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『三島由紀夫VS東大全共闘」 [上映中飲食禁止]

熱い映画だった...

「言葉の力を持たぬ為政者には、全く魅力を感じない」

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それは、国のトップであれ企業経営者であれ、身近な上司であれ、私の尊敬する人物の基準である。無論、その言葉を発した人物には同質の行動が求められる。古今東西、世に言うカリスマは、自らの「言葉と行動」で大衆を魅了し、扇動するのだ。
三島由紀夫は、言葉を巧みに操る文学者であると同時に、熱烈なる生き様を世に示した稀有な人物である。

三島を初めて知ったのは、小学校から帰宅直後にテレビに流れていた臨時ニュースだ。「有名な小説家が、自衛隊に立てこもって割腹自殺した」と、母が説明してくれた。平和な昭和の時代での「切腹」と言う行為に対し、子供心に異様な衝撃と何故か甘い憧れを抱いたのだった。

そんな彼の存在を忘れていた中学生時代、京都への修学旅行前にふと手にした本「金閣寺」。この観光案内でも歴史物でもなかった本格的な純文学の作者が三島由紀夫だった。怜悧な文体が描く甘美なエロティシズム、滅びゆく美へのとめどない憧憬に圧倒された。生まれて初めての「文学」との出会いだった。その後は、彼の作品を手当たり次第に読破し、高校生の頃には、ちょっとした三島文学マニアに成長していた。社会人になってからは、彼との距離は遠のいたが、業務レポートが少々変わっていると揶揄されるのは、未だに三島の文体からの影響を引き摺っているからと自己分析するのである。

久しぶりの三島由紀夫の映像に、まず、自分の青年時代の思い出が交錯して、懐かしさが込み上げる。そして、幼少期にうる覚えである大学紛争渦巻く「昭和の政治」に想いを馳せる。
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東大安田講堂事件の余韻が覚めやらぬ1969年5月、その主体であった全共闘東大生1,000名が待ち受ける駒場キャンパスに、一人の文学者が向かう。ノーベル文学賞を川端康成と争った東大OBの三島由紀夫は、徐々に右傾化を深め「楯の会」を結成、独自の国家論を持って行動する右翼として世間にもてはやされていた。1,000対1の公開討論会は静かに始まるのだった。
単純な左翼VS右翼の構図にはならない。学生達は、時代の寵児を論破し、自己の正当性を世に知らしめるべく躍起となって議論をけしかける。三島は決して虚勢を張らず、丁寧に時にユーモアを交えながら、自論を展開して行くのだ。全共闘一の論客と呼ばれる子連れの学生との対決では、お互いに煙草を吹かしながら、にこやかに言葉で殴り合う。東大IQを持ち合わせない小生には、議論の本質までは理解出来なかったが、この応酬は楽しかった。

右だろうと左だろうと、当時の国体をぶっ壊す「革命」を目指す点では同士である。三島が話す、「君たちが《天皇》と言ってくれれば共闘しても良い」と。熱く燃え滾る後輩達への慈愛と決して揺るがぬ愛国心。2時間余りの討論の最後に、こう述べて降壇した。

「言霊を残して去りたい。私は、諸君らの情熱を信じている。共闘は拒否する。」

映画の後半は、三島のその後と今に生きる元全共闘学生に触れる。この討論会の1年半後に、三島は壮絶な最期を遂げ、左翼学生達の闘争は徐々に内側に放射され、「あさま山荘事件」等の内ゲバへと変容し、社会から断絶されて行く。三島の死の意味は謎のままであり、全共闘の総括は未だにされていない。この国から「政治の季節」が終わって久しい。

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強大な国家権力に立ち向かう香港の学生達の映像を見ると、不謹慎ながら微笑ましく、かつ羨ましく感じるのは、半世紀前の日本の若者の圧倒的な熱量が、子供心に焼き付いているからに他ならない。

『言葉』が人をつき動し、政治を変え、より良き国に向かう。今、世界の至るところで、その端緒が見え始めている。さて、我が国はどうだろう。SNSの匿名投稿で芸能人批判するのが流行りの平和ボケニッポンで、国民の危機感が醸成されるには、まだ時間が掛かるのだろうか。目に見えぬ形で、ニッポンの病巣は拡がっている。コロナショックは、日本政治を変える絶好の機会である。とりあえず、『言葉』を持ち、行動が伴う政治家でも探すとしようか。今度の都知事選も行きますよ。

...ほとんど映画レビューになってませんな。
歳のせいか、最近、愚痴っぽくなっていけません。

金閣寺 (新潮文庫)

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