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アルゲリッチを聴く [上映中飲食禁止]

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生アルゲリッチに初めて触れる[exclamation×2]

Classic音痴の小生だが、コロナ禍の2年間ですっかりマルタ・アルゲリッチのファンになってしまった。その彼女が、コロナ自粛明け早々に我が地元・錦糸町のトリフォニー・ホールで来日コンサートを開催するという。当然の如くS席一枚を地元特典の墨田区民割引で購入し、先週末に行ってきた。

マルタ・アルゲリッチ・・・アルゼンチン出身の世界でも著名なピアニストの一人だ。御歳80歳、半世紀以上をまさに世界を股にかけてクラシック界を牽引した女帝的な存在なのだ。黒髪の天才美少女として19歳でプロデビュー以来、自由奔放かつ激烈な性格は数々の名演と私生活での伝説を作り上げて行った。3度の離婚やショパンコンクール審査員辞退の件は業界内では有名な話らしい。

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彼女を知ったきっかけは、長女に勧められた『のだめカンタービレ』にハマって劇中の「ショパン・ピアノ協奏曲第一番」に触れた時だ。ストーリー展開と共に、この楽曲の壮大かつ美しい調べが気に入り、原曲の名演と呼ばれるCDをとりあえず購入してみたのだが...

ショパン&リスト:ピアノ協奏曲第1番

ショパン&リスト:ピアノ協奏曲第1番

  • アーティスト: マルタ・アルゲリッチ
  • 出版社/メーカー: Universal Music
  • 発売日: 2016/09/07
  • メディア: CD
元々は映画内での中国人ピアニスト・ラン・ランの一部分の演奏で十分に心に響いたのだが、このCDで全演奏を聴き終えた頃には「音楽の真髄」に少し触れた気がしたのだ、Classic素人の私が。1968年録音、20代半ばのアルゲリッチの溢れ出るリリシズム。技巧的な部分は小生には判別が付かないが、彼女の柔らかくも芯の強い「タッチ」が心地よくて堪らない。古い録音のはずだが、音が輝いている。指揮者アバドが生み出すロンドンフィルの音のうねりと彼女の生命の発露が溶け合い、荘厳な世界を作り出す。それ以降、彼女のCD、レコードを中古で買い漁っては聞き齧っていた。その彼女の生の演奏が聴けるなんて...往年の勢いはないかも知れないが胸が躍る。

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アルゲリッチ&フレンド〜辻彩奈(ヴァイオリン)と酒井茜(ピアノ)を加えた3人による競演である。アルゲリッチと酒井が信望していたヴァイオリニストのイヴリー・ギトリス(2020年末没・享年98歳)を偲ぶと共に彼の生誕100年を記念してのオマージュ演奏会なのである。
演奏プログラムを見て少々不安になる。パガニーニという名前以外はほとんどの作曲家も楽曲も知らない。難解な曲ばかりで爆睡するわけもいかないと満席の会場を見回したが、杞憂に終わった。最初のヴァイオリンソナタから夢の世界に直行だ[ぴかぴか(新しい)]辻が弾く1748年のイタリア製ヴァイオリンの音色が何処までも滑らかに伸び、普通なら軋むような超高音域も儚い渇きを帯びて心地良い。名器とは名人と出会って初めてその真価を魅せることを実感する。そして何度も聴き込んだアルゲリッチのタッチから生まれるピアノの響きと溶け合って行く。本来はヴァイオリン主役の楽曲だが、伴奏に回るアルゲリッチの旋律の存在感により、対等なデュオという様相だ。時に優しく時に激しく、二人の奏者が楽器を通して語り合う。孫ほど歳の離れた若きヴァイオリニストを引き立てつつ、ピアノソロパートでは煌めく旋律で会場全体を酔わせる。年齢相応の枯れた演奏ではなく、いまだに瑞々しさに溢れた演奏に驚愕しつつも、あっという間に夢心地になる。

休憩後の酒井が進行役を務めたトークショーは、笑いを誘うほど噛み合わなかったが、アルゲリッチのギトリスへの想いを感じるには十分であったと共に、彼女の「我が道を行く」性格まで垣間見れた。後半は、辻のソロ、二人のピアニストの競演、予定外のアルゲリッチのソロ、再度の辻とアルゲリッチのデュオと短い楽曲が続き、最後に酒井のソロピアノで幕を閉じた。2台のピアノでの演奏は「フリージャズ」的な展開には度肝を抜かれながら、奏者の生み出す響きの違いに音楽の奥深さを再認識してしまった。アルゲリッチの音は、強く激しく明確でありつつ空気に溶け込む柔らかさを持っている気がするのだ。「愛の悲しみ」は今回のプログラムで唯一、聴き覚えのある美しい旋律のヴァイオリン楽曲だったが、今日の二人の演奏は別次元で心に沁みた。

全プログラム終了し、満場の拍手喝采の中で辻と酒井がステージに現れ立礼を繰り返す。高齢のアルゲリッチは大事を取ってもうお休みかなと思っていたら、3度目の登壇で遂に彼女も現れ2曲のリクエストに応える大サービス、酒井とのモーツァルトの連弾で最後を締めた。アルゲリッチ本人からすれば気楽なコンサートの部類だったろう。フルオーケストラをバックにしたピアノ協奏曲でも2時間を超えるソロピアノでもない。だが短い楽曲の中での研ぎ澄まされた鍵盤の調べはまさしく彼女の音だった。夢のようなコンサートだった。爆音のエレキ・ギターは五臓六腑に響いて最高だが、たまにはクラシックの一流プロの生演奏もいいなぁ、沁みるなぁ[ぴかぴか(新しい)]

1965年 ショパンコンクール優勝時の演奏〜まさにミューズ(女神)[黒ハート]



2021年 フランクのヴァイオリンソナタ(当日のプログラム1曲目)
まさに女帝[がく~(落胆した顔)]


彼女(辻彩奈)のVnの音色も素敵だった[かわいい]



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