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『燃ゆる女の肖像』 [上映中飲食禁止]

        [黒ハート]狂おうしいほど激しく美しく精緻な恋愛映画の傑作[黒ハート]

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今年はコロナ禍により、海外作品の配給が不安定で、良作と巡り合う機会が減っていたが、漸く出逢えた珠玉の洋画[ぴかぴか(新しい)] 同性愛がモチーフの作品で、これ程までに胸が締め付けられたのは、小生は映画史上初であった。性別を超えた「人が愛しあう」素晴らしさを、ここまで濃密に描き尽くした恋愛映画を私は知らない。

18世紀のフランス・ブルターニュ地方。画家のマリアンヌ(ノエミ・メルラン)は貴族の娘エロイーズ(アデル・エネル)の見合いのため、彼女の肖像画を依頼される。しかし、エロイーズは結婚することを頑なに拒んでいた。マリアンヌは身分を伏せて孤島でエロイーズと過ごし、ひそかに彼女の肖像画にとりかかるが、マリアンヌの目的を知ったエロイーズは絵を見てその出来栄えを否定する...(シネマトウデイより)

中世を描く欧州映画特有の淡い色彩が、観る者を惹きつけ、これから始まるラブストーリーの儚さを予感させる。美術学校で教鞭を執るマリエンヌは、生徒からかつての自分の作品について問われ、彼女の短くも激しい愛の回想が始まる。

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フランスの孤島に在る古城に招待された女性画家マリアンヌは、そこに住む貴族の娘の肖像画の作成を依頼されていた。自ら命を落とした姉の代わりに、イタリア・ミラノの貴族と婚約した次女エロイーズの持参品である。以前の画家には、顔も見せなかった頑なな娘に、母親は散歩相手としてマリアンヌを紹介する。お互い笑顔を見せず、会話も弾まないが、島の海岸での散歩を重ね、二人は少しづつ距離を縮めていく。マリエンヌは、エロイーズをモデルとして一度も正対しないまま、イメージだけで肖像画を完成させて行く。約束の期限の最終日、マリエンヌは自分が画家である事を告げ、完成した絵を彼女に見せるが拒絶される。「これは私ではない。」と...

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マリエンヌは描き直しを志願し、母親が外出する5日間の猶予を貰う事になる。エロイーズも正式にモデルになることを了承し、女中ソフィーを加えた3人だけの濃密な時間が始まるのだった。すれ違っていた二人の気持ちと身体は、別れの時を受け入れながら一気に燃え上がり、魂の肖像画が完成に向かって行く...

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二人の感情の起伏の描写が誠に美しい。出会いから徐々に惹かれ合い、立場や階級を超えて、お互いの心のひだを少しづつ重ね合わせる様に、一時も目が離せなくなる。別れの時間が迫り来るのも知りつつ、いや知るからこそ、愛を確かめ合う二人の姿に胸が熱くなるのだ。印象派風の幻想的な撮影法やギリシャ神話の引用など多くの伏線が絡み合う演出が、生涯に残る刹那の愛の姿をさらに濃密にする。

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町の小さな祭りに出掛けた際、焚き火がエロイーズのスカートに燃え移ってしまう。夕闇に浮かび上がる愛する人の一瞬の美しき姿をマリエンヌは瞼に焼き付け、後日、冒頭の作品を描くのだ。

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別れの日。振り返らずに邸を出ようとするマリエンヌ。冥界から妻を取り戻したオルフェウスは、地上に戻る寸前に思わず振り返った為に、妻を失ってしまう...このギリシャ神話の本を、マリエンヌはエロイーズに贈っていたからだ。だが、結婚への決意を固めたエロイーズの「振り向いて!」の声に、彼女は声の主を探してしまう。そこには、婚礼用の白いドレスに包まれた愛する人が佇んでいた。愛は終わったと二人は確信し、それを受け入れたのだ。

女性監督しか表現できないであろう同性の細やかな心情の移ろいを、見事に演じきった二人の主役、ノエミ・メルランアデル・エネル。どちらも未見の女優だが、黒髪とブロンドの対比だけでも、小生はムフフであり、甲乙付け難い欧州美人である。ふたりの目力の演技が特筆ものだ。また装飾、美術が極めて歴史考察に忠実だ。ロケ地は実際の古城を使用、中世の衣装は手作りであり、多くの絵画は新進の現代画家が当時の手法で描いたものだ。このリアリティが、LGBTなどの言葉も無い時代下での、純粋なる同性愛を高らかに謳い上げる力となっている。また作中、女流画家の恵まれない環境や女中ソフィーの堕胎のシーンにも触れ、現代まで続く女性差別問題にも踏み込んだ、シアマ監督の強い意思が感じられる。そして何よりも、映画ファンには堪らない伏線の数々の演出センスの凄さに脱帽なのである。

ラストシーン〜コンサート会場で奇跡的に再会した二人。離れた席から目も合わさないエロイーズの頑なな表情が、動揺から徐々に、涙が溢れ、微笑を含み、穏やかに変わっていく。圧倒的な無言の演技[exclamation×2] オーケストラが奏でるのは、古城の小さなチェンバロでマリエンヌが弾いたヴィヴァルディ『四季』の夏である...
久しぶりに、こんなオッちゃんが涙腺ボロボロ、胸が張り裂けそうだ[もうやだ~(悲しい顔)] 
[ぴかぴか(新しい)]至高の名作[ぴかぴか(新しい)]である。



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