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映画『来る』〜小説「ぼぎわんが、来る」澤村伊智 [上映中飲食禁止]

けだるい夏の清涼剤にと、密林プライムでB級ホラー系と思しき映画を鑑賞...

来る

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  • メディア: Prime Video
予備知識ゼロだったが、驚愕の作品だった[どんっ(衝撃)]
キャストが、岡田准一・黒木華・妻夫木聡・松たか子・小松奈菜・青木崇高...と錚々たるメンバーが揃い、監督が中島哲也となれば、一筋縄で収まるわけがない。

オカルトライター・野崎のもとに相談者・田原が訪れた。最近身の回りで怪異な出来事が相次いで起きていると言う。野崎は、霊媒師の血をひくキャバ嬢・真琴とともに調査を始めるのだが、田原家に憑いている「何か」は想像をはるかに超えて強力なモノだった。エスカレートする霊的攻撃に、死傷者が続出。真琴の姉で日本最強の霊媒師・琴子の呼びかけで、日本中の霊媒師が田原家に集結し、「祓いの儀式」が始まろうとしていた…。

一見、幸せ溢れるサラリーマン家庭に忍び寄る未知の「恐ろしいモノ」。精神的に追い詰められていく夫婦(妻夫木・黒木)を助ける為、謎を解き明かそうと奔走するオカルトライター(岡田)とその恋人(小松)。芸達者な俳優陣が、ヒリヒリするような緊迫感を配役ごとに見事に演じられている。

中盤までに主役級の妻夫木、黒木夫妻が次々と惨殺され、以降は行方不明となった夫婦の一人娘を探す為、岡田・小松コンビが見えない敵に立ち向かう。だが、霊能力を持つキャバ嬢役の小松も瀕死の重体に陥り、満を持して、実姉であり日本屈指の霊媒師役として松たか子登場となる。日本中から選りすぐりの霊媒師が集められ、祓いの儀式が始まるが、瞬く間に次々と倒されていく。最後の一人となった松と「何か」との壮絶な戦いが繰り広げられる。一体、人に害する強大な呪いの正体とは、そして、この戦いの結末は如何に・・・

単なるホラー映画の域を超え、人間の本性を炙り出し、時代を超えた呪いの連鎖を描くサスペンスドラマの色調が強い。名作「リング」を彷彿させる、秀作だ。
映画評は、賛否両論のようだが、否定派の多くは原作小説との違和感を指摘するものが多かった。これは原作を読むしかない。

ぼぎわんが、来る 比嘉姉妹シリーズ (角川ホラー文庫)

ぼぎわんが、来る 比嘉姉妹シリーズ (角川ホラー文庫)

  • 作者: 澤村伊智
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2018/02/24
  • メディア: Kindle版




初見の作家である。今作がデビュー作で、いきなり2015年日本ホラー小説大賞を受賞した。
華麗な文体は駆使せず、難解な熟語も使用しない。話の先の展開を知りたい読者の肩を押すように、極めて軽くテンポよく読ませてくれる、非常に一気読みしやすい作品だ。3部構成で、1章ごとに一人称の当事者が変わっており、この視点が、リアルティを増幅させる効果になっているようだ。
既に映画を鑑賞しているので、実写版では割愛された部分や脚色で変更された設定などはすぐに気がつくのだが、決して違和感を感じるものでは無かった。当然のことながら、小説の方が、登場人物の深層心理や田原家の呪いの系譜が濃密に描かれており、作者の張り巡らせた仕掛けを理解しやすい。過去のサスペンス系の名作や地方伝承からの引用があるようだが、無理やりな筋合わせは感じられず、極めて自然な展開だ。但し、映画では「来る」モノの名前も姿を明示しないが、小説では題名の通りであり、文中でもその「ぼぎわん」姿を克明に描いている。多分、その本体を映像化すれば、半端なCGでは観る者の恐怖心を半減させたであろう。その点で、映画の演出効果は正しかったと思われる。松たか子の特殊メイクは苦笑モノだったが、小説を読めば、妻夫木聡の演技力の高さがより味わえるし、柴田理恵の迫力は特筆、子役も素晴らしさも実感できる。そして、何よりも人の心ほど恐ろしいものがないことを。
小説・映画どちらでも楽しめる、できれば両方から味わって「えも言われぬ恐ろしさ」を堪能したい”澤村ワールド”だ。
霊媒師・比嘉琴子(松たか子)と妹の真琴(小松奈菜)は、「比嘉姉妹シリーズ」として、その後刊行された3冊の小説でも活躍が続く。暫く、楽しめそうだ。




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