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『高野豆腐店の春』 [上映中飲食禁止]

[かわいい]藤竜也が好き[かわいい]
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広島・尾道の下町で、職人かたぎの店主・高野辰雄(藤竜也)と一人娘・春(麻生久美子)が切り盛りする高野豆腐店。父娘は早朝から工場に入り、こだわりの大豆を使って丁寧に豆腐を作る日々を送っていたが、あるとき辰雄は医師から心臓の具合が悪いことを告げられる。離婚歴がある春のことを心配した辰雄は、娘の再婚相手を本人に内緒で探し始める。辰雄の友人たちの協力により、春はシェフの村上ショーン務(小林且弥)と食事をすることになるが、実は彼女には交際中の相手がいた。(シネマトゥデイより)

最近お目にかかる事がめっきり減った、胸がほっこりと温かくなる家族ドラマの佳作だ。ストーリー自体は目新しいものではないが、頑固親父が男手ひとりで育てた娘の再婚騒動に右往左往するという昭和の王道パターンに懐かしさを覚えてしまう。小津安二郎向田邦子が描いた日本の家族の姿とも重なるが、昭和の巨人に共通する時折人間の裏側まで見透かすような冷徹な視点は排除し、愚直に暖かい陽の光のみを取り込んだ作品作りだ。そしてロケ地の尾道といえば古い映画ファンには想いが募る大林映画の聖地でもあり、作品全体から昭和映画へのオマージュが溢れているのだ。

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高野豆腐は「こうやどうふ」ではなく「たかのとうふ」なのだ。高野豆腐店は堅物親父と一人娘の二人で切り盛りする町の小さな豆腐屋だ。日々繰り返される早朝からの豆腐作り、店舗での接客、父娘の当たり前の日常を受け入れていた父・辰雄だったが、地元の友人達に焚きつけられ、娘の将来を真剣に考え始める。商売の存続よりバツイチ娘の幸せをと、彼女の再婚計画が仲間達と進められて行く。

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地元の悪友達とのドタバタ劇が展開し、漸く理想の結婚相手が見つかり結婚秒読みと思われた矢先に、娘の春から「一緒になりたい人がいる」と告白される。辰雄も知るその人物は、彼がもっとも気に食わないタイプの男だった...そして...

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娘の再婚話と並行して、辰雄自身の老いらくの恋も描かれる典型的なホームドラマの展開だ。最近味わっていない安心感が何とも心地良くなってくる。その源泉は、藤竜也麻生久美子の魅力と演技力に尽きる。取り巻きの脇役人のコミカルな演技と対極にこの父娘の自然な振る舞いが心に沁みる。名優ほど演技を超越して「普通に魅せる」のだ。血の繋がらない父と娘の絆が押し付けがましくなく、すれ違う気持ちもリアルそのものだ。

実は昔から藤竜也の大ファンなのである。女優は古今東西、好きなタイプに推挙にいとまが無いのだが、惚れる男優は滅多にいない小生にとって別格の存在なのだ。初めて彼を知ったのは1978年のTVドラマ「大追跡」だ。当時の人気ドラマ「太陽にほえろ!」のコピーみたいな刑事モノで、加山雄三をボスに据え、藤竜也・沖雅也・柴田恭兵・長谷直美が部下を務める配役だった。

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酒と女が大好きな破天荒な刑事を演じる口髭の中年俳優に、高校生の小生は「渋いなぁ、このおっさん[exclamation×2]」と一目で憧れてしまった。当時の彼は映画俳優としての実績は既に十分だったが、この頃からお茶の間のテレビにも徐々に顔を出し始めていた。1981年の「プロハンター」で私の彼への想いは確実なものとなった。このドラマも松田優作の「探偵物語」の焼き直しのような作品なのだが、爽やかで華やかな草刈正雄とコンビを組む渋くてお茶目な藤竜也から目を離せない。



今では長老俳優3名の若かりし演技に笑いを隠せなくなるが、真っ白なTシャツに黄色のジャンパーを羽織り、サングラスをかけたまま横浜の繁華街を失踪する藤竜也の姿は際立っていた。そしてリバイバル上映されていた彼の出演映画を初めて観る。「愛のコリーダ」〜『芸術と猥褻』論争を起こした大島渚監督の問題作である。

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衝撃[がく~(落胆した顔)]だった。憧れの男優が、当時はボカシが入りまくりの映像ではあったが、局部モロだしで濃厚なラブシーンを頻繁に演じていたのだ。TVドラマでは見せない「雄の本能」の演技は18歳の青年には刺激的過ぎたが、彼の演技の熱量に感嘆し、憧れの想いに尊敬の念が加えられていった。吉行和子と共演した次作「愛の亡霊」で、それは確信に変わった。「こんなオッさんになりたい」と。
因みに彼の奥方は日活の大スター・芦川いづみだ。藤が無名時代に高嶺の花の芦川を口説き落とし、日活上層部の大反対を押し切ってゴールインした。当時のメディアには「格差婚」として大きく取り上げられたと云う。芦川は結婚を契機に人気絶頂のまま芸能界を引退し、その後一度も公式には姿を現さず藤を影で支え続けている。吉永小百合や原節子より芦川いづみ推しの小生は、女性の趣味が同様の彼に更に親近感と軽い嫉妬も覚えるのだった。

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以来40年近くが経過したが、彼は歳を重ねるごとに輝きと重厚さ双方を増して行き、邦画界には欠かせない存在になっていった。どんな役柄にもなり切れる技巧派の役者ではなく、役柄を自分の個性に重ねて人格を作る俳優だ。ゆえにストーリーに役が嵌った時は無敵だ。主役、脇役を問わず、彼の演技が醸し出す空気感は作品に自然な彩りを加えて行く。そして「男の色気に定年は無い」と世の壮年男性にエールを送ってくれるのだ。



齢82歳、彼の枯れない演技に久しぶりに触れて、今度は「こんな風に歳を取りたいな」と思うのだった。本筋からだいぶ脱線したが、自然と胸が温かくなり優しい気持ちになれる素敵な作品だった。昭和の爺婆に留まらず、多くの若い人たちにも見てもらいたい。


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よしあき・ギャラリー

いや実に、カッコイイです!
by よしあき・ギャラリー (2023-10-03 06:14) 

Labyrinth

つむじかぜさんの流麗な文章に座布団5枚♪ (^_^)ノ …伝わりました!
わたしは ボカシナシで拝見… ((((((((((((¬、¬) ススーゥ
by Labyrinth (2023-10-03 11:44) 

JUNKO

熱烈ファンの記事吸い込まれるように最後まで一気に読みました。
by JUNKO (2023-10-03 19:39) 

しゅん

歳を重ねるほど味のある俳優さんですね。それを表現する言葉に酔いました。ありがとうごさいます(^▽^)/
by しゅん (2023-10-04 06:15) 

つむじかぜ

> よしあき・ギャラリー 様
男が憧れる漢です^^
by つむじかぜ (2023-10-06 02:39) 

つむじかぜ

> Labyrinth 様
えっ、観たんですね、まさかアレを....( ̄▽ ̄)
by つむじかぜ (2023-10-06 02:41) 

つむじかぜ

> JUNKO 様
こんな爺さんになりたいのです^^
by つむじかぜ (2023-10-06 02:43) 

つむじかぜ

> しゅん 様
笠智衆みたいな枯れ方も素敵ですが、やはり
私は藤竜也に憧れてしまいます!

by つむじかぜ (2023-10-06 02:46)