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『リバー、流れないでよ』 [上映中飲食禁止]

[かわいい]真夏の清涼剤的コメディ[かわいい]

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京都・貴船にある老舗料理旅館「ふじや」。仲居のミコト(藤谷理子)は、別館裏の貴船川のほとりに佇んでいたところを女将に呼ばれて仕事に向かうが、2分前にいた貴船川のほとりに戻ってしまう。ミコト以外の番頭、仲居、料理人、宿泊客たちも、2分間のタイムリープを実感しており、協力して原因を突き止めようとする中、貴船一帯に異変が生じ始める。ミコトはある思いを抱えながら、そんな状況を眺めていた。(シネマトゥデイより)

小説・映画・漫画を問わず、タイムトラベルを題材にした作品は膨大であり、SFの王道と言えるかも知れない。複雑なプロットを下敷きにし一時も目を離せない衝撃作から笑い転げながら想定外の展開を楽しむ娯楽作まで、傑作も推挙にいとまが無い。本作は、京都を中心に活動する劇団「ヨーロッパ企画」が団員中心に手作り感満載で完成させたSFコメディの佳作だ。小生お気に入りのヒット映画『サマータイムマシン・ブルース(2005年)』は、当劇団で上演された戯曲がオリジナルであり、原作・脚本は主宰者・上田誠の手に拠るものだった。同じタイムマシンものだが、自然と期待が膨らむ。

舞台は京都・貴船の料理旅館「ふじや」だ。遥か昔の関西転勤時に、鴨川下流沿いの料亭でどんちゃん騒ぎをしたが、蒸し暑い上に虫が多くて堪らなかった記憶がある。これが貴船川上流だと別世界の涼しさで、街中の暑さを逃れて貴船の川床料理でひっそりと舌鼓を打ちながら涼をとるのが、真の京都人の愉しみだと地元の方に言われ、浅はかな東京人は苦笑いするしか無かった。さて本作では季節は冬の初め、雪舞う貴船が閑散とする時期が設定される。

[るんるん]ウフフの夏の光景[るんるん](ふじやのHPから)
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貴船神社参道入口に佇む「ふじや」の仲居ミコト(藤谷理子)が、仕事の合間に貴船川の畔で水の流れを見つめた直後に事件が起きる。仕事場に戻り番頭(永野宗則)と共にお膳の片付けをしていたところ、突然に川の畔に立っている自分に気づく。再度、客間に向かい番頭と首を傾げ「デジャブ?予知夢?」言いながら片付けを続けると...また川の畔に戻っている。どうやら2分程経過すると時間が巻き戻り、それが何度も繰り返されているようなのだ[exclamation&question]

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映画初主演の藤谷理子がいい味を出している。パニックに陥っても不思議ではない奇怪な事件に遭遇するが、喚き散らさずどこかおっとりと行動する天然系演技が新鮮だ。周りのドタバタ劇をよそにマイペースな姿が逆に笑いを呼び込むコメディアンヌの才能十分と見た。とにかく「目の演技」が素晴らしい[かわいい]仲居姿が妙に似合っていると思ったが、舞台となった「ふじや」は江戸時代創業の実在する料理旅館であり、彼女の実家でもあるのだ。この配役・設定が自然と手作り感を増幅させているのかも知れない。

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この謎の「2分間タイムループ」は、旅館の従業員、宿泊客全員に起きている事が判明する。しかもこの現象は世界規模ではなく、貴船地域に限定されているらしい。事態を理解し始めた関係者は、当初の混乱から徐々に解決に向けて協力体制を組んで行く。この過程が本作の肝であり、軽妙なヒューマンコメディたる所以だ。序盤は、タイムループに翻弄される皆の姿を2分間のショートコントの如く描き、会場の笑いを誘う。だが永遠に繰り返される時間に疲れ果てお互いが疑心暗鬼になり、人間関係が険悪になるのが中盤だ。

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表面上は良好な関係だった人々が、切羽詰まった状態の中で本音が洩れ始め、お互いを責め立て衝突して行く事態に陥る。後半から、そんな軋轢を通してお互いの本心を吐露し合った彼らは自然に以前より強い関係を築いていく。コメディタッチからシリアスモードへのスイッチが実に自然で、脚本の秀逸さと舞台で鍛え上げた役者陣の好演に拠る所が大であろう。手持ちカメラの長回しが程よい緊張感を生み出す。
ミコトと料理人見習いのタクも、お互いに隠し通していた想いを語り合う。同時に、タイムループの原因がミコト自身にあることを確信した二人は脱出を試みるが、2分間の壁と予想外の事態が連発して...

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数多のタイムトラベル作品の中でも(1ターン最小時間×最大回数)記録を更新したであろう異色作だ[ダッシュ(走り出すさま)]頻繁に繰り返されるドタバタ劇の過程に人間関係の機微の変化を流し込む、まるで川の流れのような自然な演出が見事だ。そして、唐突に乃木坂アイドルを登場させて安っぽい大団円を迎える低予算B級映画の王道的スタンスが小気味よい[あせあせ(飛び散る汗)]

京都人は本音を話さずに間接的に気持ちを伝えると云われる。若い頃、京都で2年ほど仕事した経験から私もその意味が分かる気がする。「ぶぶ漬けでもどうどす?」は、人間関係を壊さぬ為に、あえて遠回しに表現する京都人の粋なのだ。それを理解しない者は「野暮なお人」に成り下がる。(当時、江戸っ子の小生は何度か成り下がってしまいましたが...[ふらふら]

京都人チーム製作の本作は、地元京都の伝統をぶち壊す自己否定的な意味合いを含んでいるように思われる。「本音で話さなわからんわ」を痛切に訴えているのだ。そういえば、登場人物は京都弁を話していない。京都で活動する「ヨーロッパ企画」なるふざけた名称の劇団に栄光あれ[exclamation×2]真冬の貴船の寒々しさと人々の温もりが混ざり合って、丁度良い涼しさを感じる、今の季節にぴったりの作品だった[ぴかぴか(新しい)]







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hagemaizo

「きふね」と読んででいました「きぶね」と言っていますね、何だかとほほな気分。
by hagemaizo (2023-08-02 06:02) 

つむじかぜ

> hagemaizo 様
茨城を「いばらぎ」と言っていた関東人は私です^^;
by つむじかぜ (2023-08-04 02:41)