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『犬王』 [上映中飲食禁止]

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室町時代の京の都、猿楽一座に一人の子供が生まれ犬王と名付けられる。その異様な風貌を隠すように面をかぶせられた犬王は、ある日、呪いにより盲目となった琵琶法師の少年・友魚と出会う。壮絶な運命を生きてきた二人は、歌と舞を披露し合うことで、互いに名乗らずともたちまち意気投合する。過酷な世を生き抜くため、相棒となった二人は互いの才能を刺激し合い、唯一無二の表現者として一時代を築いていく。(シネマトゥデイより)

異色アニメと呼べばそれまでだが、小生の感性にストライクど真ん中の胸躍る作品だ。南北朝時代に実在した能楽師「犬王」と若き琵琶法師「友魚(ともな)」が、旧来の能楽を打ち破る芸能世界を産み出した一端を描く。
当時は世阿弥と双璧と言われた犬王だが、残された作品が何一つなく、時代の経過と共に忘れ去られた存在となった。その謎の能楽師に光を当て、あらん限りの想像力で人物像を炙り出し、その芸術性を現代風にかつ飛躍的にアニメーションで表現した。奇才・湯浅政明監督の本領発揮だ。

滅亡した平家の怨念を受けた二人の青年が邂逅し、市井の人々を熱狂させる新しい能楽を創り出す。盲目の琵琶法師・友魚に森山未來、異形の猿楽師・犬王にアヴちゃんという異色のキャステイングが、『室町ロック・オペラ』ともいうべき華麗な音楽絵巻を際立たせた。友魚が爪弾く琵琶の枯れた音色が次第に熱を帯び、いつしかベースとドラムスがリズムを刻み出し、ビート感剥き出しの骨太ロックに変貌して行き、それに合わせて見事なブレイクダンスを披露する犬王。有り得ない演出なのだが、私はこの1曲で完全に虜になった。




音楽は前衛音楽家である大友良英が監修、「あまちゃん」のテーマソングからフリージャズまで多彩な作品作りに定評があるが、今回は600年の時代を超越する和製ロックを生んだ。小生と同年代である大友氏は多分にザ・フーの名作ロックオペラ「Tommy(1969年)」が脳髄に染み付いているのかも知れない。

場所は変わって、清水寺で大観衆を前に熱唱する犬王。小生はアヴちゃんも彼のバンドの「女王蜂」も知らなかった昔気質のロック爺いだが、このヴォーカルは凄い[むかっ(怒り)]クィーンの「We Will Rock You」のパクリは承知だが、アヴちゃんの歌はホンモノだ。





「平家物語」と室町時代の時代背景に多少の造詣が無いと、物語の展開に合点がいかない向きもあるかもしれない。だが、それ抜きでも余りある映像と音楽の融合は、現代の若者をも唸らさせるパワーと美しさに満ち溢れている。小説の方は未読だが、原作のイメージを荒唐無稽に膨らまさせて映画化しているのは間違いなく、二人の固い友情やこの時代の無常感までは描き切れていないかも知れない。映像と音楽が強烈過ぎるゆえだが、小生は大満足のロック・オペラ・アニメであった。
日本中を熱狂の渦に巻き込んだ二人は次第に幕府の権勢まで脅かし、政争に巻き込まれて行く。そして人気絶頂で二人は袂を別ち、友魚は六条河原で斬首され、犬王は新作を封印して幕府お抱えの猿楽師として生き永られる。諸行無常、此処に或り。されど600年後、現代で二人は再び相まみえる...

[るんるん]大スクリーンでこそ味わうべき極上のロック・オペラ[るんるん]



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