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夢の島へ [寫眞歳時記]

本日の街歩きは珍しく東京湾側を攻める。私が幼少の頃にはゴミの島と呼ばれていた埋め立て地帯だ。当時はゴミの焼却施設が皆無で、東京都の7割の生ゴミがそのままこの埋立地に投棄され続けていた。まさに東京中が「ゴミ戦争」に揺れていた時代だ。

その後、清掃施設を抜本的に整備して1978年に開園したのが「夢の島公園」である。広大な敷地には緑が生い茂り、スポーツ・文化施設やBBQ広場、マリーナなどが建てられて、東京都の恥部と云われたゴミ島が都民の憩いの場へと大変貌したのだ。本日は園内の「熱帯植物館」へ生まれて初めて行ってみる[ぴかぴか(新しい)]

だが到着すれば駐車場が満車で長蛇の列[ふらふら]
行列嫌いの小生は早々と諦めて帰ろうと車列を抜けてUターンすると、植物館とは遠く離れたエリアの駐車場が空いてるではないか。「ずっと待つより歩いた方がお得」「急がば回れ」なのだ[パンチ]

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マリーナ越に見える半球型の植物館に向かってダラダラと歩いていると、三角テントのような不思議な建物と出会った。

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なぜ「第五福竜丸」の展示館がこんな処に?訝しながら入ってみると、館内いっぱいに「実物」が展示されており圧倒される。

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1954年、ビキニ環礁での米の水爆実験で被爆した戦後ニッポンの核廃絶の象徴にもなったマグロ漁船であったが、その後は廃船となりいつしか夢の島に係留され朽ち果てていたという。偶然に都職員が発見したことから保存運動がまき起こり、1976年に此処に永久保存されたのだ。とかく人間とは忘れっぽい動物であり、過去の悲劇なんぞ当事者で無い限り瞬く間に記憶から消してしまうのだ。形で残すことは記憶を呼び戻すトリガーになる。歴史の風化と戦った当時の関係者の方々の努力に頭を下げ、駐車場が満杯からの怪我の光明にも感謝しつつ、次の目的地に歩を進める。

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「夢の島熱帯植物園」・・・公園がオープンした10年後の1988年に大宇根・江平建築事務所により竣工された。隣接の清掃工場の焼却熱から温水利用して園内の温室化を図っている。四半球のガラスドームが連なるフォルムはおよそ40年前の建物には見えない「近未来志向」を感じてしまう。

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しい入場料250円[exclamation&question]
「今、全国各地の水族館が熱い」らしいのだが、この植物館も素晴らしい。とにかくお隣の葛西臨海水族館ほど混雑していないのも良い。寒波の中での熱帯擬似体験と昭和建築の醍醐味を堪能してきた[ぴかぴか(新しい)]

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公営なので洒落たレストランもカフェも無い。売店で買った「はんぶんトロピカルドラゴンフルーツ」を無料休憩所で頬張る。真冬の熱帯温室で食うアイスはサイコーである[あせあせ(飛び散る汗)]
 
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帰り際に新木場駅前に立ち寄り、休日のため全くひと気の無い個性的なビルを見学して寒波の1日を終えるのでありました[ダッシュ(走り出すさま)]

新木場センタービル
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木材会館
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『敵』 [上映中飲食禁止]

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[目]必見[目]
美しき老境の混沌と諦念〜令和版の筒井ワールド炸裂〜

目覚めると老人は、慣れた手つきで一合の米を研いで炊き、鮭を丁寧に焼き、静かに食卓に着く。そして食後には豆から挽いて淹れた珈琲を持ってパソコンに向かいおもむろに原稿を打ち始める。仏文学の権威と呼ばれた元大学教授の渡辺儀助(長塚京三)は妻に先立たれ、20年近く広い日本家屋に独りで暮らしているのだった。退官後は年金と僅かな原稿料と講演料で糊口を凌いでいる。蓄えが無くなれば自ら命を断つという気構えが、彼の外連味のない生活に不思議と張りを持たせていた。

モノクロ映像が木造住宅の陰影を際立たせ、出来立ての朝餉の温かさを伝えてくれる。いかにも昭和の情景だが、筒井康隆が1998年に発表した原作を映像化した本作は令和の時代にリメイクされている。儀助のPCは最新のMacであり、メールやネットニュースが常用の設定だ。

前半は独居老人・儀助の日常を淡々と描きつつ、彼の歩んできた半生と頑なな性格をユニークに炙り出していく。「健康診断なんて行った事が無い」と大口を叩くが、激辛料理を食って下血すると病院に飛んでいき大腸検査を受け、痔瘻と分かり安堵する。亡き妻のコートの残り香を嗅ぎ涙ぐみながら、女盛りの元教え子・靖子と定期的に食事をして妄想に駆られている。いつ死んでも構わないと言いつつ、人一倍生に固執する滑稽な姿が笑いを呼び込む。衰えたとは言え、食に対する拘りと男性機能はいまだ旺盛なのだ[どんっ(衝撃)](う〜ん、まさか私[あせあせ(飛び散る汗)]

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中盤から彼の日常に徐々に綻びが現れてくる。「敵」の襲来を知らせる謎のメールを受け取ってから、現実と妄想の区別が出来なくなってくるのだ。当初はリアルな夢にうなされる日が続いていたが、いつしかそれが白日夢と化し日常化していく。

【認知症の母を看ていたので分かるのだが、「まだら呆け」と呼ばれる時折訪れる妄想と記憶の消失である。本人が一番悩み苦しむ時期だが、少しづつ痴呆の時間が正常期を逆転し、いつしか悩む能力自体も失って行くのだ】

例によって下心たっぷりと靖子を自宅に呼び込み鍋を突いているといつしか妻の信子と雑誌社の編集者と四人で鍋を囲んでいる。当惑している間に、靖子が編集者を弾みで殺してしまい、庭の井戸に死体を隠そうと奮闘する儀助の姿が映り出される。そして靖子が唐突に「先生、私を想像して自慰したことあるでしょ」と問い詰めてくる。まさに支離滅裂な儀助の脳内破綻なのだが、少なからず誰もが体験している「夢オチ」と重なり違和感を感じさせない。巧みな演出と俳優陣の名演がモノクロ映像で一際映える。

そして遂に「敵」がやって来る...

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後半は筒井ワールド全開のドタバタ劇から静かな終息を迎える。何処から何処までが儀助の妄想かが判別が曖昧となり、「敵」も彼の幻覚であるのが推察される。ただ「敵」自体は儀助を脅かし追い詰めてく抽象的な存在であることを示唆し、その本性の解明は観客(読者)に委ねられる。それは「死」そのものか「老いによる認知機能の崩壊」か、はたまたSFばりに本当に「未知の侵略者」なのか。見方によっては「女」が「敵」かもしれない[あせあせ(飛び散る汗)]

作中、儀助に関わる重要な女性として三人の個性豊かな女優陣が
登場する。彼を惑わす瀧内公美の気品さと淫靡を併せ持った色気が、老人の狂気を上塗りした。勤勉な苦学生と思わせ、まんまと儀助から大金をせしめる河合優実の清純風小悪魔ぶりは痛快でさえあった。黒沢あすかは妻の威厳を保ちながら夫へのとめどもない愛を放つ。小生好みの三世代の女優が、12年ぶりの映画出演となる長塚京三の熟練の枯れた演技に彩りと艶を与えて行く。麗しい化学反応だ。情景と見事にシンクロさせた千葉広樹の音楽も秀逸で、弦の響きと電子音の融合が時に美しく、時におどろおどろしくモノクロ映像と溶け込んでいた。

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高校時代に「家族八景」から「七瀬シリーズ」にハマり筒井康隆を知った。小生が初めて触れたSF作家であり、鬼才と呼ぶに相応しい文人だった。近年、彼の作品から遠ざかっていたが、このように映像化された形で再会しようとは、しかも老境に差し掛かった「今」になって「老い」の作品を。映像化困難と言われる筒井作品をここまで昇華させた吉田大八監督に感謝である。歳を重ねれば全ての人に必ず訪れる「敵」と戦うべきか、受け入れるか、やり過ごすか。私は、儀助の最期が羨ましいほど幸せに感じてしまうのだった。老齢者だけでなく多くの方に鑑賞してもらいたい邦画のである[exclamation×2]


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