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『海辺の映画館 キネマの玉手箱』 [上映中飲食禁止]

今春、逝去された大林宣彦監督の遺作は、空前絶後の大傑作となった。

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大場久美子の映画デビュー作という興味本位から、学生時代に「HOUSE ハウス」(1977年)を再上映で観たのが、大林監督作との出会いだった。アイドルの大根役者ぶりに微笑みながら、ポップかつエキセントリックな映像に衝撃を受けた。それから40余年、「尾道3部作」を始めとして、日本人の忘れかけていた郷愁感を、時にとめどもなく美しく、時に信じがたい珍妙なカメラアイで、描き続けた。新人俳優を抜擢することでも知られ、薬師丸ひろ子・富田靖子など多くの若手俳優が、彼の作品からブレイクしていった。

半世紀に及ぶ映画人生の集大成とも言うべき本作は、約3時間の長尺である。仕事帰りにつき、実は寝落ち覚悟での鑑賞だったが、時間の経過も忘れ、完全に映画に惹きこまれた。80歳を超えた巨匠の脳みその断片を繋ぎ合せていったような、初心回帰を思わせる突飛な映像が、支離滅裂な時間軸の交錯を繰り返し、徹底して反戦を謳う。現代日本人へ向けた強烈なメッセージであり、極めて私的かつ日本的な、純粋無垢な邦画中の邦画の傑作である。

広島県尾道の海辺にある映画館・瀬戸内キネマが閉館を迎え、その最終日に日本の戦争映画大特集と題したオールナイト興行が行われる。3人の若者が映画を観ていると劇場に稲妻が走り、閃光が彼らを包むと同時にスクリーンの世界に押し込んでしまう。戊辰戦争、日中戦争、沖縄戦、原爆投下前夜の広島と上映作品の劇中で描かれる戦争をめぐる中で、三人は桜隊という移動劇団の面々と出会い、史実では原爆の犠牲になってしまう劇団員たちを救おうと手を尽くす。
 
半世紀に及ぶ大林組新旧スタッフ・キャストが総結集だ。彼らの師匠への至高の「愛」が、豪華絢爛・摩訶不思議なキネマ絵巻となって観客を異次元世界へと誘う。

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今作のメインヒロインは、新人の吉田玲そして鳴海凛子、山崎紘菜、常盤貴子だ。
いやぁ、小生好みの渋いところを攻めていらっしゃる。そして随所に、昔懐かしの俳優・珍客が絡んでくる。いきなり高橋幸宏が不可思議な進行役を務め、坂本龍馬役は武田鉄矢、千利休役は片岡鶴太郎ですか!伊藤歩も川上麻衣子もお美しいままだ[揺れるハート]NHK週間ブックレビュー以来の中江有里に再会できた幸福[黒ハート]笹野高史、白石加代子の怪演が一際輝く[ぴかぴか(新しい)]クレイジーキャッツ唯一の生き残り犬塚弘のベース演奏を聞かされた日にゃ言うことなし。

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3人の若者が、尾道の映画館から日本の戦乱時代にタイムワープし、前述のヒロイン達と愛と別れを繰り返していく物語だ。歴史上の戦乱の世は、つまるところ、同胞同士の殺戮であり、仲間内での裏切りと排除行為だ。その絵も言われぬ虚無感が、「中原中也」の詩と共に、エンドレスゲームのように設定を変えながら描かれていく。最後の場面は、監督の故郷でもある広島だ。1945年8月6日の『ピカ-ドン』・・・日常が一瞬にして「真っ白」になった日。
戦中派である大林監督が、現在の世界の不穏な趨勢を嗅ぎ取り、癌との闘病を続けながら、命を削りながら後世に問うた絶筆〜辞世の句なのである。

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こんな凄い映画には滅多に出会えない。
奇しくも、鑑賞日は原爆投下の翌日であった...
合掌


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