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飯倉片町から乃木坂へ [寫眞歳時記]

何歳になっても『限定モノ』には弱いのである。
定食屋での「限定10食」に飛びつき、好きなアーチストの同じCDが並んでいても「限定盤」を買ってしまう。仏像の「特別開帳」情報を知れば行ける限り足を運ぶ。

本日は2カ所の限定モノとレトロ建築巡りを兼ねて港区にやって来た。

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飯倉片町の交差点近くには1960年創業のイタリアンレストラアン「キャンティ」が在る。60年以上に亘り多くの著名人の舌を喜ばせ、文化人の社交場としても伝説的存在となった店だ。改装は何度も施されたが、躯体そのものは当時のままである。流石に敷居が高過ぎて未来店だが、お手軽な1Fのカフェなら伺いたいと思いつつ、本日の目的は此処では無い。「キャンティ」を横目に脇道に逸れ住宅地に向かう。

奥の路地に忽然とタイムスリップしたような洋風の住宅が現れる。

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『和朗フラット』という木造賃貸アパートで、昭和10年から13年かけて7棟が建てられ、現在も3棟が現存している。白い漆喰の壁にハイカラな木製ドア、幾何学的な窓枠...いつしかスペイン村と呼ばれたアパート群は90年近い時を経ても絶賛入居者募集中である[exclamation×2]

今日のお目当ては4号棟で営業するカフェ「ひなぎくきつね」だ。月に3日間しか開店しないクラシック菓子の隠れた銘店で本日が本年最終営業日なのだ。どの部屋なのか見分けがつかず、真ん中のアンティークショップで場所を聞く。一番右の部屋を恐る恐る訪ねると、薄暗い狭いフロアに4つのテーブル席が置かれた喫茶店だった。物腰の柔らかいマダムと思しきエレガントな初老の女性が現れる。女性3人組の先客が談笑していたが、喫茶タイムはすでに終了したと云う。菓子のテイクアウトをお願いすると、残り僅かなパウンドケーキの種類を丁寧に説明して頂いた。

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「山ガール」「緑と紅ルバーブのドイッチェ」というケーキを2個づつ持ち帰る事にする。帰り際にマダムから「良いお年を」と声を掛けられ何だか気持ちが温かくなる。素敵な方だ、この菓子も絶対に美味いに違いない。

この麻布台の一角は、超高層ビルが立ち並ぶ狭間でひっそりと時間が止まったように穏やかな時間が流れる不思議な住宅地だ。和朗フラットを含めたこのエリアの賃貸物件が多くの若者達に人気なのも理解できる。

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飯倉片町を跡にし次に乃木坂に向かう...

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桜の隠れた名所として個人的にお気に入りの「乃木神社」だ。明治期の軍神と崇められた乃木希典を祀った社に隣接して乃木夫妻が暮らした邸宅が現存されている。邸宅内部は原則非公開だが、年に8日間ほど一般公開され、本日が今年度の最後の日程なのだ。実は飯倉に向かう前に整理予約券を受け取り、夕方に戻って来たのである。

乃木大将自らが設計した和洋折衷の質素な邸宅である。地下1階部分の壁は白い大谷石、1、2階は黒の木材で作られて一見豪華な山小屋のようだ。内部は乃木夫婦の100年前の生活が窺い知れるようあまり手を加えず保存されているようだ。明治天皇崩御の際に夫婦で殉死した部屋もそのまま残されており、自刃した時の衣服が展示されていた。

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有名な203高地の攻防戦の司令官であった乃木は、後に日露戦争勝利の立役者に祀り上げられるが、自分の息子を含めて多くの犠牲者を出した戦いに戦後は悔恨の念を抱き続けたと伝わる。乃木大将の神格化の是非や当時の世相を述べるつもりは毛頭無い。ただ、国に、天皇に、殉じた精神が日本国中で讃えられた時代から未だ100年しか経っていない現実を噛みしめるのみだ。

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帰宅して、カミさんと娘夫婦で絶品スポンジケーキを戴く。一流パティシエの手による洋菓子とは対照的な自然な味わいに全員が目を丸くする。皆の脇では予定日より20日早く生まれた生後一週間の孫娘が寝息を立てている。TVではガザとウクライナの戦争の映像が繰り返し流れていた。憎しみの連鎖ではなく幸せの継承をと願う。

 



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