昼下がりの「赤坂」を歩く② [寫眞歳時記]
草月会館から青山通りに沿って500メートルほど東へ歩くと独特なフォルムの建物に遭遇する。虎屋・赤坂店だ。渋谷の再開発プロジェクトを先導した巨匠・内藤廣の設計により、2018年に竣工、リニューアルオープンした。
昭和生まれの関東人にとって「虎屋の羊羹」は高級手土産の定番というか鉄板だった。保存性も栄養価も高い老舗の煉羊羹は値段が高価なゆえに大事なお客様に渡す土産としての地位を築いた。煉羊羹の詰め合わせのズシリとした重みは、重厚長大がもてはやされた時代には、気遣いを示す贈り主のたしなみとされていたのだ。それが今では、手が痺れるような引出物を使いでもしたら主催者側の見識が疑われる時代になった。創業480年の『虎屋』は伝統を守りつつ、時代の流れに翻弄されながらも最新の消費者目線を失わない和菓子メーカーだ。そんな姿勢が、本社機能も有する旗艦店舗である赤坂店のリニューアルにも表れていると思う。
赤坂店は2階が売店、3階が喫茶、地下1階がギャラリーから成る低層階の建物だ。全館を通して、木の温もりを感じさせる内装に統一されている。2021年に竣工した「紀尾井清堂」に通じる内藤廣の面目躍如たる設計だ。1964年に竣工した以前の店舗は9階建ての高層建築で「行燈ビル」と呼ばれ、赤坂のランドマーク的に存在になったが、この新店舗も青山通り沿いの多くのビルの中でも独特の存在感を放っている。
売店を覗けば、重厚な伝統の煉羊羹から一口サイズのミニ羊羹、色鮮やかな季節限定羊羹、若者に映えそうな美しい生菓子が美術品のように陳列されている。喫茶は光を大きく取り込み、赤坂御陵の緑が一望できるカウンターが備えられている。
喫茶が若干混雑しており番号券だけ受け取り、先にギャラリーに行って時間を潰すことにする。とにかく階段の曲線が美しくて歩いているだけで楽しくなる。
小さなギャラリーだが、和菓子に関する企画展が常時開催されており、現在は「家紋と和菓子のデザイン展」が催されていた。頃合いを見て「虎屋茶寮」に戻ればタイミング良く席に案内された。先ほど、あんバタサンドを食べたばかりだが、今度は和菓子で別腹と自分に納得させる
季節限定「よもぎ餅」を注文。仄かな春山の香りと虎屋熟練の餡のハーモニーは、日本人で良かったと思わせてくれる。青山通りを挟んだ赤坂御陵の緑を眺めながら、煎茶の爽やかな風味が鼻腔を抜ける。一階受付の非常に目配りの利くお姐様にお礼を言って虎屋を後にする。顧客目線を失わず進化し続ける老舗の醍醐味を体感させてもらった。表に出れば、隣の麻布警察署の満開の桜が虎屋ビルを一層際立たせていた
青山通りの対面へ渡ると「豊川稲荷東京別院」だ。江戸時代に大岡越前が深く信仰されたと伝わる。愛知県の豊川稲荷は名古屋転勤時代にお参りした事がある。今回奇しくも10年ぶりに中部地区での仕事となったので、商売繁盛・家内安全を祈願してきた。