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『デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム』 [上映中飲食禁止]


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20世紀のロック・ヒーロー「デヴィッド・ボウイ」の軌跡を本人所蔵の大量のアーカイブから編集した魅惑のドキュメンタリーだ。生前のインタビュー、ライブ映像の合間に時代ごとに象徴される写真・ビデオをモンタージュで押し込み、徹頭徹尾、ボウイの世界観を描き尽くしている。

若い子が観れば、時代遅れの音楽とサイケな映像に振り回されるだけの2時間だろう。映画レビューというより、そんな知られざる偉大なヒーロー・ボウイへの個人的な思い出を綴る。

ロックに目覚めた中学生時代に彼の音楽にも触れたので、40年以上の付き合いだった。だが、病み付きになったのは、のべで5年間位なのである。それほどボウイは年代によって音楽性も主張も変化するアーチストだった。今思えば、彼の本質を理解しないまま音楽のスタイルで好き嫌いを決めていた私の浅はかさゆえかも知れないのだが...故に私の好きなボウイは大きく三つの時代に絞られてしまうのだ。
 
既にグラムロックの寵児として人気を博していた1970年代前半、5枚目のアルバム『ジギー・スターダスト』のLPにハマった。変幻自在のボウイのヴォーカルが胸に刺さり、チープ感漂うギターサウンドが心地良い。地球にやって来た火星人がロックスターになるというコンセプトアルバムであり、コンサートも宇宙人になりきったボウイの奇抜なファッション・衣装が話題となった。



だが、ドラッグ漬けの「わたし、暗いんです」的なサイケな風潮より、Led Zepplinなどの骨太ロックかGnesis、King Crimsonのプログレに私の興味は大きく傾いて行き、暫くボウイから遠ざかった。再度、彼に出会うのは1977年の『ロウ』だ。薬物中毒からの脱却の為にベルリンを活動拠点に変えたボウイは、前衛音楽家ブライアン・イーノと組んで実験的なアルバムを作り上げた。初めてFMラジオで聴いた時はぶっ飛んだ。何しろ大半がインストルメンタル曲で歌がほとんど無い。まさに当時ハマっていたプログレの香りに溢れていた。続け様に2作を発表し後に「ベルリン3部作」と呼ばれた作品群は、興行的には成功しなかったが、ボウイの美学が卓越した演奏家達によって具現化された欧州ロックの新しい風となった。『”Heros”』『Lodger』にはイーノに加えてギタリストにロバート・フリップ師匠とエイドリアン・ブリューまでもが参加し、まさにKing Crimson信者の小生にとって夢みたいな作品だった。



アメリカに活動拠点を戻してからの80年代以降の彼の活躍は目覚ましかった。マニア向きのロック・アイドルから脱却し、正真正銘のロック・スターへの道を突き進む。『レッツ・ダンス』が世界的に大ヒットし、映画『戦場のメリークリスマス』で役者としての評価も高まる。拗ねた了見の小生は、大衆受けすればするほど気持ちが離れ、音楽の趣向自体もJAZZ系に流れた時期でもあって、彼の活躍への興味も薄れてしまった。それからの約20年間、ボウイは数々の名声をほしいままに活躍したが、体調を崩した2004年以降は一切の活動の舞台から姿を消し、実質的な引退状態となった。

ところが、2013年に突如10年ぶりのNewアルバムを発表する。音楽業界に衝撃が走ったが、私は「66歳での新作は厳しいだろうな」と懐疑的だった。だが昔、惚れた女に敬意を表するべくアルバムは購入してみた。そして「以前の輝きを失った様には触れたくない」と思いつつ聴いた音楽に言葉を失い、魂が揺さぶられた。



『THE NEXT DAY』彼の半世紀に及ぶ活動の集大成とも言うべき練りに練り込まれた作品群。老いる自分と真正面から対峙しつつ創り上げられた音楽は、歓びに溢れ若き蒼き生命力に漲る。MVに映し出されたボウイの深い皺が刻まれた表情には、何の迷いもなく更に音楽の高みに駆け上がろうとする気迫に満ちる。既に発売から10年が経過するが、私は今でもこのアルバムを聞いてパワーをもらっている。2016年1月に次作『Blackstar』をリリースした2日後に、世紀のロック・ヒーローは69歳の生涯を閉じた

時代によってファッション、哲学、音楽性をカメレオンの如く変遷させるが、それはアーチストとしてのボウイの表現方法の違いであり、決して素の姿を見せることは無かった。デヴィッド・ボウイは常に演じ続けていたと、このドキュメンタリーは語る。私には晩年に近くなるほどに、自然体の彼を垣間見た気になるのだが、多分それも錯覚なのかも知れ得ない。稀代のパフォーマーの軌跡を十分に堪能させてもらった。

小生の一番好きな『LOW』に収められた1曲「Sound and Vision」。タイトなリズムにビートが効いたバランスが堪らないボウイ音楽の白眉だ。2002年のライブで、普段着に近いボウイの姿を見せてくれている気がする。




ジギー・スターダスト

ジギー・スターダスト

  • アーティスト: デヴィッド・ボウイ
  • 出版社/メーカー: ワーナーミュージック・ジャパン
  • 発売日: 2014/01/29
  • メディア: CD
ロウ <2017リマスター>

ロウ <2017リマスター>

  • アーティスト: デヴィッド・ボウイ
  • 出版社/メーカー: ワーナーミュージック・ジャパン
  • 発売日: 2018/02/23
  • メディア: CD
ザ・ネクスト・デイ デラックス・エディション(完全生産限定盤)

ザ・ネクスト・デイ デラックス・エディション(完全生産限定盤)

  • アーティスト: デヴィッド・ボウイ
  • 出版社/メーカー: SMJ
  • 発売日: 2013/03/13
  • メディア: CD

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