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『やがて海へと続く』 [上映中飲食禁止]

                           [ぴかぴか(新しい)]無性に愛おしさが募る珠玉の作品[ぴかぴか(新しい)]
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引っ込み思案の真奈(岸井ゆきの)と、自由奔放なすみれ(浜辺美波)は親友同士だったが、一人旅に出たすみれはそのまま行方知れずになる。親友がいなくなって5年が過ぎても、真奈は彼女の不在を受け入れられずにいた。そんな折、真奈はすみれと以前付き合っていた遠野から、すみれが大事にしていたビデオカメラを渡され、そこに残されていた彼女の秘密を知る。(シネマトゥデイより)


限るある命と永遠に続く人の想いを、パステル調の絵本に柔らかい文体で綴られた詩のごとく映像化された美しい映画だ。現在売り出し中の若手女優である岸井ゆきの浜辺美波の競演が、この重厚なテーマを清らかに優しく染め上げて行く。

大企業傘下のレストランでフロア長として働く真奈の回想として物語が始まる。大学入学時のサークル勧誘の喧騒の中で二人は出会う。内向的な真奈は、奔放なすみれに常に振り回されながらも憧れと親しみを感じ、二人が親友となるのに時間は掛からなかった。

岸井ゆきの・・・三十路には見えない外見の幼さを持ちながら大人の柔らかい色気を内に秘めた女優だ。万人受けする正統派美人ではないが、ごく一部の男性が熱狂的に嵌るタイプで、朝ドラ「まんぷく(2018年)」出演時の配役がまさしくそうだった。製作陣からも玄人受けしているようで、地味な印象の女優だがTVドラマ、映画の主要役で最近は引っ張りだこだ。表情ひとつから感情表現が豊かかつ自然な演技が優れており、今作のような詩的な作品で彼女の力は一層際立った。

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浜辺美波・・・知名度からしたら彼女が主役かもしれない。愛くるしいキャラが似合うアイドル的な扱いの若干21歳、若くして多くの映画賞を総なめしている女優だ。素顔はソバカスが目立つ純日本人体型で、スタイリッシュなモデル系美人ではない。だが近所にいそうな可愛い元気な女の子的な親近感に合わせて、岸井同様の演技の引き出しの多さは同年代女優の中では抜けており、昨今の人気も十分に頷ける。その彼女が脇役にまわり、想いを隠したまま消えた親友役を演じた。TVのラブコメ系ドラマでは滅多に見せなかった彼女の隠れた実力が発揮され、美しき本作により深い彩りを添えた。10年前の吉高由里子以来久々の『ワンピースが似合う若手女優』の筆頭格であり、小生垂涎の未完の大器[揺れるハート]

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学生生活を謳歌した後、一時距離が空いた二人だったが、或る晩突然にすみれが真奈の部屋に転がり込み同居生活が始まる。お互いの心の隙間を埋め合わせるような幸せな日々が続いたが、1年後に彼氏と同棲するという理由ですみれは真奈の部屋を出て行くのだった。その後暫くして、「東北に一人旅してくる」と真奈に言い残したまま、すみれは二度と帰って来る事は無かった。2011年3月上旬だった...

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東日本大地震から5年が経過し、すみれの元恋人・遠野(杉野 遥亮)から真奈に連絡が入る。自分は結婚するので、部屋に残ったままのすみれの遺品を整理したいから手伝えと言う。すみれの愛用したビデオカメラを引き取りながら、過去と決別し前に進む遠野に違和感を覚えつつ、真奈自身の時計が5年間全く進んでいない事に気付く。時を同じくして、真奈の勤務先の上司・楢原(光石研)が自殺をする。親会社のエリートからドロッアウトし子会社レストランの店長に収まっていたが、決して卑屈にならず、和やかな店づくりをスタッフ全員と取り組んでいた矢先だった。毎日、顧客の雰囲気に合わせて自分の持ち込んだCDを選んでBGMを流すような楢原に、真奈は尊敬と親しみを感じていたのだった。だが、新しい店長は効率的な働き方を従業員に提案し、BGMも有線に変わる。それでも何も無かったように繁盛し、賑わいが続く店に真奈は戸惑いと絵に言われぬ寂しさに捉われる。

真奈は密かに想いを寄せていたシェフリーダーの国木田(中崎敏)を誘い、東北旅行に出掛ける。すみれが最期に歩いた地で彼女と向き合う為に。すみれの吐息が聞こえるような海岸線で、偶然に二人は震災行方不明者の家族の会合に出会す。画面は一転、家族達のインタビューに変わる。かけがえのない人と別れたままの家族が、それぞれの想い(俳優による演技とリアルな会話と思われる)を語る映像が続く。荒天の晩、現地の民宿で別々の部屋で夜を明かした二人は壁越しにお互いの命の息吹を感じる・・・本作の隠れた名シーンだ。翌朝の雨上がりの海は雄大かつたおやかで、まるで真奈との決別を喜ぶ外連味のないすみれの笑顔のようだった。すみれの死を受け入れた真奈は前を向こうと思った...

これでエンドクレジットと思いきや、自宅に戻った真奈がすみれの残したビデオを初めて観る場面に変わり、大学入学時からのすみれの回想が展開される。押し隠していた彼女の一途な真奈への想いが切々と描かれていき、胸が苦しくなるほどだ。すみれの熱き魂は、肉体はかき消されようが、海と同化し雲となり雨となり数多の生き物の糧となり、また海へと戻る。そして延々と続くループの中で優しく真奈を見つめる様を、淡い色調のアニメーションが示唆して物語は終わる。

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誰もが経験する大事な人との永遠の別れ。それが唐突であればなおさら当事者は受け入れられずに永く喪失感に苛まされる。だが容赦無く時間が流れ、世間の日常はあいも変わらず続くのである。
先立つ者と残された者の関係を、最近流行りの「スピリチュアルな現象」に頼らずに真正面に捉えた秀作だ。人間の出会いと別れという根源的なテーマを大自然の繰り返される過程になぞる。水が姿を変えながら数多の生物に命を吹き込むように、人間の失われた魂も残された人の生きる糧になり、人間同士の営みとはその繰り返しであると諭す。
哲学的もしくは説教風になりがちなストーリーが、新進女優二人の透明感溢れかつ深い想いを秘めた演技によって、美しい一編のポエムとなり観る者の心を震わせる。アニメーションの導入やインタビューの唐突な挿入など演出面で凝りすぎた面も否めないが、それを持って余りある映画の力。静謐でありながら魂が熱くなる邦画の秀作である。





◎おまけ

小生が浜辺美波を見初めたのは、映画でもTVドラマやCMでもなく、Aimerの1本のMVからなのである。深夜アニメ『恋は雨上がりのように』のエンディング曲「Ref:rain」での歌声に興味を持ち、彼女が小生の愛しのCoccoに傾倒しているのを知り、CDを購入したのだった。同時期にこれまた小生が嵌まった劇場アニメ「Fate/stay night [Heaven's Feel]」の主題歌も彼女の作品だったいう「奇遇」までも感じ、完全に虜になった。その映画宣伝用のMVに出演していた美少女が浜辺美波なのである。もう4年以上前の両名ともがブレイク前の作品だが、小生好みが詰まった思い出の作品なのである。








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