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『松濤美術館』と周辺を歩く① [寫眞歳時記]

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うだるような暑さの中、カミさんと松濤美術館の「私たちは何者?ボーダレス・ドールズ」展へ。松濤は渋谷の繁華街に程近いにも拘らず、人影もまばらな閑静な場所である。都内でも屈指の高級住宅地と云われ、広大な敷地に博物館かレストランに見紛う邸宅が立ち並ぶ。一流の建築家の手による建物も多く、土地代と建設費を想像しただけで目が眩んでしまう。ここまで桁違いのレベルを見せつけられては羨望も憧れを吹き飛んで、純粋に芸術品レベルの建築物を楽しめる街なのである。美術館鑑賞と共に松濤の町をそぞろ歩いてみる。

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渋谷区立松濤美術館はエントランスから圧倒される。戦前から活躍し「哲人建築家」と称された
白井晟一の手により1980年に竣工された。彼の現存する作品は少なく、都内で目にする事ができる貴重な建築でもある。一つの窓も無い薄いピンクの花崗岩の外壁が緩やかに凹み、銅板と垂木の半円状の屋根が迫り出している。アーチ状の入口に足を踏む入れれば、鮮やかなオニキスの光天井が迎えてくれる。

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地上2階・地下2階の館内中央は丸い吹き抜け構造になっており、1階の渡り廊下に出れば、上は抜けるような青空、下は噴水池が清々しく涼を摂ってくれた。

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展覧会は、日本の人形の歴史を芸術の枠にとらわれず網羅した内容だ。
人形(ニンギョウ)=ヒトガタと呼ばれる由縁は、そこに人間の魂が宿るからだ。展示には平安時代の呪具として使われたものから子供の成長に願いを込めた雛人形や五月人形が並ぶ。江戸期頃から美的な造形物として「彫刻」の概念が始まり、それらは「芸術」の域に向かうが、依然「人形」の価値観が変わる事は無かった。昭和に入り「人形芸術運動」の高まりと共に、庶民の愛玩の対象物から超絶技巧の美術品まで混沌とした時代に突入し、今やフィギュアの進化が市民権を得るなど、まさにボーダーレスな分野になった。

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思わず笑みが溢れる愛らしい姿や身の毛もよだつリアルな生人形、最近のフィギュアブームに繋がる原型などが目白押しで、非常に見応えのある展示だった。満足して出口に向かう途中の小部屋に「18歳未満鑑賞禁止」の貼り紙が...女房連れにて少々の不安があったが入室してみる。個人的には最大の衝撃[exclamation&question]ラブ・ドール』の部屋だった。昭和世代のスケベ爺いには「ダッチ・ワイフ」(死語だな[ダッシュ(走り出すさま)])と呼んだ方が馴染み深い。驚いたのは、中学生時代に成人雑誌の通信販売の欄で見かけた人形とは桁違いに精巧なのだ。まさにリアルな美少女以上に美少女なのだ。丁度、今読んでいる辻原登の小説がラブドールを題材にしており、主人公の想いと同期してしまった。至高の芸術品級のレベルに「う〜ん、これなら欲しい[揺れるハート]」共に還暦を越した夫婦とはいえ、真剣に見入る亭主の心情を悟られては困るので無表情を装う[たらーっ(汗)]

隠し女小春

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  • 作者: 辻原 登
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2022/05/11
  • メディア: 単行本
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今展示会のテーマでもある『芸術とは何?』を如実に表した「秘密の小部屋」を後にする。エレベーターを使わず、あえて階段を歩く。上階を見上げれば、白井晟一の手がけた美しい曲線に目を奪われた。これも芸術なのだ。

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周辺の散歩は次回に続きます。


 

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