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『大河への道』 [上映中飲食禁止]

実は違う映画をNET予約したつもりだったのだが...
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中国映画を予約したつもりだったが、冒頭に江戸時代の武士が登場し、唐突に背広姿の中井貴一がスクリーンに映し出される。ようやく自分のミスに気づくが時すでに遅し。そのまま鑑賞することと腹を括ったが、途中から目が離せなくなり...観てよかったぁ、素晴らしい作品だった。

千葉県香取市役所では町おこしのため、日本初の実測地図を作った郷土の偉人・伊能忠敬を主役にした大河ドラマの制作プロジェクトを発足させる。ところが脚本作りの途中、忠敬は地図完成前に亡くなっていたという新事実が発覚し、プロジェクトチームはパニックに陥ってしまう。一方、江戸時代の1818年。忠敬は日本地図の完成を見ることなく世を去り、弟子たちは悲しみに暮れる中、師匠の志を継いで地図を完成させるため、壮大な作戦を開始する。(シネマトゥデイより)

原作が立川志の輔の創作落語という変わり種の作品だ。
伊能忠敬を大河ドラマに抜擢させるべき奔走する現代人の姿と、史実に基づいて江戸時代の忠敬を取り巻く人々の奮闘を並行して描く。現代と過去の時代の出演俳優が全く同じという古くて新しい手法を用いた事が、人間味溢れる原作を一層コミカルかつ感動的な作品に仕上げている。古典・新作を問わず「とことん笑わせて最後に泣かせる」という傑作人情噺のエッセンスをものの見事に取り込んで実写化した新しい視点の時代劇の佳作である。

本作には伊能忠敬は登場しない。我々が教科書で習った日本地図を初めて製作した偉人・伊能忠敬は、実は地図完成の3年前に亡くなっていたという史実がこの物語の骨格だ。地元出身の偉人を町おこしの為に大河ドラマに抜擢しようと奔走する市役所主任・池本と脚本家候補の加藤がその史実を紐解いて行く。
幕府から日本地図製作を命令されて14年が経過。だが、高齢の伊能は完成を目前に逝去する。膨大な資金を投入しているこの事業には幕府内にも反対者が多く、彼の死が露呈すれば中止になりかねない状況だった。伊能の後見人だった幕府天文方の高橋景保は、彼の死を隠したまま、多くの門人達と共に大事業を完遂させる事を誓うのだった。だがそれには、多くの困難が待ち受けており...

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小生と同じく還暦となった中井貴一。昭和最後の名作テレビドラマ「ふぞろいの林檎たち」(1983年)での生真面目で不器用なキャラクターが素の本人の個性だと思うのだが、芸歴40年、今やどんな役柄もこなす名俳優の域に達してきている。志の輔の落語に惚れ込み、本作の企画を立ち上げた張本人でもあり、彼の静かなる気迫がスクリーンから迸っている気がする。やはり彼の真骨頂は時代劇であり、無骨で一本気な侍が似合う。

松山ケンイチ、西村まさ彦、橋爪功らの熟練俳優も現代と江戸時代の二役を見事に演じ脇を固め、着物が似合う女優陣が花を添える。特に久しぶりに観る凛とした北川景子は魅力的だ。

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当然、笑いどころは満載であるが、原作が落語ゆえに下品なギャグは皆無の正統な喜劇に仕上がっているのが心地良い。終盤は、幕府内の反体制派から間者が送られるが、秘密が露呈する寸前に地図が完成する。将軍に17年間の集大成を献上する為に登城した高橋が、幕閣らから伊能忠敬の不在を詰問され窮地に陥るのだが、ここからの侍・中井貴一の言上が涙を誘い、大団円へと[exclamation×2]

「廃れ行く時代劇を様々な垣根を超えて鑑賞しやすい映画にしたい」・・・本作の企画を持ち込んだ中井貴一の狙いは、ほぼ達せられた作品の出来栄えだと思う。日本人のアイデンティティを呼び起こした時代劇の名作は過去には多いが、最近は骨太かつ時代考証に忠実な作品ほど興行面では成功しなくなったようだ。藤沢周平や浅田次郎原作の実写版はヒット作の定番だが、年配者中心の限られた客層に支えられているのが現実だ。Z世代や中高生をも惹き込むには、製作側の斬新な企画力と柔軟な姿勢がより求められる時代なのだろう。「るろうに剣心」や三谷幸喜・大河ドラマの魅力は、そんなところかも知れ得ない。

本作も既存の時代劇の潮流に挑戦した作品だ。特に時代劇ながら殺陣(チャンバラ)無しのストーリーは緊張感の持続が困難のはずだが、緻密な脚本(森下佳子)と俳優陣の熱演によって創作落語の魅力をものの見事に映像化した。あと一人、女性受けする若手男優を起用し、前宣伝に力を入れればもう少しヒットするだろうが...少々残念。
頑張れ松竹[exclamation×2]





それにしても観たい映画を間違えるとは...

ボケるのはちと早いと思いつつ

怪我の功名で素敵な作品に出会えて良しとするかな[あせあせ(飛び散る汗)]


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