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『エターナルズ』 [上映中飲食禁止]

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マーベル作品の「いかにもアメリカっぽい」外連味の無い明るさが好きで、特に単品ヒーロー物は観る機会が多い。初期の「アイアンマン」や「スパイダーマン」「マイティソー」は結構お気に入りだが、アベンジャーズシリーズとなると出演ヒーローが多過ぎて意味不明に陥ってしまう。本作はアベンジャーズと直接の関係は薄いが、大量のヒーロー・ヒロインが地球を救うあらすじでは酷似しており、普通なら素通りする作品だが、監督がクロエ・ジャロという点に惹かれ鑑賞してきた。昨年「ノマドランド」でアカデミー賞を受賞した中国の女流監督が、この大衆娯楽作をどう仕上げるかに興味は尽きるのだ。

ヒーローチームが不在となった地球で、人類の行動が新たな脅威を呼び起こしてしまう。そんな中、7,000年にもわたって宇宙的規模の脅威から人類を見守ってきたエターナルズと呼ばれる10人の守護者たちが、数千年の時を経て次々と姿を現す。散り散りになっていた彼らは、人類滅亡まで7日しかないと知って再結集する。(シネマトゥデイより)

まさに超娯楽作品。
アメリカ人がポッコーンを頬張りながら(小生は絶対に喰わないが)気軽に楽しめる内容だと感じた。創造主セレスティアルズによって生み出された10人の守護者が魅力的だ。宇宙種族と言いながら、人間の姿をした神である。人類学的に全員が出自が異なる民族で、使いこなす特殊能力も全て違う。それに合わせ出演俳優それぞれが、米英、中国、韓国、メキシコ、パキスタン出身であり、多人種の男女混合チームで形成されている。中にはゲイもいれば、聴覚障害者も含まれる。そしてこの7000年間、人類を救ってきたスーパーヒーロー達が、現代では一般の人間として静かに暮らしている設定である。どこかで聞いた様な話だな...昭和爺いは考える...『サイボーグ009』[exclamation&question]

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石ノ森章太郎先生がすでに約半世紀前に作り上げたプロットではないか[パンチ] 人種・性別・世代に捉われない多様性ある社会が求められる現代において世界標準からは遅れをとっていると言われる日本人が、遥か昔に劇画の中でダイバーシティをさり気なく受け入れているのだ。儒教の影響が強い我国は、男女の機能の差がそのまま男尊女卑の文化につながったのは事実だが、外国文化に関しては類稀なる許容度の高さを誇る島国であり、欧米諸国よりも「世界平等」を謳える素地を持っていると思う。

・・・とダイバーシティ論は置いて、なにはともあれアンジェリーナ・ジョリーである。本作の主人公セルシを演じるは中華系のジャンマ・チェンであり、ストーリーの鍵を握るイカリス役はスコットランド人のリチャード・マッテンだ。10人のスーパーヒーローのうち9人は、ほぼ無名に近い俳優陣で、事実、小生が知る者は最近観た「白頭山大噴火」のドン・リーだけだ。アベンジャーズ系映画の成功の一つは「あの名優がこんな役で出ている[がく~(落胆した顔)]」意外性と彼等の存在感であったと思う。本作の9人の俳優陣の演技に不足は無いのだが、肩の力を抜いたアンジーの一挙手一投足に9人がかりでも敵わない。ギリシャ神話の女神アテナを描いたと思われるこの神々しさは、華を持つトップスターでなければ醸し出せないのかもしれない。

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SFXが秀逸で、特に捕食者ディヴィアンツとの戦闘描写などは心踊る。彼等は地球人の外敵とは闘うが、人間同士の争いには関わらないルールを守り続ける。7000年の歴史の中で、人類が殺戮と搾取を繰り返しながら繁栄していく姿が随所に描かれていく。発明の神ファストスが、原爆投下により焼け野原と化した広島の町で呆然と立ち尽くす姿は特に印象的だった。10人の守護神達を極めて人間的に描き、それぞれが背負う宿命と人類への思いを掘り下げて行く。肌の色、ジェンダー、障害という人間の多様性を神に投射し、繁栄の先にある人類の破滅までをも示唆する非常に野心的な作品である。クロエ・ジャオ監督の少数民族にも優しい視線を向けるアジア的な感性も窺える。長尺156分ではあるが弛緩は無く、10人の守護神達に感情移入するのは時間が足らない位だ。この辺は、次回作やスピンオフ作品で深掘りされて行くに違いない。

ただ、小生は何でもかんでもシリーズ化していくマーベル商法には少々辟易しているのも事実なのだ。アイアンマン亡き後のアベンジャーズシリーズの後釜を狙っている節も見える。また、多様性を重んじる米国民主主義を標榜し過ぎる最近のハリウッド作品の傾向に『偽善』を感じるのは私だけではないだろう。一話完結でも、多くの登場人物に心奪われる『七人の侍』の様な完成度の高い社会風刺作品を望みたい。黒澤明レベルは容易ではないが。ゆえにこの次回作には食指は動かない。観るとしたら、セナ(アンジェリーナ・ジョリー)とギルガメッシュ(ドン・リー)の二人だけの悲恋のスピンオフ作品が製作されればかな。




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Labyrinth

公開直後に見ているのに、つむじかぜ さんのような深い洞察が出来ないままupしてしまいましたっ(大汗)
ところで、ずっとピンクの “クロエ・ジャロ” が気になっていて…! (汗)
お知らせする次第にございます… <(_ _)> 毎度 “重箱の隅” ですみません。
by Labyrinth (2021-11-27 00:56) 

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