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『哀れなるものたち』 [上映中飲食禁止]


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若い女性ベラ(エマ・ストーン)は自ら命を絶つが、天才外科医ゴッドウィン・バクスター(ウィレム・デフォー)によって胎児の脳を移植され、奇跡的に生き返る。「世界を自分の目で見たい」という思いに突き動かされた彼女は、放蕩(ほうとう)者の弁護士ダンカン(マーク・ラファロ)に誘われて大陸横断の旅に出る。大人の体でありながら、新生児の目線で物事を見つめるベラは、貪欲に多くのことを学んでいく中で平等や自由を知り、時代の偏見から解放され成長していく。(シネマトゥデイより)

当然の18禁であり観る人を選ぶ作品だが、個人的に胸躍る傑作だった[かわいい]
エマ・ストーンの規格外の艶技に目のやり場を失くし、緻密で鮮やかな美術・装飾に目を奪われがちだが、一人の女性の成長をダイナミックに描いた脚本・演出が独特の世界観を見事に表現しており、それが比類なき完成度の高さなのだ。瞬く間に作品に取り込まれたのは言うまでも無い。

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19世紀のロンドン。身重のまま投身自殺を図った女性の遺体を手に入れた天才外科医ゴッドウィン・バクスターは、禁断の手術を施して彼女を蘇生させるのだった。胎児の脳を移植され外見は成熟した美女、精神は新生児並みの成人女性にベラ・バクスターと名づけ、博士は研究材料かつ愛娘として自邸で育て、その成長過程を医学生のマックスに詳細に記録させていた。

衝撃の冒頭だ[がく~(落胆した顔)]
つぎはぎだらけの顔を持つ外科医と機械仕掛けのような動きをする美女が実験室付きの屋敷に暮らしている。ゴッドウィン自身も偏執狂的な父の実験対象として身体中を切り刻まれていたのだ。そして父の異常性を引き継いだ彼もまた自らの手でベラという「フランケンシュタインともいうべき人造人間を生み出したのだ。その過程が描かれる序盤はモノクロ映像が続き、挿入される音楽はチューニングがずれたような弦楽器の軋みだ。閉ざされた世界で錯乱した精神のままのベラを婉曲的に表現する。ゴッドウィン博士を演じるウィレム・デフォーの存在感に圧倒され、野生動物のように粗野に振る舞うエマ・ストーンの演技力に脱帽する。

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中盤からベラのアドベンチャーが始まる。急速に成長を続け自我が芽生え始めたベラは外の世界に興味を持ち、遊び人の弁護士ダンカンに誘惑されてポルトガルのリスボンに駆け落ちしてしまう。画面はフルカラーとなり、ミニチュア風の作り物感満載の背景がベラが見る世界の変貌を物語る。知性より先に性の悦びを得るベラ。あの清楚なスパイダーマンの恋人が...ラ・ラ・ランドのファショナブルな美女が...淫らに肢体をくねらせる[揺れるハート]本作の制作にも関わったエマ・ストーンの本気度を激しいセックスシーンに感じざるを得ない。オスカー獲得には満足しない女優は更に表現者としての高みに昇って行くのだ[exclamation×2]

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ベラの知識欲は留まることを知らず、初めて出会うもの全てを吸収して行く。音楽、踊り、文学、そして格差社会を目の当たりにした彼女は、教養と審美眼を身につけたエレガントな貴婦人へと変貌していく。この件は「マイ・フェア・レディ」に多少通じる。当初は遊び半分だったダンカンだったが、魅力が増す彼女の虜になり、結局は無一文に堕ちぶれ棄てられるのだ。そして最後に辿り着くパリで、ベラは社会通念など一切関知せず、娼婦として楽しく生活を送るのだった。

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バクスター博士が重病との報を受け、急遽ロンドンに戻るベラ。倒錯した天才外科医を産みの親として受け入れ、博士の残り少ない日々を穏やかに共にする。彼女に恋焦がれていた助手のマックスからの求婚を受け入れ、博士の立ち会いのささやかな結婚式の最中に突如、闖入者が現れる。ベラをビクトリアと呼ぶ男はアルフィー・ブレシントン(クリストファー・アボット)と名乗る貴族で、行方不明になっていた妻を長年探して求めていたというのだ。当然、「生前」の記憶が無いベラだが、アルフィーの求めに応じて彼の豪邸に「帰宅」する決断をする。籠の鳥のような生活を妻に強要する元夫の異常な性格を垣間見たベラは、ビクトリアの自殺の原因を憶測せざるを得なかった。ついに彼女は父の元に帰る決断をするが、その前に狂った夫が立ち塞がる...

胎児の頭脳から驚異的な進化を遂げる女性の成長過程を劇的かつアーチスティックに描いた、他に類を見ない刺激的な作品だ。SF的な緻密で有り得ないような背景とエマ・ストーンが纏う奇抜な衣装に心をざわつかせる音楽が溶け込む。落ちたらエログロかパロディに嵌る塀の上をギリギリ歩くような快感に酔いしれる。ヨルゴス・ランティモス監督が操る絶妙な構成バランスと巧みな演出は観客を異世界に呼び込む魔法なのだ。

無垢な魂は、多くの個性的な人間と出逢い、反社会的な環境にも身を委ねながら、「生きる」ことを再学習して行く。一度は自ら命を絶った自分の過去を重ねながら、こんなに素晴らしくも理不尽な世界で「自由」を掴み切る力を身につける主人公に愛しさを覚えると共に羨ましく思えてしまう。それにしてもエマ・ストーンは凄かった。こんな俳優は今の日本には存在しない[exclamation×2]原題『Poor Things』の意味を紐解きながら、さぁ楽しい明日を夢見てとりあえず寝よう[眠い(睡眠)]

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Labyrinth

今を時めくエマ・ストーン♪ つむじかぜさんの興奮が伝わりました…!
近々観て参ります~ ((((((((((^_^;スス~ゥ
by Labyrinth (2024-02-10 00:22) 

つむじかぜ

> Labyrinth 様
エマ嬢の肉体美だけでも見る価値大ですが、とにかく小生好みの
作品でした。Laby様レビューが楽しみです^^
by つむじかぜ (2024-02-10 00:41)