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『アステロイド・シティ』 [上映中飲食禁止]

まさに「ウエス・アンダーソンすぎる」作品[exclamation&question]

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1955年、アメリカ南西部にある砂漠の街「アステロイド・シティ」。隕石(いんせき)が落下してできた巨大なクレーターで知られる街でジュニア宇宙科学大会が開催され、カメラマンのオーギー・スティーンベック(ジェイソン・シュワルツマン)の息子・ウッドロウをはじめ、科学賞を受賞した5人の優秀な子供たちとその家族が街を訪れる。大会が開かれるものの、突如宇宙人が到来して人々は大混乱に陥り、軍によって街は封鎖されてしまう。(シネマトゥデイより)

4月に天王洲アイルで観た「ウエス・アンダーソンすぎる風景展」https://tsumujikaze3.blog.ss-blog.jp/2023-04-22)が非常に好評だったらしく、今秋に渋谷でリバイバル開催の予定だ。展覧会の「ばえる写真」に触発されて、それ以外の予備知識無いまま今作を鑑賞したら、多くの方々は失望するか、頭にしこりを残したまま家路に着くであろう。それほどW・アンダーソンは変態であり、彼の脳味噌は常人離れしているのである。

『グランド・ブタペスト・ホテル」『犬が島』のような抑揚のあるストーリー展開や明確なメッセージは仕込まれていない。前作『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』に似た難解さで、各エピソードと時間軸がズレながらも絡み合う構成だ。進化し過ぎて観客を置いてけぼりにする芸術家の典型的なパターンであり、小生は歯が立ちそうも無いこの手の作品に出会った時は無理をせず流れに身を任せる。まず、ウエス・アンダーソン過ぎる映像を愉しめば良いのだ[exclamation&question]

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冒頭のモノクロ映像でしっかり説明してくれるのだが、本作は「劇中劇」の構成である。メインストーリーである「アステロイド・シティ」という演劇が進行しながら、舞台裏からそれを取材するテレビ番組が随所に挿入される。現実がモノクロ、演劇がカラー仕立てなので区別はできるが、この構成の意味する所がまず理解できない、嗚呼、これだけで混乱する[あせあせ(飛び散る汗)]

ともあれ、出演者の豪華かつ渋めのラインナップとアンダーソン流映像に目を奪われる。彼の初期作品から常連であるジェイソン・シュワルツマンが元戦場カメラマンのオギーとして主役を務める。オギーと束の間の恋に落ちる大女優ミッジにスカーレット・ヨハンセン、オギーの義父スタンリーにはトム・ハンクスだ。これまたアンダーソン組勢揃いという感じティルダ・スィントンが天文学者ヒッケンルーパー博士、エドワード・ノートンは劇作家コンラッドを、エイドリアン・ブロディはディレクターを演じる。007でお馴染みジェフリー・ライトは鬼将軍、蝿男ジェフ・ゴールドブラムはなんとエイリアン役で盛り上げる。他にもマット・ディロンやマヤ・ホーク、ブライアン・クランストン、etc.....

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これら名優たちを際立たせるのが、現実には有り得ない目眩く映像美だ。荒涼とした砂漠の黄色を主体に全てをハイキーなパステルカラーに振り切ったアンダーソン風の彩色やシントメリーな描写が非日常感を増幅させる。

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1950年代、世界を牽引する輝けるアメリカの能天気ぶりを炙り出す。繰り返される原爆実験が日常茶飯事となる狂気、「我が子こそ天才」と思い込む富裕層家庭の滑稽さをシニカルに描く。娘を連れて「天才ちびっ子オリンピック」の会場であるアステロイド・シティにやってきたオーギーではあるが、妻を亡くした虚無感に今も苛まされている。そしてマリリン・モンローを彷彿させる大女優とのうたかたの恋の過程を宇宙人襲来のドタバタと絡めて淡々と描くのが主題だ。だが、これはあくまでも創作であって、この演劇に出演する俳優や裏方達の現実がモノクロ映像で並行して描かれる。オギーを演じる男優ジョーンズ・ホール(シュワルツマン)と劇作家のコンラッド(ノートン)は人目を憚る恋仲なのだが、制作中にコンラッドが急死し、現実でもジョンは喪失感を味わい、演技のありように悩み苦しむ。そんな時、オギーの妻役で出演予定だったが出番が無くなった女優(マーゴット・ロビー[揺れるハート])と鉢合わせし、演技の大きなヒントを得る。まるで劇中の亡くなった妻の亡霊に出会ったように...

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変態監督の頭の中は到底理解出来ないのだが、全編を通して彼の過去の映画人達への深きリスペクトの溢れているとを感じざるを得ない。盟友ロマン・コッポラとの共同原案には、F・F・コッポラの作品を始めとした半世紀以上前の名作のオマージュが織り込まれている。著名映画人の2世や血縁者が本作には多く絡んでいる処に彼流の映画愛が迸る。
アンダーソン監督は決して観客に迎合しない。自分の表現方法について来れない一般人は全て置き去りにしてしまう。本作は、虚構からリアルを生み出す彼の創作手法そのままに、彼の偏った映画論・演技論を抑揚無く淡々と映像化した、まさにアンダーソンすぎる、理解にくい構成だと感じた。結局、大好きな監督だから解らなくても雰囲気だけで十分と自分を慰める小生だが、次作はもう少し常人向きにも作ってもらいたいのが本音かなぁ[あせあせ(飛び散る汗)]




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コメント 6

hagemaizo

先日は角川さん家の映画館が寒すぎて、途中退場してしまいましたが、今度こそ全編見るぞ。
この色使いを真似っこしたくなっている自分を抑えなくては。
by hagemaizo (2023-09-28 00:32) 

Labyrinth

へ 変態ですか~( ´艸`) つむじかぜさんがそうおっしゃるなら…!w 確かに!
パンフレット読んでもよくわからん ?(・_・?) ハテ?状態です。(大汗)

by Labyrinth (2023-09-28 01:42) 

よしあき・ギャラリー

これは新感覚ですね。@~@
by よしあき・ギャラリー (2023-09-28 06:12) 

つむじかぜ

> hagemaizo 樣
その誘惑に同感です!
角川家は寒すぎて文句言ったけど直っていないようですね。
困ったもんだ。
by つむじかぜ (2023-09-29 02:30) 

つむじかぜ

> Labyrinth 樣
小生も色んなレビューを読んでも???です。
私の言う変態とは、天才と同意の賞賛の意味でございます^^
by つむじかぜ (2023-09-29 02:44) 

つむじかぜ

> よしあき・ギャラリー 樣
Artは深すぎますなぁ〜
by つむじかぜ (2023-09-29 02:47)