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『最後の決闘裁判』 [上映中飲食禁止]

男の本質を暴くリドリー・スコット驚愕の大復活作[exclamation×2]

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中世のフランスで、騎士カルージュ(マット・デイモン)の妻マルグリット(ジョディ・カマー)が、夫の旧友であるル・グリ(アダム・ドライヴァー)から暴力を受けたと訴える。事件の目撃者がいない中、無実を主張したル・グリはカルージュと決闘によって決着をつける「決闘裁判」を行うことに。勝者は全てを手にするが、敗者は決闘で助かったとしても死罪となり、マルグリットはもし夫が負ければ自らも偽証の罪で火あぶりになる。(シネマトゥデイより)

巨匠監督の感性が80歳を過ぎて突然覚醒したのだろうか?
「エイリアン」「ブレードランナー」「グラディエーター」「ブラックホーク・ダウン」などジャンルを超越して小生好みの名作を世に送り続けた稀代の映像作家が、新たな切り口で中世の史実を紐解く傑作を生み出した。

今作の舞台は中世ヨーロッパ・百年戦争時のフランスだ。そして、マット・デイモンアダム・ドライバーが騎士役で登場となれば、リドリー・スコットお得意の『漢のドラマ』〜蘇る「グラディエーター」の感動[exclamation×2]・・・と胸が高鳴ったのだが、それは自分の勝手な思い込みだった事を知る。これは『男の愚かさを高らかに謳った人間ドラマ』なのだ[むかっ(怒り)]

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英国との戦争で幾度も死線をさまよい、二人の兵士は親友の絆を深めていく。カルージュ(マット・デイモン)は、小領主の家系で家勢が衰えたとは言え、国王に忠誠を誓う誇り高き男だ。一方のル・グリ(アダム・ドライバー)は名も無き商家の生まれから従騎士に出世した野心溢れる英才だ。この地を治めるピエール伯(ベン・アフレック)は、粗野なカルージュを毛嫌いし、知性豊かなル・グリを可愛がり重用していた。貴族の一人娘マルグリット(ジョディ・カマー)と結婚したカルージュは経済的に恵まれたのも束の間、義父の税金滞納で大事な土地を奪われ、亡き父の後を継ぐはずだった軍長官の職にル・グリが就くことになる。ピエール伯の横暴な決定に憤ったカルージュは王朝に直訴するが、当然のごとく敗訴し、彼のかつての名声は地に堕ちてしまう。三年後、旧友の宴に招待されたカルージュはマルグリットに促され、久しぶりに公の席に出席する。その場で、溝が深まっていたル・グリと固い握手をかわし、ピエール伯に忠誠を誓うことで漸く名誉を回復するのだった。パーティの最中、マグリットを見つめるル・グリの熱い視線が、その後の悲劇を生むことになる。

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美貌と知性、内助の功までも併せ持つ逞しきマルグリットは新進女優のジョディ・カマー。TVドラマで人気を博したが、映画での大役は初めてだ。名優が演じる屈強の騎士二人に愛を注がれるが、一方で男の本能を露わにさせ、それに翻弄される数奇な運命を歩む女性を、内に秘めた熱き炎まで緻密に演じた。英国リヴァプール生まれのブロンド美人、一昔前の気品と色気を兼ね備えた女優の香り〜小生好みでございます[揺れるハート][揺れるハート][揺れるハート]美しき彼女の存在感が史実に基づくこの映画を華やかに魅せ、男の脆さと中世から現代にまで通じるジェンダーギャップまでを浮き彫りにさせた。

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カルージュが出張中に留守宅に訪れたル・グリは、募る想いをマグリットに打ち明ける。自信家である彼は人妻も同様の想いであると確信していたが、彼女に固辞されるや強姦に及び、家の幸福を願うなら口外せぬよう脅すのだった。男の支配欲を満たすのみに蹂躙されたマグリットは悩んだ挙句、帰還した夫に全てを話す。彼は本来なら自分が得る地位と財産を奪い、妻の貞節まで汚した元親友を訴えるのだった。自分の自尊心と家の名誉のために。そこには妻への労わりの欠片も無かった。

ここまでの過程がカルージュ、ル・グリ、マグリット3人の視点から順番に描かれていく。内容はほぼ同じなのだが、雑誌に載る「二つの絵の違い探し」の様な微妙な相違が各々の男女の感情の行き違いを窺わせる独特の演出になっており、それが本作の本質でもあるのだ。
訴訟は国王立会いの裁判にまで発展したが、ル・グリは一切の事実は無いと無実を主張し、マグリットと真っ向から対立、証人の居ない事件の裁定は暗礁に乗り上げる。カルージュは、何十年間行われていない『決闘裁判』での決着を直訴する。一対一の決闘での勝者が神託を得た正しき人間であるという12世紀まで使われた裁判なのである。「夫が負けた時、妻の貴女は裸で磔にされ生きたまま焼かれますが構わぬか?」の問いにマグリットは気丈に「はい」と答えるのであった。そう、彼女は妊娠しているのだった。

元親友同士の決闘シーンは壮絶そのもの、リドリー監督の面目躍如たる殺陣の極みだ。血を流し合う二人を虚ろに見つめるマグリットは何を思うか、ただ願うは生まれ来る我が子の命だけか。果たして神託を受ける者はどちらに...

小生が特に印象に残ったシーンがふたつある。
マグリットがル・グリに暴行された事実をカルージュに涙ながらに話した晩、「あいつをお前の最後の男にしない」と夫は無理やり妻をベッドに押し倒すのだった。
そして、訴訟後にカルージュの母が「何故、表沙汰にするのだ。私も若い頃あなたと同じ目に遭ったが自分だけの秘密にした」と責め立てた。マグリットが「その代償はなに?」と聞くと「今も穏やかに生きているわ」と冷たく答える義母。

『決闘』という『男らしさ』の象徴のような言葉に隠された滑稽なほどの男の愚かさを、あの「戦い好きな」リドリー・スコットが描き尽くした異色作だ。しかも現代の女性目線までも包含した主題は、中世から現代のme tooまで続く男女差別に激しく警鐘を鳴らしている。まさに凄惨かつドラマチックでありながら、情けない男達をブラックコメディ仕立てに祭り上げるという奇妙なバランスに富んだ本作は、近年際立った作品が少なかったリドリー監督の完全復帰作と言って良い。83歳にして恐るべし[がく~(落胆した顔)] レディ・ガガ主演「ハウス・オブ・グッチ」の公開も間近、こちらも楽しみだ。

結局、マグリットが宿した子の父がどちらかは謎のまま。やはり女は怖い、母は強しか、いやこの考えこそ女性差別か。全ての男が情けないのは先刻承知であるが、それでも小生は「女性の柔らかみ」と「脚線美」を追い求めてしまうスケベ昭和爺いなのでございます[かわいい]




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