魅惑の神田須田町を歩く① [寫眞歳時記]
千代田区神田の一角には、東京大空襲での被災から奇跡的に免れ、往時の風貌を残す建物が散在しているエリアがある。更にそんな建物に混ざって多くの老舗飲食店が昔ながらの商売を守っている。昔「連雀町」、現在の神田須田町は、戦前の東京の姿が今でも垣間見れる数少ない地域なのだ。大正時代に流行ったモダンボーイの気分になっての食べ歩きはなかなか乙なものである
『アナンダ工房』は、昭和3年築のカステラ店をリノベしたブティク。インド生地を使った服を扱っており、オリエンタルな壁面の装飾と不思議と調和している。休日はシャッターを下ろすが、洒落たペイントが現オーナーのセンスの良さを物語る。
目と鼻の先に在るのが『山本歯科院』。明治39年創業の3代続く現役の歯医者さんで、現在の建物は昭和2年竣工だそうだ。白い窓枠と菱形のタイルが、当時はいかにモダンであったかが窺える。
靖国通りに向かうと美味い蕎麦屋がある。『まつや』は明治17年創業の老舗だ。昔、秋葉原の電気街でのバイト帰りによく通った。喉越しの良い麺と辛めの汁が私好みかつ値段も良心的。地元の古い蕎麦屋という気楽な印象の店だったが、れっきとした老舗と知ったのは最近だ。大正14年の関東大震災直後に建てられた店舗は今も健在で、内装も当時の雰囲気を損なわない造りになっている。下町グルメブームで最近は混みすぎなのが少々玉に瑕。偶然に並ばずに入れた日には、「もり」と「かけ」の冷熱1杯づつ攻撃だ(今日は「たぬきだそば」だけど...この麩がいいなぁ)
気づかず通り過ぎてしまうのだが、此処も紛れもなく看板建築だ。欧風調に外壁が塗り替えられているが、左が美容院、右が洋風バルである。今も昔もセンスのある人は時代を越える
アナンダ工房の通りに戻り南に進むと、そこはさしずめ戦前の食堂街となる。
鳥すきやきの銘店『ぼたん』は明治30年創業。バブルの頃、人形町の「玉ひで」と共によく接待で使った覚えがあるが、今の歳になってこそプライベートで伺いたい。現在の建物は昭和4年に竣工されたもので、内装含めて戦前の香りが残る。
お隣には東京随一のあんこう料理専門店『いせ源』が在る。由来は江戸末期の天保元年のどじょう鍋店で、大正期にあんこう専門店に衣替えしたと云う。あんこう鍋のメッカである茨城県大洗では、味噌仕立てや「どぶ汁」と呼ばれる水を使わないコッテリ鍋が主流だが、いせ源は江戸前らしい醤油ベースのさっぱり味だ。凍える冬の夜に、昭和5年竣工の木肌感じる店舗で食す熱々鍋は絶品だあん肝食い過ぎ痛風警報発令じゃ