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40年前の『松田聖子』を聴く [歌姫列伝]

最近、アナログレコードを聴く。

大量のCDをデータ保存した後に売却したのだが、次はレコードも同様に処分するつもりだった。手元に残したいレコードを久しぶりに聴く為に、20年近く使用していたカートリッジ(針)を新品に交換してみた。

これが、なんだか良い音なんです[るんるん][るんるん][るんるん] もちろんCDほどクリアな音質ではないが、逆に音の混ざり加減が柔らかくて心地よい。思い切って安物のフォノイコライザーを購入してみたら、更に音場感が深くなって煌めいてきた。デジタル音とかハイレゾに慣れすぎた反動なのかもしれないが、多くのマニアがこうやってピュア・オーディア沼に嵌っていくんだな...と思いつつ昔のレコードを聴きまくっている。

Seiko・Index Master Sound

Seiko・Index Master Sound

  • アーティスト: 松田聖子
  • 出版社/メーカー: CBSソニー
  • メディア: LP Record

熱狂的な松田聖子ファンではないが、このCDはノリが良いので30年前からドライブ用に聴いていた。データ保存して売却したつもりだったが、気づいたら1曲しかハードディスクに残っていないではないか。諦めきれず結局、御茶ノ水の中古ショップでレコードを買ってしまった。
この作品は聖子の初期のベストアルバムだ。デビューシングルから8枚目までと当時の隠れた名曲が収録されている。小生が再購入に踏み切ったのは、小生の聖子ベストソングであるシングルカットされなかった2曲が高音質で録音されているからだ。(久しぶりにアップロードしてみた[かわいい]

『SQUALL』(1980年)


松田聖子デビューアルバム『SQUALL』からの表題曲。聖子の粗削りだが弾ける声質と大村雅朗のアレンジ、松原直樹のギターワークが光るロックテイスト溢れる名曲だ。

聖子の高音がCDほど耳に刺さらず気持ち良い。そして往年の昭和洋楽サウンドの暖かい音圧が胸に迫る。昭和最晩年の日本経済は平成バブルに向かってイケイケの状態だった。音楽・家電業界も同様のようで、SONYのウォークマンを筆頭に日本の高度な技術力が世界を席巻した。このアルバムを制作したCBS・ソニーは、録音技術に力を入れ、通常のレコードより高音質の「マスターシリーズ」を発売開始した。その1枚が今回購入したアルバムなのだ。アナログからデジタルへの移行期でもあり、各企業がしのぎを削り、最新技術に投資した。「より良いモノ創りを目指して一直線」の時代なのだ。

新人歌手の声質に一縷の可能性を感じたスタッフが、この田舎娘に大金を投じてデビューさせた訳で、今の時代ではあり得ないマーケティングプロモーションである。当アルバムの収録曲だけでも、三浦徳子・松本隆・財津和夫・松任谷正隆・大瀧詠一などの名だたるヒットメーカーが楽曲を手がけ、当時のスタジオミュージシャンの強者達がバックを務めている。

もう一曲は、大ヒット8枚目シングル曲「赤いスイートピー」のB面に収められた洒落た青春ソング。松本隆・荒井由実・松任谷正隆の手による珠玉の名曲。いつ聴いても高校卒業式での景色が目前に浮かんでくる[ぴかぴか(新しい)]

『制服』(1982年)


歌唱力、表現力ともにプロの領域には届いていないのは明白だが、無理なく突き抜ける高音は一度聞いたら忘れられない声質であり、後に「ぶりっ娘」と呼ばれた男を惹きつけるような少々「あざとい」歌い方はある意味、彼女の天賦の才だ。このダイヤの原石を各分野のプロフェッショナル達が腕によりをかけて磨き上げ、ショーケースに並べたような初期のベスト盤なのである。多様な楽曲を即座に「自分の唄」にしてしまう勘の良さと物怖じしないポジティブな姿勢が、その後、日本を代表するエンターテイナーへ彼女を押し上げたのも理解できる作品でもある。とにかく小生は、プロの手作り感溢れるサウンドと類稀なる聖子の美声との一体感が堪らなく好きだ。「みんなでトコトン良いモノ作って稼ぐぞぉ」的な80年代初期の音楽業界のパワーまでも、昭和の遺産ともいうべきアナログレコードを通して感じられる。

そう、考えてみたら、小生は松田聖子と同級生なんだよな。
最後は彼女のオフィシャルサイトから「青い珊瑚礁」の40年ぶりのセルフカバーを笑撃の最新映像[exclamation&question]還暦手前にしてこの弾けるエネルギー[exclamation]負けてられません[ぴかぴか(新しい)]




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『GROUPLOVE』で踊る! [偏愛カタルシス]

東京都23区の中では、小生の住む墨田区は非常に地味で存在感が薄い行政区である。スカイツリーができる前は、自分の居住地を説明する著名な目印なる物が無く、同じ都民でも理解されにくい地域だった。そんな地味な行政区が最近にわかに有名になった。コロナ接種券の配布が都内でいち早く完了したからである。

還暦前の小生夫婦の手元にも6月7日に届き、区内の施設で28日から予約開始との事。防衛庁での接種会場の方がガラ空きとの事でサイトにアクセスしたら、簡単に27日での予約が完了した。要するに、大規模会場を設置しても現場の役所の接種券の配布が遅く、64歳以下の接種が進んでいないのだ。まさに縦割り行政の連携の無さが露呈された。

近くに住む30歳の長男夫婦にも到着済みだが、台東区在住の長女夫婦宅には未だ未着だそうだ。墨田区には、区役所・保健所・医師会の連携を巧みに進める人材が存在したと思われ、普段は影の薄い墨田区民としては少々誇らしい気分ではある。だが一方で、居住地によって命に関わる行政の対応に格差がある事自体が大問題である。コロナ禍での様々な成功・失敗を真摯に受け止め、国・東京都・区は「次の時代」に備えなくてはならない。


さて、大量のCD断捨離中に、買った記憶の無いアルバムが何枚か発見された。売る前に一回くらいは聴いておこうと、とりあえずプレイヤーにかけたら、一気に引き込まれ、今やヘヴィロテのバンドになってしまった。

Spreading Rumours

Spreading Rumours

  • アーティスト: Grouplove
  • 出版社/メーカー: Atlantic
  • 発売日: 2013/09/24
  • メディア: CD
小生の苦手な打ち込み系を多用し、今風のデジタル処理しまくりなのだが、中核となる各楽器の演奏が生々しく、ビートはアナログ的な熱さに溢れている。更に男女の個性的なヴォーカルの掛け合いが楽曲に彩りを放ち、カラフルな音圧が渾然一体となって押し寄せて来るのだ。巷では「エレクトロ・ダンス・ポップ」と呼ばれているらしいが、昭和のロック爺いも踊りたくなる王道の「ロック」魂を感じるバンドなのである。

アルバム1曲目「I'm With You」


GROUPLOVE・・・2009年結成の男女英米混成の5人組のバンドで、現在LAを拠点に活動中。ギリシャ旅行中に偶然出会い、意気投合して楽曲制作を進め、そのままレコーディングしたデビューアルバムの一曲がipodのCMに使用され大ヒットを記録した奇跡みたいなバンドなのだ。小生の所持していたCDは、彼らの2ndアルバムだったのだが、即、1stと3rdアルバムを購入した。(CDを断捨離しながら新譜を買い足すこのジレンマ[がく~(落胆した顔)])3枚全てが極上の仕上がりの踊りまくりの爺いと化した[ぴかぴか(新しい)]そして、このバンドの魅力は、スタジオ録音以上にLIVE演奏のパフォーマンスが非常に高いことだ。

アルバム2曲目〜謎の「アリガトウ」連呼〜


Never Trust a Happy Song

Never Trust a Happy Song

  • アーティスト: Grouplove
  • 出版社/メーカー: Atlantic
  • 発売日: 2011/12/22
  • メディア: CD
BIG MESS

BIG MESS

  • アーティスト: GROUPLOVE
  • 出版社/メーカー: ATLAN
  • 発売日: 2016/09/09
  • メディア: CD


デビューアルバム〜3rdアルバムと楽曲が進化し、緻密度も増すが、極太のロック魂は変わらない。昨年発表された4thアルバム「HEALER」も悪く無いのだが、全3作の小生好みの音創りとは違和感を感じてしまう。調べると3rdまでプロデュースしていたドラマーのライアン・ラビンが脱退していた。彼は、小生の敬愛する伝説的プログレバンド『YES』の2代目ギタリスト、トレヴァー・ラビンの息子ではないか。世代は移ろっても、音楽の感性は引き継がれるなと妙に納得。彼らのデビュー直後の、当然オリジナルメンバーによる演奏は、粗削りだがやはり素晴らしい[るんるん][るんるん][るんるん]

小生お気に入り〜記念すべきデビュー盤の冒頭曲[ぴかぴか(新しい)]
[わーい(嬉しい顔)]暫くは年甲斐もなく、このバンドで踊りまくり[わーい(嬉しい顔)]

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『葵ちゃんはやらせてくれない』 [上映中飲食禁止]

この題名で「いまおかしんじ監督」と知れば行くしかない[パンチ]

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映画監督志望の男・信吾(松嵜翔平)の前に、1年前に自殺した映画研究部の先輩・川下さん(森岡龍)の幽霊が彼の命日に突然現れる。当時片思いをしていた大学時代の後輩・葵ちゃん(小槙まこ)とセックスがしたくて蘇ってきたのだという。そんな川下さんの願いを叶えるため、唯一のチャンスだったあの日に、川下さんと信吾はタイムスリップする。そこには懐かしい大学時代の葵ちゃんがいた……。(Movie Walkerより)

10年前に予備知識なしで『UNDERWATER LOVE -おんなの河童-を鑑賞して一発で痺れた。猥雑・ナンセンスの連続でお下品極まりないが、登場人物の魅力をストレートに捉えるカメラアイと随所に洒落た演出・音楽に引き込まれ、圧倒的な映画のパワーに打ちのめされた。「いまおかしんじ」というピンク映画出身の監督名が脳裏に焼き付いたのだった。

今作も期待以上であった。名も無き若者達を深掘りした映像は生々しく、慈愛に満ち、映画の持つ熱さが私の胸を焦がす。当然ながら、誰しもが好感を持てる作風ではない。ノリはほとんど昔懐かしい日活ロマンポルノであり、エロエロ容認のシャレの分かる大人限定作なのだ。

自主映画作りに打ち込んだ大学生活から約10年。リーダー的存在だった先輩・川下の葬式帰りに、久し振りに集まった当時の仲間達の会話から物語は始まる。卒業した川下は就職した会社をクビになり、その後、酒と博打に明け暮れ、精神病院に入退院を繰り返した挙句、車の中で練炭自殺を図ったという...それから1年後の彼の命日、映画監督を諦めバーのマスターに収まっていた慎吾の前に、パジャマ姿の川下の幽霊が現れる。想いを寄せていた葵とSEXしたいから手伝えと言う。二人が店のトイレの扉を開けると、そこは10年前の映画研究会の部室だった...

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このタイムスリップから一気にドタバタなエロチック・コメディに展開するが、学生達のむさ苦しいほど熱い息吹きがスクリーンから溢れてくる。今思えばあんなくだらない事にも必死になれた真っ直ぐな気持ち、皆それぞれが将来の夢や目の前の恋愛に真剣に立ち向かうのだ。彼らが製作していた「ゾンビバンド」の唄が耳に付いて離れない[るんるん][るんるん][るんるん]

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結局、葵ちゃんには「不発」で終わった川下さんは翌年の命日に、映画監督になった慎吾の元にまたしても現れる。その翌年にも、今度はホームレスに落ちぶれていた慎吾を誘い出すのだった。タイムスリップの時間軸とか難しい問題は、この映画に関しては詮索していけない。「コケの一年、岩をも通せない」川下さんの必死さと情けなさの対比を森岡龍がさり気なく演じており、この隠れた名優により作品のギャグ度は倍加し更に、マドンナ役である葵を演じる小槙まこの魅力が、かくも美しきピンク映画に昇華させている。

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彼女だけは昔からの歌手になる夢を諦めず、10年間、道端で弾き語りを続けている。歌も意外と上手いが、とにかく声が良い!この一見、清楚な雰囲気に見せつつ、葵ちゃんの濡れ場連発の体当たり演技に、爺じも久方ぶりに胸ときめかせるのだった[揺れるハート]

コロナ禍での本作の上映は意味深い。この約1年で生きる希望を失った人の数は計り知れず、帰らぬ道を選んだ者も少なくない。誰しも、生きる希望に満ち溢れた時の記憶を持っているはずなのに。幽霊になった川下さんが慎吾に自殺の理由を聞かれ、「ん〜、俺ってなんで死んじゃったのかなぁ?」と答える。ホームレスの慎吾と人影も無い駅前で歌っていた葵が手を繋いで走り出すのを、川下さんが歩道橋の上から眺め、ふたりを激励して映画は終わる。観る者を選ぶが、大傑作である[かわいい]

当作品は、緊急事態宣言の波に飲まれ、各都市のミニシアターで短期限定上映を繰り返している。今回も、東京では新宿シネマートでの1週間のみの上映である。興行収入は知れているだろう。それでも「いまおかしんじ」は、次も魅せてくれるはずだ。無名の熱き俳優を引き連れて、胸に響く傑作を!



こちらも小生好みの傑作[exclamation&question]


UNDERWATERLOVE~おんなの河童~ [DVD]

UNDERWATERLOVE~おんなの河童~ [DVD]

  • 出版社/メーカー: 紀伊國屋書店
  • 発売日: 2012/05/26
  • メディア: DVD

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『AJICO』再始動! [偏愛カタルシス]

[どんっ(衝撃)]20年の沈黙を破ってAJICOが再始動した[どんっ(衝撃)]

「地平線Ma」(2021年)


AJICO・・・2000年代の国内最強と小生が惚れ込んだロック・バンドである[るんるん][るんるん][るんるん]


UA(ヴォーカル)

浅井健一(ギター&ヴォーカル)

TOKIE(ベース)

椎野恭一(ドラムス)


各分野で活躍する名うてのミュージシャンが集まり2000年に結成し、フルアルバム「深緑」を発表。全国ツアーを各都市のライブハウス14カ所で行い、そのまま解散した伝説の音楽ユニットなのだ。残された音源は、前述のアルバム1枚とツアー内容を収録したライブ盤のみだ。

深緑

深緑

  • 出版社/メーカー: ビクターエンタテインメント
  • 発売日: 2001/02/07
  • メディア: CD
AJICO SHOW

AJICO SHOW

  • 出版社/メーカー: ビクターエンタテインメント
  • 発売日: 2001/07/25
  • メディア: CD
BLANKET JET CITYで若者を虜にした浅井健一(ベンジー)が一歩引いて、一人のギタリストとして、天才歌姫UAを或る時は優しく包み込み、或る時は激しく対峙する。それを支えるリズム隊のTOKIEのウッドベースは地を這い、椎名のドラムは常に正確かつ美しいテンポが音場感を作り出す。所謂、オルタナ系だが、JAZZのエッセンスを取り込み、浅井のギターは必要以上に歪ませず、各楽器の響きと切れを優先した「COOLなロック」である。しかし演奏自体はとんでもなく熱い。特にライブ盤でのインプロゼーションは別格で、全ての楽器が戦い、溶け合う様は、既存のロックバンドでは辿り着けない領域だ。ヴォーカルというものも、一つの楽器である事を認識させられた初めてのバンドでもある。

ライブ最後の曲が終わり「また、どっかで会おうぜ」とベンジーが嘯いて20年。今でも最前線で活躍し、演奏者としてはカリスマ的存在になりつつある4人が、今、集った。彼らの真意は分からぬが、長引くコロナ禍が引き金になったのは間違いなかろう。この1年の音楽業界の損失も測り知れない。それはミュージシャンに限定されず、音楽製作やライブ活動に関わる全ての人間の生活の糧を奪っていった。この苦境に、昨今、多くの著名なミュージシャンが立ち上がっているようだ。AJICO再結成も単なる自分達の営利目的だけの同窓会的な再結成でないのは、今までの彼らの足跡と今回発表された作品のレベルで推察出来る。

【Amazon.co.jp限定】EP 「接続」 [初回限定盤] [CD + DVD] (Amazon.co.jp限定特典 : メガジャケ 付)

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  • アーティスト: AJICO
  • 出版社/メーカー: ビクターエンタテインメント
  • 発売日: 2021/05/26
  • メディア: CD
4曲のEP盤ではあるが、紛れもなくAJICOの音だ。前作には無かったプログラミングを多用した楽曲が多いが、決して懐古主義に陥らず、最新の技術を取り入れる彼らの姿勢が感じられるし、とにかく楽器を聴けば、その演奏者は分かる幸福感。UAのヴォーカルは当然ながらも更に深みを増し、ギターのアルペジオのみでベンジーの勇姿が思い浮かぶ。COCCOのバックでも現役の椎名のドラムは気持ちのいいタムの入れ方で一耳瞭然だ。TOKIEのベースだけは聴き分け出来ないけど[あせあせ(飛び散る汗)]

今作の限定版が嬉しいのは、20年前のライブ映像がDVD化されている事だ。「AJICO SHOW」として当時売り出されたDVD(廃盤)は、全国ツアーの編集版で演奏が途中で切れる曲も多かったが、今回は新宿リキッドルームでの演奏がほぼ収録されているのだ。映像は当然古く、画質も良くないが、20年前の彼らの熱い息吹がそのまま感じられる。


「AJICO SHOW」から『深緑』(2001年)

BJCの名曲も彼らの手にかかると...『ぺピン』(2001年)


今月、再結成ライブも予定されている。行きたいなぁ〜でも密かなぁ〜行きたいなぁ〜と思っているうちにSOLDOUTでございました[もうやだ~(悲しい顔)]



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『街の上で』 [上映中飲食禁止]

緊急事態宣言、再々度延長の東京〜シネコンも何とか復活し始めたが、ミニシアター巡りを地道に続けている。

今日は新宿・シネマカリテへ。久しぶりのジュクでも歌舞伎町に飲みに行くわけでは無いので、違和感も恐怖心もまるで感じない。それよりも新宿駅に東西自由通路が出来て、ショートカット移動が可能になっていた事に驚いてしまった。これは昔を知る東京人にとっては画期的な事件だ。酔っ払って地下街をいくら徘徊しても新都心から歌舞伎町に辿り着かない苛立ちを、学生時代に何度も経験した。東京の街の変貌ぶりは承知しているが、新しいビルなんぞを建てるより、住民が便利になるこんなインフラの充実に力を入れるべきだ。開かずの踏切の高架化や電柱の地中化など、まだまだ東京には手つかずの課題が山盛りだ。

本題の本日の作品も素晴らしかった。下北沢を舞台にした若者達の日常を描いているのだが、小生のような昭和爺いには「今時の若者感性」が非常に新鮮に写り、なおかつ洒落た演出に微笑みが途切れることが無かった。これも「今の東京」だ[パンチ]


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下北沢の古着屋に勤務している荒川青(若葉竜也)は浮気されて振られた恋人を忘れることができなかった。ときどきライブに行ったりなじみの飲み屋に行ったり、ほとんど一人で行動している彼の生活は下北沢界隈で事足りていた。ある日、美大に通う女性監督から自主映画に出演しないかと誘われる。(シネマトゥデイより)

NHK朝ドラの常連ファンにとってデジャヴ的なキャスティングだ。前作「おちょやん」の杉咲花の初恋の人であり、終盤には井川遥と愛の逃避行する青年役で名を馳せた若葉竜也が主人公である。

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そして、おちょやんの亭主役で、地味な実力派若手俳優から一気にスターダムにのし上がった成田凌が友情出演して、小品に花を添えている。(二人はプライベートでも親友らしい)映画の撮影開始は朝ドラ以前のようで、結果的に、旬の男優出演のマイナー作品として公開されたわけだ。

力の抜け具合が絶妙。会話が楽し過ぎる。
一昔前なら「青年、シャキとせんかい!」と檄を飛ばしたくなるような主人公。決して自堕落なわけでは無い。決められた時間には仕事には行く。暇な古着店に勤めているが、店番として1日中、座って本を読んでいるだけだ。仕事が終われば地元をぶらついて、フラリとライブハウスやアングラ劇場に寄っていく。そして、いつものBARで酒を煽って帰る生活を繰り返す。行動範囲は下北沢を出る事は無い。彼女に浮気をされ、別れを切り出されて、逆に狼狽え、別れたくないと喚く。不思議と嫌悪感を覚えないのは、主人公が極めて真面目で優しい青年の設定であると共に、男性には珍しいアンニュイな雰囲気を若葉竜也が持っているからだ。
そして、彼を取り巻く女性達にも個性的な女優陣を配置し、若葉青年との各々のやり取りが今風の男女の機微を窺わせて、非常に楽しい。

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萩原みのり            中田青渚

【小生の好みは、チョイ役だったが、劇場で青にタバコを恵んであげる倉嶋かれん[揺れるハート]
会話がまるで噛み合わず、無言の時間が続いても、決して気まずいムードにならない。自分の想いや考えを正直に、相手に合わさずマイペースに話す。新しいタイプの漫才を観ている錯覚に陥るほど可笑しいのだ。特に、後半での関西弁をまくし立てる中田青渚とのお互いの打ち明け話には、頬が緩みっぱなしだ。さらに、初対面の彼女の家に夜中に誘われて、仲睦まじく会話を楽しんだ挙句に、お互い別々の部屋に寝るという、昭和爺じには信じられぬ行動[がく~(落胆した顔)]据膳食わぬは男の恥」と教えられた小生は「草食系にも程が有るじゃろぉ〜」と愕然とするのであった。
ラストは、朝ドラ俳優の成田凌と付き合っていた元カノ(穂志もえか)が、青とヨリを戻すのだが、ほとんどドタバタ喜劇風に展開する。まさに「朝ドラ」の原典である吉本新喜劇を東京風にお上品にアレンジした演出に拍手喝采[かわいい][かわいい][かわいい]

「朝ドラ」出演俳優の実生活をパロディ化したような洒落た映画に見える。だが本質は、東京で暮らす孤独な彼らの日常をリアルに炙り出した新感覚の作品だ。生活パターンも他人との関わり方、会話ひとつとっても、小生とは異次元の若者達。それが嫌みなく表現されており、とにかく新鮮に写り、「勉強になりました」という仕上がりである。作中、登場人物達の家族背景や仕事に打ち込む姿は全く描写されない。「家族と仕事の悩み」が無ければ、人間はこんなに気楽に自由に生きられるんだな、と羨ましく思ったりして...

下北沢は、小生が学生時代から小劇場やライブハウスが密集し、少々アングラ好きが集う街であった。今も昭和の香りの残しつつ、マニアックな若者の夢を飲み込んでいるようだ。往時の悩み無きつむじ風青年は、歌舞伎町のJAZZクラブ通いでしたが...[わーい(嬉しい顔)]






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