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丸五(とんかつ・秋葉原) [江戸グルメ応援歌]

ほぼ5年ぶりに食ってきた。

40年ほど昔からの馴染みの店なのだが、知らぬ間に「みしゅらん」の常連になっていて、会社帰りに立ち寄れば、いつも長蛇の列。並ぶことを良しとしない短気な小生は、自然、足が遠のく事となった。先月の末頃、降りしきる小雨とコロナ騒動のおかげ?で、ほぼ待たずに入店成功。何年経とうが、舌は憶えている。此処のとんかつは、小生にとってはかけがえのない味の記憶なのである。

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学生時代、毎週末に秋葉原の電気屋さんでアルバイトを3年間していた。

その電気屋に勤めて1年後の給料日のランチタイム、前から気になっていた、いかにも敷居が高そうな『とんかつ専門店』に思い切って入ってみた。実は、小生はその時まで、『とんかつ』なるものを、自宅以外で食した事が無かった。家食好きの父の影響もあってか、揚げ物系は全て母が調理するか、近くの肉屋で買うのが常だったのだ。

初めて訪れたとんかつ専門店は、思ったよりも狭く、調理場と正対したカウンターと二人掛けのテーブルが二つほど。恐る恐るカウンターに座り、ロースかつ定食を注文すると、香り高いほうじ茶とスポーツ新聞が自然と差し出された。なんだか気分がいい。すれ違うもの苦労しそうな狭い調理場では、4人ほどの料理人が黙々と調理をしている。生の豚肉を切り分ける人、衣をつけ揚げる人、皿に盛り付けする人、ご飯・味噌汁などを給仕する人・・・完全分業制のようだ。その彼らの仕事ぶりを、腕組みをした強面の男が、調理場の隅からじっと見つめている。その威厳からどう見ても「大将」と思われた。誰一人、言葉を発しない張り詰めた雰囲気に、若輩者の小生でも「プロの真剣勝負」が感じられ、心地良かった。

運ばれてきたロースかつ定食は、まさに異次元の代物だった。常食としていたトンカツの3倍の厚みと眩ゆいばかりの衣の輝き。自家製と思しき濃厚ソースをぶっかけ、一切れを頬張れば、未体験の柔らかい歯ごたえと共に、肉汁の旨みとソースの甘み、衣の香ばしさが口中に広がっていく。特に、脂身が、いとも簡単にとろけて、五感を痺れさせるなど信じられなかった。今までは、脂身とは、いつまでも噛み切れず、最後に飲み込むモノと思っていたから。自然、ご飯が進む。米も美味い。そして、また味噌汁がとんでもなかった。豚肉の風味に負けない、濃いめの赤だしから、鰹の香りが鼻腔をくすぐる。あっという間に、ご飯お代わりして完食。食後を見計らって、ジャスミンティーが供される。生まれて初めて「もてなされた外食」を味わったひと時だった。つむじ風20歳の食の思い出である。

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社会人になっても定期的に通った。
店内は改装され、10年ほど前には2代目の大将となったが、味も雰囲気もサービスも全く変わりがない。
変わった点といえば、小生の定番がロース定食から特ロース定食へと昇格し、自家製ソース樽の隣に岩塩が置かれた位か。

久しぶりの絶品に満足し、箸を置くと、初めて2代目大将が声をかけてきた。
「お久しぶりですね」 小生を覚えていたようだ。
「最近、混みすぎだからね。でも、40年前と変わらず、美味いね」
「そんな昔から来て頂いているんですね。私が入る前からですね。ありがとうございます」
「あの頃は、先代が睨んでて、みんなシーンとして黙々と仕事してたよね。気持ちいいくらいに」
「親父、怖かったですからね、私語禁止でした。震災の年に引退したけど、今日も昼間に顔出しましたよ」
「お元気なんですか?」
「はい、確か80歳だと思いますが」
「また空いてる雨の日でも来ますよ、ごちそうさまでした」
こんなやり取りをしながら、店を後にした。

加齢と共に、大好きな油物も徐々にシンドくなってきている。
肉系の食事は、赤身、ヒレカツを頼む頻度も増えてきている。
だが、この店でだけは、ロースかつを喰い続けるつもりだ。
このお店が在る限り、小生の歯が在る限りは、生涯、そうありたいと思うのである。

昨日、ぶらりと寄ってみたが、「営業自粛」の張り紙が...
暫く充電していて下さい。また、来ます[ぴかぴか(新しい)]




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