取り上げられているようだが、岡氏は「僕は完成なんて一言も言っていないですけど...」と笑って取材に応えたという。
斜向かいに建つクェート大使館(1970年竣工)を手掛けた巨匠・丹下健三が微笑んでいるように感じた。建築に常道は無いと。

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◎閑話休題・・・年賀状印刷をしながらSeesaaブログへの移転手続きをやってみた。爺いにはハードルが高いと思われたが、意外にもスムーズに手続きできたようだ。現在進行中のブログと2010年から500本投稿した前ブログの両方をSeesaaに移行というかコピー出来た。「転送設定」まで完了させると、即座にSSブログ側での投稿が不可になるようなので、その設定だけは3月末にするつもりだ。最後までSSに居残って、たまにSeesaaで練習できればと爺いは考えております[ぴかぴか(新しい)]


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さらば学士会館 [寫眞歳時記]

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神田一ツ橋交差点のシンボル的存在だった学士会館が年内で営業終了となる。神田錦町エリアの再開発により、昭和3年竣工の右手前の旧館のみ曳屋の上で保存され、新館とはいえ昭和12年竣工の左奥の建物は解体されるという。学士会とは旧帝大卒業者を会員とする同窓会組織である。戦前戦後の政財界をリードしたエリート集団とは無縁の小生はこの高明な建物の存在は知っていたが、若い頃は足を踏み入れる機会はほとんど無かった。ただ昨春から営業終了を知らぬままに何度か訪れては築100年の勇姿をカメラに収めていたのだった。

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先週のランチタイム時に伺ってみたが、駆け込み予約が殺到しているレストランでは食事はままならず、僅かに空席が見えたバー「セブンズハウス」に滑り込むも定番の「ビーフカレー」は売り切れだった。最期の思い出にと「学士会館タルト」を注文してみる。

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再開発期間は5年とされており、保存される旧館部分が大型の新ビルにどのように組み込まれるかは定かでは無い。ファサード保全では無いらしいので、内部構造も残したまま「明治生命館」のような様式になるのだろうか。現代の建築家の感性に期待したい。5年後が楽しみな反面、現在の無骨な姿が暫く見られない一抹の寂しさが付き纏う

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いちかつ【とんかつ・両国】 [江戸グルメ応援歌]

加齢と共に昔ほど豚カツを食べなくなったが、それでも無性に動物性油を欲した時に行く店だ。40年以上通っている秋葉原の『丸五』のベストワンは未だに揺るがないのだが、最近の異常な人気ぶりで滅多に行けなくなってきた。

『いちかつ』はJR両国駅の高架下にあるリーズナブルな大衆店である。豚カツの高級店はキリが無いのだが、味と値段と居心地に納得がいく店は案外少ない。この店は安くて旨くて気分が良いファーストフード的とんかつ屋なのだ。

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L字カウンター17席、店内に待機用の丸椅子10個もすぐ埋まり、食事時は店外にも行列が出来る人気ぶりだ。普段の小生ならその時点でパスなのだが、この店の凄さは立食い蕎麦並の回転の良さなのだ。揚げの職人は一人のみ、3名が盛り付け、食器の上げ下げ、食洗を分業してこなす少数精鋭のフォーメーション。10人待ちでも10分程でカウンターに座れる。初めて伺った時に4名のあまりに無駄のない動きに感動を覚えたのだった。この究極の省力化が、低価格での高級店並の味の提供に繋がっているのだ。残念ながら今月から値上げとなったが、それでもロース定食850円、ヒレ定食1050円のコスパの素晴らしさは食えば分かる[パンチ]

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以前はロースしか頼まなかったが、此処のヒレかつを食ってから宗旨替えした。千円でこのレベルは、個人店では太刀打ちできないだろう。絶妙の柔らかさと赤身の旨みを閉じ込めてしっかりと揚げている。エビフライをトッピングしてもプラス300円だ。

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ロースもどう見ても850円の肉質と味ではない。カナダ産らしいのだが、3倍の値段の国産銘柄豚肉と比較してはいけない。この値段で最高の味を引き出す店の努力に感服するほかないのである。ライスは他店なら大盛レベルの盛りの良さ、味噌汁はしじみ汁が定番だ。白を貴重にした清潔な店内も好印象である。外見は気楽な豚カツ店だが、実はシステムと発想の転換が生んだファーストフードとんかつ店の新しい業態なのだ。

究極のグルメブームが飲食業界に新たなムーブメントを生んでいる。「鰻の成瀬」が高価格路線に殴り込みをかけたように、伝統手法や既存概念を打ち破る担い手がそれぞれの分野に出現している。食の満足度は百人百様、金に糸目をつけず美食を求めるのも良し、究極のコスパに価値を見出すも良しだ。小生は、安くて美味くて世辞は無くても店員が小気味よく働く活気のある店が好きだ。「いちかつ」と「丸五」は対極のとんかつ専門店だが、私の中では居心地の良さと満足度はほぼ同列なのだ。まさに日本の食文化の多様化と奥深さは世界に誇るべきものである。さぁ、明日のランチからしばらく低カロリー食だな[あせあせ(飛び散る汗)]


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晩秋を楽しむ②〜東京大学〜 [寫眞歳時記]

銅御殿を出ると目の前のマンションの2階にショコラ専門店を発見[目]メインのチョコ菓子よりも気になった「プレミアム」なるモノを勢い注文して歩き喰いなのだ[ダッシュ(走り出すさま)]

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寒空にプレミアムソフトクリームを食いながら茗荷谷駅周辺を彷徨う爺いは、今度は風流な趣の小さな和菓子店を見つける。甘味魔王の胸がまたもときめく。

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流石に連チャン立ち食いは憚れたので、今日も仕事のカミさんへの土産を買う。相当な人気店のようで、女房の好きな「わらび餅」を含めて大半が売り切れだ。だが残っているケース内の菓子も全て美しい。「栗きんとん」と饅頭を2個づつ購入した。
『一幸庵』・・・後日調べたら世界的にも有名な和菓子職人・水上力のお店だった。帰宅後に女房と食べたが、栗の風味、こし餡の仄かな甘味が絶品だった[exclamation×2]次回は何とか一番人気の「わらび餅」をゲットしたいものだ。

日が暮れるまで間がある。
もう少し紅葉を味わえたらと、イチョウの名所に移動してみる。東京なら真っ先に明治神宮外苑を思い描くが大混雑は明白なので、空いているであろう我が国の最高学府に向かってみる[exclamation×2]

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...と、東京大学も凄い人手[がく~(落胆した顔)]
しかも大半は外国人観光客である。恐るべし、インバウンド&SNSパワー[どんっ(衝撃)]
他言語が飛び交う中で、年々短くなる東京の秋の余韻に浸ることとする。

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実は東大には最近よく来ている。
元々は新旧の建築物の撮影が目的だったが、一般人にも広く開放された緑豊かな広大なキャンパスは散歩コースにも最適なのだ。将来のエリート達が集まる学食で冴えない助教授を装って食う昼飯も乙なものだ。学力では及ばなかった人々に対しての懐の深さ、さすが最高学府[あせあせ(飛び散る汗)]

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銅御殿の表門で始まり東大の赤門で終わる晩秋の東京を堪能した1日となった、と思いきや、陽が落ちると爺いは東京駅に向かう。丸の内の歳末恒例のイルミネーション見学だ。

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ライトアップされたビル街に前撮り新婦達のウエディングドレスの純白がやけに映えていた。オフィス街には紅葉の彩りに早くも師走の風が吹く。嗚呼、もう年の暮れも近い。




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晩秋を楽しむ①〜銅御殿〜 [寫眞歳時記]

今まで原則非公開だった旧磯野家住宅が知らぬ間に事前予約に限り定期的に公開されていた。レトロ建築好きとして当然の如くネット申し込みをし、晩秋の紅葉と共に楽しんで来た。

丸の内線茗荷谷駅から徒歩5分ほど、筑波大学東京キャンパス(旧東京教育大学)正門の通りを挟んだ向かい側に重厚な木造の門扉が見える。

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旧磯野家住宅は主屋が大正元年、表門が翌2年に実業家の磯野敬によって建てられた。金に糸目を付けず厳選された材料を使い、国内の名工達が斬新な創意工夫と技術の粋を結集して完成させた住宅は、近代和風建築の傑作と呼ばれている。
当時では先進的な耐震構造により関東大震災ではほぼ無傷であり、東京大空襲も潜り抜けた強運の持ち主の木造住宅は、東京都内でも有数の戦前の語り部でもある。主屋の屋根は銅板葺、外壁にも銅板が使用されていることから『銅御殿』(あかばねごてん)の愛称が付けられている。

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定員予約制につき10人足らずのメンバーが表門前に集合し、予定時刻にガイドスタッフの方に案内されてこの開かずの扉の脇の勝手口から内部に入場する。詳細な説明付きの約1時間の鑑賞ツアーのスタートだ。現在の邸宅の所有者であるホテルニューオータニの大谷家が経営する大谷美術館が、貴重な文化遺産保護に向け、クラウドファンディングと一般開放を実施しているのである。
軽い上り坂の砂利道を歩き前庭に出ると急に視界が広がり「銅御殿」の主屋が見えてくる。表通りからは決して眼に触れることのない築110年の木造建築だ。

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大規模改修はせず、ほぼ当時の姿のままの邸宅内部の見学となる。撮影は自由だが、防犯上の理由から内部構造が分かる写真の外部掲載は控えて欲しいとの事なので、意匠部分中心なのであしからず。

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噂通りの匠の技に息を飲んだ。意匠の素晴らしさに目を奪われがちだが、実は建築技術そのものも凄いらしい。詳細な設計図は残っておらず、過去に本格的な改修もしていない為に、工法的な謎が未だに多いという。東日本震災で少し剥がれた壁を調査すると、なんと内部は15層に及んでいたという逸話が残る。築1300年の法隆寺五重塔ではないが、日本の木造建築技術は古の時代から引き継がれているのだ[ぴかぴか(新しい)]
建築物は他の芸術品と違い寿命があると信じ込んでいたが、決してそうのように決めつけられないと考えさせられた。あと、やはりガイドさんの説明も聞くと理解度が格段に上がるのを今更ながら気づいた。自分のペースで鑑賞したい独りよがりの短気な爺いは少々反省するのであった。面倒がらずに専門家や音声ガイドの力を借りよう、特に最近はパンフレットが老眼で読みにくいので...[あせあせ(飛び散る汗)]

まだ日が暮れるには早い。一服して次の場所に移動だ〜[わーい(嬉しい顔)]




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