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『愛にイナヅマ』 [上映中飲食禁止]

衝撃(笑撃)[ぴかぴか(新しい)]新感覚の家族ドラマの秀作[exclamation×2]

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良い役者[exclamation]切れるカメラ[exclamation]凄い脚本[exclamation]

新しい感覚に満ち溢れながら描くは邦画王道の人間愛なのだから非常に困る。久しぶりに目頭が熱くなり、この胸の高まりがずっと続くよう願ってしまうのだから。

26歳の折村花子(松岡茉優)は幼少時から夢見ていた映画監督デビューを控える中、空気は読めないが魅力的な男性・舘正夫(窪田正孝)と運命的な出会いを果たす。人生に明るい兆しが見え始めた矢先、彼女は無責任なプロデューサー(MEGUMI)にだまされ、報酬をもらえないまま企画を奪われる。卑劣な仕打ちに打ちのめされる花子だったが、正夫に励まされ、大切な夢を奪った理不尽な社会への反撃を誓う。そして正夫と共に、長らく疎遠だった父(佐藤浩市)と兄たち(池松壮亮、若葉竜也)のもとを訪れる。(シネマトゥデイより

物語は長引くコロナ自粛に日本人の心のあり様が少しづつ壊れ始めた最近の世相を下敷きに描かれて行く。高層ビルから飛び降り自殺を試みようとする男に群がる野次馬達。スマホを向けてはしゃぐ女子高生、「早く飛び降りろ!」とせきたてる男、警察に無事に確保され残念そうに解散する群衆に静かにカメラを向けていた花子(松岡茉優)は、自主映画界では名の売れた映画監督だ。ようやくメジャーデビューのチャンスを摘み、時代遅れの業界の慣習や能力の無いプロデューサー達に辟易しながらも自分を抑えて製作を急いだ。貧乏な彼女は金が必要だったし、自分の家族を題材にした今回の作品は必ずや自分の思う形に完成させたかった。だが彼女の類まれな洞察力・表現力は無能な業界人の理解の範疇を超えており、それが彼らには幼稚で非常識なアマチュアの評価になるのだった。

正男(窪田正孝)は既に誰も使わないアベノマスクをつけ、赤い自転車に乗って街を疾走する。食肉解体工場で黙々と肉を切り刻む単調な日々を送っているが、真面目に働き、友を大事にし、少しづつ金を貯めて正しく生きる事を旨としていた。彼の正義感は、時には空気の読めない変人として周りから見られるが、本人は一向に介さないのだった。

そんな二人が場末のバーで偶然に出会う。街中の撮影中に異彩を放っていた正男を見かけ、気になっていた花子は小躍りし、自ら彼に接近する。次第に酒が進み、社会の理不尽さを共有し合う二人が恋に落ちるのに時間は掛からなかった。小さな幸せのスタートを予感させるのも束の間、花子はプロデューサーに嵌められ撮影途中で監督を降ろされる。彼女が魂を込めた企画は能無しの助監督に奪われてしまう。一方、正男と同居していた役者志望の親友(仲野太賀)は唐突に自らの命を絶ってしまうのだった。

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花子と正男の出会いから挫折に至る序盤から石井ワールドに一気に引き込まれる。カメラワークが小気味よい。押しと引き、前景と背景の取り込みのセンスが秀逸で、今や名優の域に入った松岡茉優・窪田正孝の演技を一層際立たせている。二人の息遣いがそのまま聴こえるようだ。基本的にシビアな展開の中で、随所に笑いを忍ばせるセンスが抜群であり、観客の感情の振幅を大きくさせる脚本・演出が心憎いばかりだ。〈バーのマスター(芹澤 興人)最高[わーい(嬉しい顔)]昭和の邦画で、この絶望的な序盤ならば、終盤はドロドロの愛憎劇に落とすか大逆転の復讐劇で拍手喝采なのだが、今作が一筋縄で行かないのは後半の意外な展開で感動を呼び込む構成の巧みさにある[ぴかぴか(新しい)]
 
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稲妻走る嵐の中で、理不尽な社会への反撃を誓った二人が向かったのは花子の実家であった。変わり者同士の純愛物語から一転して、後半は不思議な家族の物語に引き継がれて行く。父・佐藤浩一、長男・池松壮亮、次男・若葉竜也の登場で雰囲気は一転、役者魂の激突に火花が散り、更にコメディ度も引き上がる。花子は盗用された映画を自身の手で作り直す為に実家に帰ったのだが、父は別の目的があって子供達を呼んでいたのだった。余命1年のガン宣告をされた父は、10年ぶりに集まった家族のひと時を味わううちに結局真実を隠し通そうとする。自分達を取り繕う形だけの家族団欒に業を煮やした正男は、持ち前の天然記念物的実直さで彼らの心に火をつけ、次第に彼らは「家族」を取り戻して行く。そして花子が幼少期に行方不明になった母の真実が明らかになり...

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シリアスとユーモアのブレンド具合が絶妙の演出に心躍る。練りに練られた言葉の応酬には字幕が欲しいと思わされるほどだ。そして個性豊かな俳優陣の魂の演技がスクリーンに叩きつけられ、圧倒的熱量に身を焦がされる。コロナ禍を通して一段と荒んだ日本の世相を冷徹に描き、自分を偽らずには生きられない日本人に送る風刺画だ。そんな理不尽な世界の中でも、大事な人を想う気持ちは不滅であると声高らかに歌う作品だ。テーマは純粋そのものながら、観せ方が示唆に富んでおり、感服、感激、久しぶりに涙腺が緩んでしまった。個人的趣向の今年度邦画ナンバー1はこれで決まり。エンディングに流れるエレファントカシマシ「ココロのままに」がやたらと沁みた[たらーっ(汗)][たらーっ(汗)]







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よしあき・ギャラリー

これは是非観たいです。
by よしあき・ギャラリー (2023-11-21 05:28) 

つむじかぜ

> よしあき・ギャラリー 様
あまり話題になっていませんが、後から評価が爆上がり確実の傑作です!
by つむじかぜ (2023-11-24 01:07)