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伯山、再び! [上映中飲食禁止]

2週続けて、生の神田伯山を聴くことになるとは...

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先週、浅草演芸ホールに出演した伯山を初めて聴き、感動に耽っていたのだが、なんと今週に我が地元で独演会が開かれることを3日前に知ったのだ。
今回は、小生が乗り気となり、カミさんを誘った。もちろん今や大人気の伯山である。当然チケットは残り僅かで、二人並びは3Fのみ、1F席は両サイドの壁側に1席づつとのことだ。ここは我が夫婦の気の合うところ、

「3F席じゃ、伯山が米粒だ。離れ離れの1F席にしよう!」
(意気投合するこんな女房が好きだ[黒ハート]

一人3,500円が、墨田区在住割引にて3,000円じゃ! 流石、すみだトリフォニー[ぴかぴか(新しい)]
この会場は、クラシック専用の大コンサートホールである。コロナ自粛も緩和され、前列2列以降は、立錐の余地もない満員状態だ。3Fの混雑感は分からなかったが、1,500名近い観客数と思われる。我が夫婦は、毎度の現地集合で、お互いの存在を気にせずに講談を楽しむ計画とした。もちろん、終了後は出口集合ということで...

普段は、フルオーケストラが鎮座するステージの中央に「ポツン」と釈台が置かれている。二人の前座が勢いよく、手短に、師匠の露払いをして、いよいよ真打登場である。
いささか猫背気味に照れ臭さそうに現れるいつもの神田伯山だ。開口一番・・・

「皆さんと同じ気持ちですよ・・・広すぎるんですよ。2階3階のお客様には本当に申し訳ない。これで一律3,500円ですよ。主催者が全くのど素人なんです。なんで、この仕事を受けちゃったのかな。」

いきなりから爆笑を誘う。本題に入る前の「マクラ」でいかに観客を一気に引き込むかが、噺家の巧拙だが、寄席で鍛えた伯山のそれは、百戦錬磨の落語家を凌ぐ。講釈師としては先例が無い話術の巧みさであり、それが幅広い年代からの人気の秘訣なのだと思う。

1席目は、「講談初心者の方でも分かりやすいように」と断りを入れて『源平盛衰記 扇の的』だ。落語好きの小生であるが、講談は詳しくない。但し、この演目は日本史の平家物語の一節として覚えている。屋島の合戦での弓の名手「那須与一」の有名な逸話である。日本人なら多くの人が知っている故事が、伯山の手にかかると、臨場感溢れる中に笑いを散りばめ、全く新しいものに生まれ変わる。師匠にはウォーミングアップのネタがこの出来だ。次への期待が高まる。

次なる演題は、「一部の常連さんの前でしか演らない」ネタ。別門である一龍斎貞心から教えを受けたという初代・神田伯山に纏わる話だ。
江戸時代の後期、神田派の開祖・神田伯龍には3人の高弟がいたという。神田白龍の弟子、伯海は芸は優れ男っぷりも良い。自分くらいの腕がどこでも通用すると、お梅という娘を連れて江戸を離れ大坂へ赴く。しかし生来の遊び癖で、たびたび寄席の席を抜き、芸人仲間からの評判は悪い。さらには借金を重ね、妻のお梅には逃げられてしまう。江戸に戻ると自分の弟弟子であった伯山が神田派の総領となっていた。失意する伯海に名人の東林亭東玉が力を貸す…というあらすじなのだが、典型的な人情噺である。目の前に情景が浮かぶ名演だった。人気が復活した伯海に、藤玉が別れた妻を引き合わせる場面には、目頭が熱くなった。そして、伯山師匠の脈々と続く講釈師の名跡への深い想いを垣間見た「東玉と伯という大ネタであった。因みに、この噺の主人公である伯海、後の松林亭伯圓は、安政の大地震で本所小梅の自宅で亡くなったという。まさに小生の地元であり、在りし日の江戸の街並みが脳裏をよぎった。

中入りは挟み、最後の3席目だ。我々初心者に向け、「もう、疲れたでしょ」と労いながら、「今まではリハーサルみたいなもんで、最後に演るネタが、僕が大事な時にかけさせてもらう噺です。私のパッションが3Fにまで届くように一生懸命演らせていただきます」(げっ、もっと凄いのを出すの[がく~(落胆した顔)][がく~(落胆した顔)][がく~(落胆した顔)]

「中村仲蔵」・・・真打披露初日にかけた噺らしい。江戸中期、芸一筋に生きた歌舞伎役者の立身出世物語だ。当時の役者世界には、台詞ひとつの「稲荷町」から一座の中心となる最高位の「名題」まで厳格な階級が存在したという。そして徹底した血統主義もあり、大役者の血筋であれば名題の道が自ずと待っているが、家柄に恵まれない者は、いくら実力があっても生涯、稲荷町を抜け出ることは出来なかった。「芸きちがい」と呼ばれていた仲蔵は、一心不乱に芸を磨き、座長の市川團十郎の目にとまり、異例の出世を遂げていく。廻りの反対や嫉妬怨嗟にもめげず、稲荷町出身の初の名題に登りつめた矢先、「仮名手本忠臣蔵」で彼に与えられた役は、5段目の中での端役だった。玄人筋には、人気の4・6段に挟まれ飯を食べながら時間潰しの「弁当幕」と呼ばれ、誰からも注目されない舞台だった。かつてはどんな役でも工夫を凝らしてきた仲蔵だったが、この役は万事休す。果たしてこの斧定九郎役を、彼はいかにして演じるのか、そして観客の評価は如何に・・・

前座時代から人気を博しながら、落語協会の伝統により一度は真打昇進を見送られた、一般家庭出身の本人と完全にかぶるネタだ。1、2席とは打って変わり、本題に入ってからは敢えて「笑い」を封印したような緊張感溢れる語り口だ。クライマックスには、ホール全体が暗くなり、ステージ上の伯山のみにスポットライトが当てられる唯一の演出と相待って、一人の芸人の生き様をまざまざと見せ付けた。最後の「いよっ、堺屋、日本一!」の掛け声に戦慄が走る。怒涛の50分間。6代目神田伯山が、自分自身の芸への熱い想いを投射した魂の講談だった。

よく通う寄席は1席がせいぜい20分弱、個々の噺家の凝縮した話芸の一端を知る貴重な場である。だが、独演会というものは、一人の芸人の持てる全ての技術や想いを観客に披露する真剣勝負に思えた。3つの演目に約2時間を費やしたこの日の講談を目の当たりにし、日本伝統芸能の奥の深さを思い知り、伯山師匠の芸への真摯な姿勢に胸が熱くなった。

女房とシンフォニーホール向かいの居酒屋で煮込みをつつきながら、感慨に耽る夜でした[ぴかぴか(新しい)]

お時間があれば聴いていただきたい[パンチ]





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