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『相撲道 サムライを継ぐ者たち』 [上映中飲食禁止]

TOHOHO系列がUA割とかで、一人@1,000円だったので会社帰りにフラリと・・・

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上映館も限られたドキュメンタリー映画である。
大手シネコンでは、6月以降しばらくの間、1席空けのコロナ仕様を実施していたが、先月中旬の「鬼滅の刃」公開から封印を解いた。但し、飲み物OK食事持込禁止というよく分からん条件付でだ。先日にカミさんと鬼滅を観た時は、場内は立錐の余地もない超満員だったが、小生の一番嫌う「ポップコーン」の匂いと咀嚼音が皆無であり、不快感なく鑑賞できた。昨今の映画館は、上映料金以上に飲食の売上が粗利を左右すると言われており、今回の措置は興行主も苦渋の決断であったろう。結局、鬼滅は記録破りの興行収入を打ち立てており、結果オーライといべきか、とりあえず映画業界にとっては久方ぶりの明るいニュースとなり、1映画ファンとしても嬉しい限りである。しかしながら、本作のようなマイナー作品となると、自主規制があろうとなかろうと、30席に1名のほぼ無観客試合状態なのだ。隣の鬼滅スクリーンは満員なのに...

閑散とした観客席なのだが、若い女性客が大半という不思議な雰囲気の中での鑑賞となった。意外や、今の相撲界は、うら若き熱狂的な女性ファンに支えられているのかも知れない。隠れデブ専ギャルが増えているのは、コロナ太りで日々成長中の小生としては密かに微笑んだのだが、この映画を観終わって、「単なるデブ」は対象外な事を自覚したのであった[もうやだ~(悲しい顔)]

相撲は究極の格闘技である・・・とは、小生の持論でもある。
何度も殴られ、叩きつけられても、血みどろで立ち上がる強靭なタフネスと防御力はプロレスラーだが、攻撃に関しては、力士の瞬間の破壊力に勝るものは存在しないと思う。神事相撲から武家相撲、勧進相撲という形態を通して、近代の相撲は日本古来の精神性を伴ったまま進化し、現在の国技たる大相撲となった。その為、相撲に携わる人間は、公私ともに武道家として、心技体の鍛錬を求められるのだ。

今作は、2019年の境川部屋と髙田川部屋に密着取材しての大相撲初のドキュメンタリーだ。冒頭の稽古風景から圧倒される。何度も言うが、ただの肥満では無い、鍛え抜かれた究極の肉体がデブなのだ[むかっ(怒り)]あの「股割り」の柔軟な肉体を持ちながら、200キロのバーベルを軽く挙げる怪力。延々と続く「申し合い」と、そしてイジメにしか見えないような「ぶつかり稽古」。これを毎日やれば、当然、強靭な肉体と精神力が身に付き、本場所での怪我にも強くなる。そう信じ、高みを目指す者は、究極まで自分の肉体を鍛えぬくのだ。

豪栄道・・・境川部屋の看板力士、大関である。怪我に悩ませられながら、8度のカド番を切り抜けた実力者だ。今年の初場所で負け越し、すでに引退しているが、本作では現役時での戦いを通じて、彼の人となりも濃密に描いている。

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「男を磨くなら境川部屋に行け」・・・各界では常識の話しらしい。徹底した規律の元、昔ながらの常識を超えた稽古を続ける。その試練を当然の如く受け入れる雰囲気がこの部屋にはあるようだ。凛とした稽古場・・・その中心が部屋の筆頭・豪栄道だ。右腕の筋を断裂しても、サポーターを巻かずに、本場所に臨む。「そんな事したら相手に弱点を教えるようなものだから」と、当たり前のように話す。男の中の漢だ。TV観戦してた頃は「大関のくせに、情けない負け方するなぁ〜だらしねぇ」など思っていたが、彼は命の限界まで戦っていたのだ。表面上や結果だけで、プロの勝負事を決めつけていけないと感じ入った。

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後半は、髙田川部屋の取材に代わる。ある意味、前述の境川とは対象的な相撲部屋だ。「2、3年前までは、うちも昔風に激しくやってたんですがね。パワハラになるでしょ、今は。」髙田川親方(元・安芸乃島)は和やかに話す。親方は、無為な根性論を振りかざさず、自らまわしを締め、直接に若手の指導に胸を出す。「今の子たちには、具体的に教えないと駄目ですからね。」充実した個室制度、栄養バランスを考慮した食事は、角界一と評判だ。この部屋の筆頭である竜電に脚光が当てられ、華やかな結婚式と新妻との楽しいやり取りが映し出される。明るい今風の好青年は、伸びやかな部屋の勢いそのまま、いざ本場所では闘神と化す。

日本古来の武道を守る現代の侍達の様々な姿をリアルに映し、大相撲の精神性の普遍的な支柱と時代の変遷と共に変わりゆくものを炙り出す。ただ、そんな講釈より、常人では命に関わるレベルの巨体同士のガチンコの激突を高精度カメラで見せられれば、この国技の計り知れないパワーに一発で感きわまる事、間違いなし。

この作品の取材時と、今の大相撲の状況は、コロナ禍によって大きく変わった。夏場所の中止から無観客興業を強いられた。この秋に新大関誕生という喜ばしいニュースと共に、ようやく土俵にも歓声が戻る形になってきた。但し、コロナ禍は、力士達の稽古にも影響が出ている。事実、今夏に高田川部屋ではクラスターが発生し、各界初の死亡者も発生した。出稽古は自粛となり、サムライ達の鍛錬度にも疑問符が付いていた。それと関連しているのか、2横綱、2大関が怪我による休場という、盛り上がりに欠ける11月場所が、現在進行している。

この史上最大の厄災を凌駕するサムライ達の真の闘いの復活を、一日も早く望む。

監督は、現役TBSプロデューサーの坂田栄治。「マツコの知らない世界」などを手掛けた。番組同様に、視聴者の興味へ変化球で攻めてくるカメラ目線が独自で楽しい。遠藤憲一のナレーションも秀逸である。




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