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『星屑の町』 [上映中飲食禁止]

この週末の首都圏は、大手シネコンまでも閉館となり、映画業界にとってはまさにTOHOHOシネマ状態である。密林プライムでも映画は観られるが、大スクリーン週末深夜映画派の小生にとっては、寂しい限りである。

コロナ禍渦巻く以前に鑑賞した中での絶品映画はこれだ[ぴかぴか(新しい)]

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元レコード会社社員の山田修(小宮孝泰)がリーダーを務める、市村敏樹(ラサール石井)や天野真吾(大平サブロー)といったクセ者ばかりのコーラスグループ「山田修とハローナイツ」は、ベテラン歌手のキティ岩城(戸田恵子)らと地方巡業を続けていて、山田の故郷である東北の田舎町で公演を行う。ある日、山田の弟・英二(菅原大吉)の息子の幼なじみで、歌手を夢見る愛(のん)という女性がグループに入れてほしいと頼みにくる。(シネマトゥデイより)

25年前に結成されたユニット「星屑の会」の人気舞台を、ヒロイン役に「のん」を迎えての映画化。曲者爺さん達と天才女優の取り合わせは、世代ギャップと時代を超えた歌の力を見事に浮き彫りにし、昭和期に青春を過ごした小生のみならず、多くの日本人の胸を無性に温かく掻き毟ってくれる傑作に仕立て上げた。

結成当時と変わらぬメンバーを見渡せば、「生きてたんだ!まだ演ってたの!」という80年代お笑いブームの生き残りと個性的な脇役で邦画には欠かせないベテラン男優達だ。そして共通して感じることは、「皆、年食ったな」であり、それはそのまま自分自身に跳ね返る。「太平サブロー・シロー」や「コント赤信号」の残像がよぎり(シローと渡辺は何処行った!)、園子温映画ではおなじみの渡辺哲・でんでんの抑えた怪演、最近はTVドラマのチョイ役ばかりの有薗芳記の暴発。この6名編隊(変態)に、往年の人気歌手の設定で戸田恵子が絡めば、完全無敵の壮年パワー全開なのである。これに敢然と立ち向かうのが「あまちゃん」能年玲奈→「のん」である。
純粋素朴で不器用だが強い意志としたたかさを兼ね備えた女性の多面性を見事に演じ、壮年パワーとがっぷり四つに組んだ[exclamation×2]


全キャスト吹き替え無しの歌声を披露(録音は後入れのようだが)するのだが、のんの清楚かつ力強い声質と爺爺軍団の妙に優しいコーラスの組み合わせが、笑いを誘いつつ心地よい。そして、乙女のバックで歌う彼ら個々の表情の演技の凄さ。昭和歌謡の持つ生命力を、歌唱に関してはアマチュアの彼らが、存分に引き出していく。同時に、昭和という時代の温もり・野暮ったさ・迸る情熱の温度感を、この老若の名優がスクリーンいっぱいに表現するのだ。

「あまちゃん」ファンなら、彼女の東北弁だけでも感涙モノの、女優「のん」の銀幕復活劇(声優での「この世界の片隅に」も凄かったが)として話題になりがちだが、作品自体のクオリティが抜群なのだ。ストーリー自体は、ありきたりでも、演出・カメラワーク・美術・音楽すべてが、「昭和」を自然と浮き彫りにしてしまう凄技。まさに昭和の生き残りのプロ達が作り上げた令和の映画なのだ。

壮年期にさしかかる者達の生き様と悔恨、生涯を賭けた仕事と仲間との絆に、小生は笑い転げながらも、胸が熱くなった。隣でほっこりとしている女房を見やりながら「くされ縁こそ生涯の絆」などと感慨に耽ったりしてみる...



懐かしの昭和の名曲カバーが中心だが、今映画のオリジナル「シャボン玉」や「MISS YOU」(サブロー・のんデュット版)も、時代スリップ感が楽しい名曲だ。その中で、戸田恵子が歌う「強がり」は、プロの歌として一際輝いていた。(彼女だけは生録音ぽい)いい詩だ。

上映館も限られている上に、昨今の騒動により、観賞機会が厳しい作品だが、多くの方に観て欲しい。
こんな時だからこそ、「大事なモノ」を気づかせてくれるかも知れない。

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