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『朝が来る』 [上映中飲食禁止]

彼女の作品って、どうしてこんなに温かいのだろう。

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ドキュメンタリー制作から世界に羽ばたいた川瀬直美監督の最新映画である。拡大ロードショーされる類ではないが、昨今は異常な鬼滅ブームに追いやられ、この手の作品は尚更ひっそりと絶賛上映中だ[パンチ]

『あん』『光』の感動、再び〜本物の映画と出会えた〜

子供に恵まれなかった栗原佐都子(永作博美)と夫の清和(井浦新)は、特別養子縁組の制度を通じて男児を家族に迎える。それから6年、朝斗と名付けた息子の成長を見守る夫妻は平穏な毎日を過ごしていた。ある日、朝斗の生みの母親で片倉ひかりと名乗る女性(蒔田彩珠)から「子供を返してほしい」という電話がかかってくる。(シネマトゥデイより)

幼稚園児のジャングルジム転落事故が起こり、自分の息子が加害者だと疑われる。我が子を信じながらも、一抹の不安がよぎる...「私達夫婦とは血が繋がっていないから?」
不穏な雰囲気から始まる物語は、不妊治療の望みを失った夫妻に突如訪れた養子縁組の話に遡る。子供に恵まれない中年に差し掛かった夫婦の姿を、永作・井浦が等身大で演じる。永作博美が凄い、そして良い歳の重ね方をしていると実感する。本作内では、ほとんどスッピンと思われるが、目立つ目尻のシワが逆に可愛いらしく、またそれが演技の重みを増している。名作TVドラマ「青い鳥(1997年)」での食堂のひとり娘役の時と同じだ[がく~(落胆した顔)]

50歳にはとても見えぬ[揺れるハート]
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突如恵まれた子供との縁を無性に喜ぶ夫婦。息子の成長と共に家族の絆が深まった頃に、一本の電話が掛かってくる...「私の子供を返して下さい」

中学生で妊娠し、特別養子縁組団体で出産、子供を手放さざる得なかった少女役を蒔田彩珠(あじゅ)が熱演だ。若干18歳とはいえ、子役時代からの芸歴は長い。この目力は魅力であり、最大の武器だ。栗原夫婦の幸せの過程と並行して、この片倉ひかりの哀しき思春期が刻々と描かれて行く。

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先日の新聞紙上に河瀬監督のインタビューがあり、特殊な演出法に関しての記述があった。『脚本に書かれたシーン通りに撮影する「順撮り」をすること。そして俳優同士が役名で呼び合い、カメラの回っていないところでも役のまま過ごす「役積み」をさせることだ。順撮りでないと絶対に出ない感情があり、これまでも作品ごとに奇跡的なシーンを撮ることができた。今回は夫婦と実母が対面するシーンで奇跡が起きた・・・(日本経済新聞より)

出演者すべての自然かつ胸に沁みる演技の根幹が、そこに在ったと得心する。施設長の浅田美代子、ひかりの母親役の中島ひろ子、ひかりの親友となった森田想など脇役陣もハイレベルの演技だった。そして、特に蒔田彩珠の演技が神懸かり的なのだ[exclamation×2]初恋を知り幸せ一杯だった中学生が「妊娠」というアクシデントから人生の歯車が狂い、若くして都会の片隅でやさぐれた生活を送るのだが、設定された奈良の中学校に実際に通学し、卓球部に所属、新聞配達の共同生活も経験し、「役積み」をしたという。外見は清楚な美少女から別人の如く変貌しつつも、人を信じる心と一欠片の母性だけは失わず、都会でひっそりと生きる姿をリアルに演じた。

「産みの親」と「育ての親」が対峙する場面は、緊迫感に溢れ、観る者をスクリーンに釘付けにする。母に成りきった永作が静かに断固たる口調で話す...
「あなたは、一体誰ですか」

自らが養女である河瀬監督が、辻村満月原作を渾身の力で映像化した人間ドラマだ。ミステリー仕立ての体裁を保ちつつ、不妊治療問題と特別養子縁組制度に光を当てた「愛溢れる傑作」だ。映像の1カット1カットは、独自の光の取り込みと構図によりフィルムカメラで切り取ったような永遠性を帯びる。ラストシーンの二人の母親に囲まれた息子の目に映る夕陽が、えもいわれぬ愛しさを沸き立たせ、胸を熱く締め付けるのであった。

「鬼滅」も素晴らしいアニメだと思うが、本作こそ、もっと多くの方が観るべき本物の“映画”ではなかろうか。


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コメント 2

そら

映画化されてた事を存じ上げなくて。
ぜひに観たいです。
辻村深月さんがとても好きで、原作は読ませて頂きました。とてもとても深い内容で、性も含め沢山考える内容でした。
ご紹介下さってありがとうございました。
by そら (2020-11-05 08:10) 

つむじかぜ

> そら 様
nice!&コメをありがとうございます。
私は原作の方が未読ですが、この映画からもオリジナルの素晴らしさが窺える気がしました。是非、河村監督のフィルターを通した名作もご覧下さい。
by つむじかぜ (2020-11-06 00:55) 

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