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『ハウス・オブ・グッチ』 [上映中飲食禁止]

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貧しい家庭出身の野心的なパトリツィア・レッジャーニ(レディー・ガガ)は、とあるパーティーで世界的ファッションブランド「グッチ」創業者の孫であるマウリツィオ・グッチ(アダム・ドライヴァー)と出会う。互いに惹(ひ)かれ合うようになった二人は、周囲の反対を押し切って結婚。やがて、セレブとしての暮らしを満喫する彼女は一族間の確執をあおり、グッチ家での自分の地位を高めブランドを支配しようとする。そんなパトリツィアに嫌気が差したマウリツィオが離婚を決意したことで、危機感を抱いた彼女はある計画を立てる。(シネマ・トゥデイより)

驚愕の悲劇を嘲笑うように喜劇に変える魔術

巨匠リドリー・スコット監督が描くグッチ家の凋落。愛憎渦巻くドラマをアイロニックに人間の愚かさを謳い上げた喜劇に昇華させた。前作「最後の決闘裁判」同様に、シリアスに展開するストーリーの裏で、見栄や欲望に塗れた人間の本質を嘲笑う監督の冷めた視線が見え隠れする。80歳を過ぎてもリドリー節は健在なり[パンチ]

1995年マウリッツオ・グッチ暗殺事件に至るグッチ家の興亡に着想を得て映画化された。グッチ家に了承無しでの製作に物議を醸しているようだが、訴訟沙汰にならないのは、名家のプライドか、はたまた事実はもっと奇なりゆえか。強烈な個性の俳優陣の競演により、創作の愛憎劇がノンフィクション以上の説得力を持って我々に迫って来る。

なんと言ってもレディ・ガガ[キスマーク][キスマーク][キスマーク]

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このムチムチ感と威圧感は彼女ならではだ。3年前の「アリー/スター誕生」と比較してもパワーアップ・・・プラス8キロと見た[ひらめき] 世界一の歌姫の立場を築いた彼女だが、俳優としても超一流であることを証明した。イタリア系アメリカ人であり、パトリツィア役は水を得た魚か、この稀代の悪女をまさに「等身大」できめ細やかに演じた。

芳醇な色香に一発でやられた世間知らずのおぼっちゃまマウリッツオにはアダム・ドライバー。「最後の決闘裁判」に続いてのリドリー作品への抜擢だ。スター・ウォーズでの敵役がいつしかスターダムに登りつめてきた。「男の一途な愚かさ」を情緒溢れる演技で魅せてくれた。

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父が興した皮革工房を世界的ブランドに押し上げた立役者であり、マウリッツオの叔父にあたるアルド・グッチ。卓越した経営感覚とバイタリティ溢れる人間性でグループを引っ張る彼にはイタリア・マフィアの香りが残る...と感じていたらアル・パチーノ様ではないか[exclamation×2]エンド・クレジットまで気付かぬ程の変わりよう。だが雰囲気はまさに初代ゴッド・ファーザー役のマーロン・ブランドだ[かわいい]グッチ本家カリスマの悲哀を、経営者と父親としての両面から滲み出るエネルギーで演じきった。彼の存在感により本作の重厚度が増した。

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アルドの愛すべき愚息パオロ役にはジャレッド・レトだ。役作りの為に体重を30キロ以上増減させる尊敬すべき変態オスカー俳優だが、今回は禿げ上がった中年親父に変身だ。

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物語はパトリツィアとマウリッツオとの出会いから始まる。グッチ本家から勘当されても二人は結婚し、純愛を貫く。史実では、彼女が最初からグッチ家の財産目当てだったとされているが、本作ではパトリツィアを確信犯的な悪女には描いていない

運送会社で働く新婚時代の二人の幸福感は決して嘘では無かったはずだ。当初は純粋に、夫と父親の関係を修復し、家業に戻してあげたいと思い、彼女一流の手練手管を使って目的を達成する。法律家志望だった夫がトラックの運ちゃんをしていれば、妻は分相応な仕事に就かせたいと願うのは当然だろう。だが、華やかな世界を垣間見てしまった彼女に別の感情が生まれる。貧しい家柄を人間扱いしないグッチ家の奢りに反骨心が芽生え、能力の無い者が大金を手にする理不尽さに苛立つ。そして、能力の有る自分達がグッチ家の全てを手に入れて当然だと狂信的に駆り立てられていくのだ。徐々に富と権力に心奪われていく夫婦の姿がリアルに描かれ、スクリーンから目が離せない。権力闘争の影で暗躍するのがもちろんパトリツィアだ。学者肌の夫にはそんな芸当は出来ない。「人たらし」が天下一品の彼女の面目躍如たる所だが、レディ・ガガが憎らしいほど見事に演じる。そして夫婦関係の終焉と並行して会社の破綻が描かれる。パトリツィアと別離し、グッチ家の財産を独占したマウリッツオに経営能力が備わっている訳が無い。放漫経営の末、彼はグッチの経営権を売却するしか道は残らなかった。

それでも余りある資産を残し、気楽な余生を暮らすマウリッツオに迫る魔の手。パトリツィアに雇われた殺し屋の銃口が彼に向けられ火を吹く...まさに金曜サスペンス劇場並みの暗殺事件に発展する。だが離婚調停中だった妻の座を利用し、全ての資産を我が物にした彼女にも安寧の時は続かなかった...

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全ての登場人物から欲にまみれた人間の本質を抽出し、その末路を描き出した滑稽劇に仕立てた。人間の背負う哀しき業に涙しながら笑い飛ばす老監督の嘆きが聴こえる。果たしてパトリツィアの欲したものは、財産か名声か男の愛かはたまた一握りの自尊心か。創業家の精神が消え果ててもブランドだけは生き残り、あのロゴマークに大金を叩く世界中の紳士淑女にまで嘲笑っているようだ。19世紀から隆盛を極めた欧州のファッションブランドのほとんどは、今やLVMHやケリングなどに買収され系列化された。多くの商品はアジアで生産され最終工程で母国のブランドが付与されるらしい。個人的には「熊本のシジミ」と大差無いと思うのだが。因みに、パトリツィアの共犯として逮捕された占い師を演じたサルマ・ハエックの亭主はケリング社(Gucciを買収したコングロマリット)のCEOだそうだ。この辺りの配役にもリドリー・スコットの風刺が効いている。老いてもいまだに脂ぎる監督に今後の期待が更に膨らむ[ぴかぴか(新しい)]




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Labyrinth

熱の籠った勢いのある文章…! 流石 つむじかぜさん♪
咬み砕いた表現に、改めて内容が良く分かった私です。(;^_^A
“リドリー・スコット愛” と言っていいのか…?(汗) 強く伝わって参りました~
by Labyrinth (2022-02-24 12:44) 

そら

大きなお宅って脆いですよね。
そしてブランド信仰の方って面白い。
by そら (2022-02-24 12:51) 

JUNKO

機会があったらこの映画は見たいです。
by JUNKO (2022-02-24 13:58) 

つむじかぜ

> Labyrinth 様
小生の恋心が見透かされてしまいました^^;
by つむじかぜ (2022-02-26 00:53) 

つむじかぜ

> そら 様
ブランド好きの人に面と向かっては言いにくいですね。
そんな私はカメラだけはSONY・ミノルタ狂ですが...
by つむじかぜ (2022-02-26 00:58) 

つむじかぜ

> JUNKO 様
是非、着飾ってご鑑賞ください^^
by つむじかぜ (2022-02-26 00:59)