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初めての電子書籍 『宇江佐真理』 [偏愛カタルシス]

ついに電子書籍なるものを購入した。


自粛期間中、ノンビリ読むつもりで1円中古本を何冊か注文したのだが、ほとんどが読めなかった。安い中古は当然ながら発売年が古く、字が小さ過ぎるのだ。特に20世紀モノに関しては、小生の老眼では、開いて1頁目で戦意喪失となる。結局、安物買いの銭失いだ。

老眼鏡使用は、仕事中だけにしたいワガママ爺いは悩んだ。

①字が大きくても、鞄に収まりやすい文庫本サイズである
②気になる文言・熟語には付箋を貼りたい
③本棚が溢れて、女房に文句を言われる事態を避ける

この条件では、もうデジタル本しかないでは無いか。「新聞書籍は、絶対カミ!指でページをめくって、初めて内容が頭に入るのだ」という思い込みを捨て去るに迷いは無かった。
買ってしまいました。字のサイズも画面の明るさも自由に調節できるので、想像以上に読み易い。気になる語句は登録出来るし、辞書内蔵なので、難語も即、理解可能だ。そして軽い。もっと早く、拘りを捨てるべきだった!
3ヶ月読み放題が付いていたので、無料で読める小説を探す。
記念すべき電子書籍1冊目[かわいい]

夕映え 上 (角川文庫)

夕映え 上 (角川文庫)

  • 作者: 宇江佐 真理
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2014/04/08
  • メディア: Kindle版
夕映え 下 (角川文庫)

夕映え 下 (角川文庫)

  • 作者: 宇江佐 真理
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2014/04/08
  • メディア: Kindle版
昨年、本社で閑職を貪っておる間に、「江戸文化歴史検定2級」なるモノに挑戦した。仕事に役立つ資格を受けない処が、小生たる所以なのだが、久しぶりに受験生気分を味わって新鮮だった。3ヶ月間、二日と開けずに図書館に通って自習した。この「江戸検」とは、完全に歴史オタク専用レベルであり、当初は3級問題でも正答率5割の爺いが、いきなり2級挑戦は無謀かと思われたが、萎縮中の脳みそでも使ううちに覚醒するらしい。試験前日の山ハリも功を奏し、なんとか合格出来た。

星の数ほどある「検定試験」の中で江戸検を選んだのは、江戸っ子のくせに、東京の歴史を知らない自分が歯痒かったに他ならない。この受験勉強以来、純文学かミステリーが主体だった読書嗜好が、いきなり歴史小説になった。しかも、江戸時代限定なのだ。

本作は、厳密に言えば「時代小説」である。区分は曖昧だが、「歴史小説」は史実を元にした厳格なストーリーが主体であり、「時代小説」は、設定そのものは事実でも、架空の登場人物によるフィクションの要素が強いと思われる。NHKテレビで言えば大河ドラマ「麒麟がくる」と時代ドラマ「雲霧仁左衛門」の差かな。

舞台は江戸時代末期の下町・本所。居酒屋の女将「おあき」と元松前藩士で岡っ引きの亭主「弘蔵」の物語である。二人の子供の幸せを願い、つつましく暮らす熟年夫婦が、余所事と思われていた維新の波に次第に翻弄されていく。夫婦と二人を取り囲む居酒屋の常連客達が、庶民の視線で当時の社会情勢を刻々と綴っていくのだが、TVドラマで頻繁に取り上げられる幕末動乱の物語が、薩長連合でも徳川幕府側の「武士」でもなく、江戸に暮らす市井の人々の立場から公正に描かれており、非常に興味深い。江戸城無血開城後、夫婦の悩みの種だった放蕩息子が幕府側の彰義隊に志願した事から、物語は一気に緊迫度を増して行く。歴史的史実を正確に記しながら、国家の一大事が、庶民の実生活に暗い影を落として行く描写のバランスが巧みだ。さらに主人公・おあきの母として妻としての想いに随所で胸を締め付けられるのは、まさしく、この女流作家の筆力の高さと感性の柔らかさに拠るものと思われる。
「落ち着いたいい世の中にして欲しいと誰に訴えたらいいのだろう」いつの時代でも為政者達の権力闘争に翻弄される庶民の姿を、学もなくおでん作りが得意なだけのおあきが代弁するのだ。普遍の家族愛を謳った時代小説の傑作である。

実は、宇江佐真理の小説は2冊目である。昨秋、江戸時代モノという理由と題名に何となく惹かれて読んだのだが、大当たりだった。

雷桜 (角川文庫)

雷桜 (角川文庫)

  • 作者: 宇江佐 真理
  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2004/02/25
  • メディア: 文庫
美しすぎる時代小説と敢えて言おう。
岡田将生×蒼井優のキャスティングで2010年に映画化されていたのを知ったのは後日だったが、実写化したくなるのも頷ける内容だ。
徳川11代将軍・家斉時代の設定。江戸から遠く離れた小藩同士の争いに巻き込まれ、或る庄屋の娘が何者かに誘拐され、行方不明となる事件に端を発したミステリー&ロマンス小説だ。と言っても、決して奇を衒わず、時代背景を濃密に記しながら、妹を想う兄を通して数奇な女性の生き様を描いた秀作だ。

筆者は、直木賞に6度ノミネートされたが受賞叶わず、すでに5年前に鬼籍に入っている。「髪結い伊佐次シリーズ」などで
熱烈なファンは多いようだが、表舞台に立つことは無かった女流作家だ。歴史小説に興味の無かった頃の小生には、縁遠い存在であったが、この2作で、宇江佐ワールドの虜になってしまった。もう新作に出会えないのは残念だが、過去作品をしばらく追いかけてみたい。

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