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『TITANE/チタン』 [上映中飲食禁止]

久々の驚愕[exclamation×2] 異端の傑作[ぴかぴか(新しい)]

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幼いころ交通事故に遭い頭部にチタンプレートを埋め込まれたアレクシアは、それ以降車に対して異常なほどの執着心を示し、危険な衝動を抑えられなくなる。やがて行き場すら失った彼女は、10年前に息子が失踪し今は一人で暮らす消防士のヴィンセントと出会う。彼の保護を受けながら二人は一風変わった共同生活を始めるが、アレクシアの体にはある秘密があった。(シネマトゥデイより)

荒唐無稽なSFを日常に自然と溶け込ませる魔術[ぴかぴか(新しい)]昨年のカンヌ映画祭パルムドールに輝いたフランスのジュリア・ヂュクルノーが紡いだ映像絵巻は、まさに現代の地獄絵か[exclamation&question]ホラー・スプラッター系B級映画の奇天烈さが随所に押し出されているが、常にクライムアクション特有の張り詰めた緊張感に全体が覆われている。だが作品の本質は、倒錯した純愛の物語なのだ。

幼い頃の手術で頭部に金属を埋め込まれたアレクシアは、今はモーターショー専門のダンサーとして人気を博していた。肉体的な健康は取り戻してはいるが、術後以降、車に対して異常なまでの性欲を抱く体質になってしまう。映画内でのカーセックスのシーンは見慣れているが、「車との性交」映像は古今東西、初めてだ[がく~(落胆した顔)] 或る夜、ストーカーに付き纏われたアレクシアは発作的に彼を殺してしまう。その刹那、彼女の快楽殺人のスイッチが入る。頭の中のチタンプレートが、人間の温もりを嫌悪し排除せよと命令するのか、彼女は連続殺人鬼と化すのだ。

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未知の女優だが、アガド・ルセルが15禁ならではの見事な肢体で寡黙な殺人鬼を熱演だ。指名手配となったアレクシアは本能のまま逃亡を続ける。髪を剃り、自分の拳で顔を変形させ、尋ね人のビラから10年前に行方不明になった少年になり切るのだった。警察に保護されていた彼女は、少年の父親を名乗る謎の男に引き取られて行く。

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ヴァンサン・ランドラが主役同様に偏執的な父親ヴァンサンをリアルに演じる。消防隊長で多くの部下から心棒される彼だが、実は強靭な肉体を加齢から守るために覚醒剤を常習するナルシストだ。そして10年前に亡くなった息子が生きていると妄想し、探し続けていたのだ。中盤以降は、この狂った偽親子の感情の起伏と行動の変化が緻密かつ壮絶に描かれていく。

自分が妊娠していると知ったアレクシア。男親は当然「CAR」という設定だが、既に観客は自然にそれを受け入れてしまう演出の流れが凄い。胸と膨れた腹をガムテープで締め付けて必死に青年に成り切ろうとする彼女だが、結局、ヴァンサンに女性である事を知られてしまう。それでも「俺の息子だ」と彼女を固く抱き締める彼に、アレクシアは嫌悪感どころか今まで得た事のない安らぎと愛おしさに満ち溢れるのだった。

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臨月...モーターオイルと思しき黒い体液に塗れ、張り裂けそうな腹部から金属的な軋みが聞こえる。アレクシアの傍らには産気づき苦しむ彼女の手を固く握る父ヴァンサンの姿が。父は愛する息子(娘[ダッシュ(走り出すさま)])の赤子を必死の形相で取り上げる、と同時にこときれるアレクシア。父が抱き上げた赤ん坊の姿は・・・

SF世界での悪徳も不条理も、二人の異常なまでの愛の深さの前に霞んでしまうほどのリアリティーに胸が焦がれる。父親からの愛情を一切注がれなかった女性は、生身の人間から身も心も金属的な物質へと変身して行く。愛する息子を失った男は、子供が生きていると信じる妄想の中でしか生を実感できない。快楽殺人鬼のダンサーと薬漬けの狂乱親父が出会い、偽の親子から真の家族となった刹那、天から奇跡を与えられる。それは二人が追い求めた生の終焉であると共に家族の愛の物語が続くことを暗示する。

至高の愛の物語を驚愕の手法で表現したフランスの奇才に拍手喝采である。独特の様式美を纏った映像とロックビートの融合は心地良く、二人の俳優の研ぎ澄まされた演技によってストーリーの緊張感は半端ない。男装したレズビアンのアレクシアに、女装趣味のあったヴァンサンの亡き息子を重ねる部分はジェンダーレスを謳う現代を投影する。そして人間の性別を超越して金属との性愛まで具現化し、観客までも倒錯の世界に引き込みながら、最後は親子の愛情と生の喜びを高らかに謳い上げる美しき人間ドラマに精錬して行くのだ。ハリウッド映画では決して味わえない快感が嬉しい狂気の傑作であった[ぴかぴか(新しい)][ぴかぴか(新しい)][ぴかぴか(新しい)]




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